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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
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第四百七十五夜 おっちゃんと悪魔エンヘル(後編)

 ダニエルが独り、岩場で赤ワインを飲んでいた。

「ちょうど良いところに、御爺さんがいるわ。あの人を審判にして勝負よ」

 おっちゃんはダニエルの許に駆け寄る。

「御爺さん、これから、あの人と交互に歌を歌うから、どっちが上手いか判定して」

「いいよ」とダニエルは穏やかな顔で告げる。


 エンヘルが咳払いをして、自信のある態度で告げる。

「では、まず俺からだ」

 エンヘルが声も高らかに神々を称える詩を歌う。エンヘルの詩は今まで聞いたどんな吟遊詩人の詩より、上手かった。


(さすが、伝説の詩人と張り合った悪魔や。ええ声をしとるの。これは、まともに歌唱力で勝負したら、バルスベリーの街の詩人だと、勝負にならんで)

 エンヘルの歌が上手かったが、耳の悪いダニエルは渋い顔で聞いていた。


 エンヘルが歌い終わったので、おっちゃんは告げる。

「なかなか、やるわね。次は私よ」

 おっちゃんが『トウモロコシの詩』を歌うと、ダニエルがにこにこしながら聞く。

 おっちゃんは歌い終わったので、ダニエルに訊く。

「どっちの歌が上手かった」


「こっち」とダニエル優しい顔で、おっちゃんを指さした。

「なら、私の勝ちね」


 おっちゃんは勝ち誇った。

「待て」と、エンヘルは異を唱えた。エンヘルが顔を歪める。

「どうも、おかしいぞ。さては、お前ら、グルだろう。もう一度だ」


 おっちゃんは動じない。自信たっぷりな態度で応じる。

「いいわよ。でも、何度やっても、一緒よ」

 エンヘルは空中で宙返りをするとおっちゃんと同じ姿になる。その場で、腕を組んで軽く踊るように回転する。


 ダニエルから見て、どっちがおっちゃんでどっちがエンヘルか区別できないようになったところで、回転を止める。

 エンヘルが、おっちゃんと同じ『トウモロコシの詩』を歌う。


 おっちゃんは黙って、エンヘルの歌を聴く。

(歌は上手い。だけど、それだけやな。アンナになりきれていない。それでは、ダニエルはんの心は動かないで)

 エンヘルが歌い終わったので、おっちゃんが『トウモロコシの詩』を歌う。


 歌い終わったところで、エンヘルがダニエルに尋ねる。

「どう、御爺さん? どっちの歌が上手かった?」

「こっち」とダニエルが、おっちゃんを指差す。


 おっちゃんは胸を張って言い放つ。

「どう、わかった。これが現実よ」

 エンヘルが怒った。

「俺のほうが上手い。お前の歌は音程が外れている」


「わかってないわね。貴方は技術で歌っているに過ぎないのよ。貴方の歌には心がないの。だから、御爺さんの心に響かないのよ。詩は技術で歌うものじゃないのよ。心で歌うものなの」

 エンヘルは、おっちゃんの術中に(はま)っていた。

(残念やなエンヘルはん。わいと同じく、アンナの姿になった時点で勝負は着いた。これは歌唱力対決やない。物真似合戦や)


 歌唱力対決なら、おっちゃんに勝ち目はなかった。だが、物真似合戦なら、負ける気はしなかった。

 エンヘルは、なおも負けを認めなかった。

「よし、わかった。なら、もう一勝負だ」

「いいわよ。でも、私は二回も勝っているわ。もし、次の勝負でまた勝ったら、『夜更かしリュート』を勝った(あかし)に貰うわよ」


 エンヘルは一瞬、怯んだ。だが、自棄(やけ)だとばかりに大声で確約した。

「いいだろう。次に俺が負けたら『夜更かしリュート』をやるよ」

「わかった、なら、勝負よ」


 エンヘルとおっちゃんが街に向かって歩いて行く。

 向こうからセサルが何食わぬ顔で歩いて来た。

 エンヘル明るい表情でにこにこした顔のセサルに話し掛ける。

「お兄さん、ちょっと、お願いがあるの。私とあの子、どっちの歌が上手いか、判定してほしいの」

「いいですよ」とセサルは穏やかな顔で告げる。


 エンヘルが先ほど同じく見事に『トウモロコシの詩』を披露する。

 次いで、おっちゃんが同じように『トウモロコシの詩』を披露(ひろう)する。


 セサルが考える仕草をする。

「最初のお嬢さんのほうが、歌唱力がありますね」

 エンヘルが顔を輝かせる。だが、セサルは、そこで残念そうな顔をする。

「ですが、歌唱力だけの気がします。詩に心がありません」


 エンヘルの顔がショックで歪んだ。

 セサルが評論家の顔で言葉を続ける。

「それに比べて、二人目のお嬢さんのほうは、詩に愛を感じました。『トウモロコシの詩』の本質を掴んでいます」


 エンヘルが青い顔で、喰い下がる。

「でも、私のほうが上手いわよ」

 セサルが残念そうな顔で首を横に振る。

「詩は技術だけでは語れません。総合すれば、二人目のお嬢さんのほうが上手いと判断できますね。詩は心です」


 おっちゃんは高見からエンヘルを見下ろす顔をする。

 エンヘルはがっくりと落ち込んだ。

「三度だ。三度も続けて負けたのなら、俺が未熟だったのだろう。カルメロスの最後の弟子の孫よ。約束だ。『夜更かしリュート』はお前にやる」


 エンヘルの姿が煙のように消えた。後には『夜更かしリュート』が残った。

 用心のために、セサルとは言葉を交わさず、その場は『夜更かしリュート』を手にして別れる。

 宿屋に戻って元の姿に戻って、冒険者の酒場で待っていると、セサルがダニエルを連れて戻ってきた。


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