第四百六十五夜 おっちゃんと行方不明の子供(中編)
セサルはミゲルが帰ると、昼食を摂るためか、母屋に戻ってきた。セサルは一時間ほどして、杖を持ち、山歩きの格好で家から出てきた。
セサルが出掛けるのを見計らって家の周囲を探る。家の裏口に地面から五十㎝の高さにある小窓を発見した。
中を覗くと、光る魔法陣の上に一人の悪魔が暇そうに座っていた。
悪魔の姿は子供の教えてくれた通りだった。
(おったで。悪魔型モンスターのモスフェウスや)
おっちゃんが見ていると、モスフェウスが振り返る。
モスフェウスとおっちゃんは眼が合った。モスフェウスはおっちゃんを見ると手招きする。
敵意はなそうだったので、蛇に姿を変えて、小窓から侵入する。
おっちゃんはモスフェウスの前に行くと、人間の姿に戻った。
モスフェウスは感心した顔で、おっちゃんを褒めた。
「俺を怖がらないとは、よほどの馬鹿か、度胸のある奴だな。どちらにしろ俺はそういう奴は好きだ」
「お褒めに与り恐縮です。わいは、おっちゃんいう冒険者でして、行方不明になった子供を捜しています」
モスフェウスは顎に手をやって、じっと、おっちゃんを凝視する。
「おっちゃん、だと。お前と会うのは、二度目だな」
「ひょっとして。シバルツカンドでお会いしました?」
モスフェウスがニコニコする。
「そうそう、シバルツカンドのアントンの家の地下室で会ったな」
「あの時は、色々と教えてくれて、ありがとうございました」
モスフェウスはサバサバした態度で、簡単に言ってのけた。
「別に、いいってことよ。そんで、次は行方不明になった子供の行方を知りたいんだってな。だったら、諦めろ。子供は俺が美味しくいただいた」
「またまた、そんな冗談を言って。そんなんで、騙されませんよ」
モスフェウスが眼を細めて邪悪な笑みを浮かべる。
「冗談ではない。本当だ」
「子供を食べたにしては、血の臭いがしない。それに、子供を食べても、服や靴は食べませんやろう。服や靴が残っていない状況はおかしいですわ」
モスフェウスは素っ気ない態度で、あっさりと発言する。
「靴や服はセサルが始末した」
「ほな、『物品感知』で捜してみても、ええですか? この家には子供はいないようやから、子供の服や靴が出たら信じます」
モスフェウスは面白くなさそうな顔をする。
「なんだ、つまらん奴だな。もっと、深刻そうな顔をして、よさそうなものだぞ」
「それは、深刻な時が来たら深刻な顔をしますわ。それで、子供はどこにいますの?」
「ここにはいないよ」
「なら、どこにおりますの?」
モスフェウスは軽い調子で訊き返す。
「教えないとダメか?」
「ダメってことはないですけど、教えてくれると助かりますわ」
モスフェウスは淡々とした顔で、釘を刺した。
「いいけど、タダでは教えられないね。セサルは、きちんと貢ぎ物を差し出してから質問したぞ」
「ほな、銀貨三枚で教えてもらって、ええですか?」
モスフェウスは表情を歪めた。
「随分と安いな。もっと、こう、なんか豪華な生贄とかないのか?」
「わいは貧乏ですからねえ。そんな、豪華なもの出せませんわ」
モスフェウスは気楽な調子で譲歩した。
「なら、いいよ。三万ダンジョン・コインに負けてやるよ」
「では、それで、ええです」
モスフェウスが緑色の紙切れを出したので、おっちゃんは額を確認して、サインする。
紙にサインをすると、紙切れが光ってから、燃えた。
モスフェウスが感じのよい調子で訊く。
「ダンジョン・コインを持っているところを見ると、元はダンジョン勤めのモンスターか?」
「へえ。流しで、あちこちのダンジョンを渡り歩いていた『シェイプ・シフター』ですねん」
「なんで、ダンジョンを辞めたの?」
「まあ、色々ありまして」
モスフェウスは拘ることなく、あっさりした口ぶりで話す。
「いいたくないなら、いいか。俺も昔はダンジョン勤務だった。でも、今は気儘に、フリーランスで悪魔やっているし」
「そんで、子供はどこですか」
モスフェウスは軽い調子で教えてくれた。
「山の中、『詩人の岩窟』の辺りだよ」
「そんなとこにおりますの? なんで子供が、そんな場所におるんですか?」
モスフェウスは思案する顔で、持論を述べる。
「多分、『熱狂詩人ベルポネデス』の詩に呼ばれたんだな」
「ダンジョン・マスターに呼ばれたんですか?」
モスフェウスは穏やかな顔で否定した。
「違うよ。詩に引き寄せられたんだよ。『熱狂詩人ベルポネデス』の詩は人間を魅了するんだ。もっとも、漏れ出る詩は誰にでも聞こえるわけじゃないんだけどね」
「これは、あかんわ。間違ってダンジョンに入ったら、取り返しがつかんくなる」
モスフェウスは他人事として淡々と語る。
「そうだろうね。だから、セサルも急いで出て行ったよ」
「ありがとうでした。わいも、すぐに追いかけます」
「おう、またなー」
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