第四百二十五夜 おっちゃんと血の酒(後編)
おっちゃんは骸骨の官吏に連れられて、屋敷の縁側に行く。
縁側で骸が茶を飲んでいた。
「よう来たの、おっちゃん、まあ座られよ」
「では、ありがたく座らせてもらいます」と返事をして骸の隣に腰掛ける。
骸が穏やかな顔で、やんわりとした口調で訊く。
「血造酒を探しておるのだそうだな。それは、オーリアが進めている廃品回収と何か関係があるのか?」
「集めた武具から資源を回収する技術を持った者に、マダムKがおります。そのマダムKに話を持っていったら、手数料として血造酒を要求されました」
骸が考える仕草をして話す。
「なるほど。血造酒を渡せば、『重神鉱』と『霊金鉱』が手に入るわけか?」
「なんで、血造酒を分けてもらえませんやろうか?」
骸が気の良い顔で明るく発言した。
「よし、ならば、わらわの出す問題に答えられたら、血造酒をくれてやろう」
(何やろう? 問題って。難しい問題やないとええんやけどなあ)
「褒美は血造酒でっか。ほな、挑戦させてもらいますわ」
骸が晴々した顔で淡々と語る。
「『冥府洞窟』の盟友に『狂王の城』と呼ばれるダンジョンがある、そこに、ダンジョン・マスターの『ウィンケル卿』がいる。今、その『ウィンケル卿』が困っておる」
「何や? 謎々やなくて、実務的な問題ですか。どんな悩み事やろう?」
骸の顔がわずかに曇る。
「実は短期間のうちにダンジョンからの金銀の大量流出が起きて、財政難になっているのじゃ。ダンジョンに置く宝にも事欠くありさまじゃ」
「冒険者に荒稼ぎされたんやな。よくある事態ですわ」
骸があっさりした表情で認めた。
「そこで、援助をしたいが、生憎と『冥府洞窟』にも金がない」
「裕福なダンジョンは、稀ですからのう」
「ただ、『冥府洞窟』の所領は豊作で、米が余っている。この米を『ウィンケル卿』に贈って支援したい。だが、問題もある」
「さらに、問題ですか。何やろう?」
骸が困った顔で告げる。
「『狂王の城』の近くにある人間の街が稀に見ぬ凶作なのじゃ。下手に大量の米を動かせば、餓えた人間たちの略奪に遭う。どうやれば、無事に『狂王の城』に米を運び込めるだろう?」
「なら、米を動かさなければよろしい。イルベガンで金に換えてはいかがですか?」
骸が弱った顔で首を横に振る。
「それはできん。前回の参事会で、イルベガンで米を売って米価を下げるなと、他のダンジョンから釘を刺された。庄屋連中からも、米の値段を下げないでくれと、嘆願された」
「なら、いっそ、人間たちに売っては、どうですか?」
「それは、母上から拒否された」
「それは、困りましたな」
「母は人間嫌いなのじゃ。人間から金を受け取るなど、『髑髏公主』のプライドが許さんそうじゃ」
「ほな、『ウィンケル卿』にはライス・チケットを発行してもらいましょう。ライス・チケットを、宝の代わりに、ダンジョンに置くんですわ」
骸が小首を傾げて真意を尋ねる。
「変った策を考えるの。それで、どうする?」
「へい、それで、ライス・チケットを交換できる商人を予め指定しておいて、その商人たちが秘密の場所にライス・チケットを集めて持って来た場合にのみ、米とライス・チケットを交換してやるんですわ」
骸が興味を示して、やんわりとした口調で訊く。
「もう少し、詳しく訊かせてくれるか?」
「冒険者がライス・チケットを集めます。その冒険者から商人がライス・チケットを買います。その商人が集めたライス・チケットを、骸様が米と交換します。あとはチケットを燃やすなりして廃棄すれば、何も受け取らずに済みます」
骸の顔が明るくなる。
「なるほどのう。それなら、『冥府洞窟』は三人か四人の商人とのみ取引をすればよいな。金を貰うわけでもなく、こちらから米を渡すだけだから、金銭の受け渡しも発生しない。母上も受け入れ易かろう」
「それに、穀物商なら、運搬や保管もお手の物。もし、略奪の危険性があれば、冒険者を雇ってでも、略奪を防ぐでしょう」
骸が機嫌よく応じる。
「ふむ、おっちゃんの案なら長距離を大量の米を運ばずともよいな。母上のプライドも、傷つかない。宝の代わりの品ができて『ウィンケル卿』も助かる。よし。正解と見なそう」
「ありがとう、ございます」
おっちゃんはボトルで二本、本醸造の血造酒を褒美で貰った。モンスター酒場に帰って血造酒を保管してもらい、オーリアを待つ。
七日後にオーリアがやって来た。オーリアは真剣な顔で、おっちゃんを密談スペースに誘い、怖い顔で脅す。
「壊れた武具は集まったわ。運ぶ手段も手に入れたわ。それで、廃品から資源を回収してくれる当てはついたの? できなかったでは、済まされないけど」
「こっちも、OKや。鍛冶街にいるマダムKが、資源の取り出しをやってくれる。報酬は回収できた資源の一割に、手間賃の血造酒や」
オーリアの表情が曇る。
「血造酒なんて希少なもの、よく手に入ったわね?」
「骸はんの悩みを解決してあげたら、お礼にくれた」
オーリアが明るい顔で告げる。
「やっぱり、コンサルタントなんでしょう」
「違うけど、ええわ。ほな、マダムKのとこ行こうか」
おっちゃんは血造酒を持って、マダムKの鍛冶場に行った。
「すんまへん、以前に血造酒を持って来たら、資源のリサイクルをしてもらえると約束してもらった者です。マダムKはいらっしゃいますか」
鍛冶師のオーガが威勢よく答える
「はいよ。今、呼んでくるから待ってな」
オーリアがそっとおっちゃんに尋ねる。
「マダムKって、腕の立つ鍛冶師なの?」
「見た感じは並の職人よりは腕は立ちそうやで」
鍛冶屋のオーガが奥に行くと、厳しい顔をしたマダムKがやって来た。
おっちゃんは血造酒を渡した。
「これ、約束の手間賃の本醸造の血造酒です」
マダムKが怖い顔をして疑う。
「本醸造の血造酒だって? 偽物の可能性があるね」
「大丈夫ですわ。『冥府洞窟』の骸はんから直に貰った物です。せやから、質に間違いは、ありまへん」
マダムKの表情が和らぐ
「骸様からの拝領した品なら本物だね。いいだろう。壊れた武具から『重神鉱』と『霊金鉱』を回収してあげるよ」
オーリアの顔が輝く。
「なるべく早くにお願いします。もう、こっちも急かされて困っているのよ」
オーリアとマダムKが廃品から資源を採り出す段取りを決める。
マダムKが自信に満ちた顔で告げる。
「うちの技術は確かだ。任せておきな」
「ほな、よろしゅう頼みます」
オーリアと一緒にマダムKの店を出る。オーリアが機嫌よく語る。
「さて、どれだけ金属が回収できるか見ものだね」
「せやね。仰山と取れると、いいな」
オーリアが機嫌よく誘う。
「これから、軽くモンスター酒場で、祝杯でもあげるか」
「ちと早い気もするが、ええやろう。付き合うで」
(*本作品の著作権は金暮 銀にあります)




