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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
399/548

第三百九十九夜 おっちゃんと養子縁組み

 都市計画ができてきた。街には市場が立ち、冒険者ギルドと魔術師ギルドの支部もできた。

 教会と役所はまだ完成していないが、目処は立った。来年度には簡単ながら城壁の修理にも着工できそうなところまで街は来た。


 ハワードが陳情にやって来て、明るい顔で用件を切り出した。

「おっちゃん、街を今以上に発展させたい。そこで銀行を設置したいんだが、国から出資してほしい」

「ハワードはん、お気持ちはわかる。でも、国には銀行に貸せるだけの金はないよ」


「そこでだ、王冠を貸してもらえないだろうか。王冠を元手にして債権を発行する。王冠は金庫に置いてあっても増えないが、債権を発行して、集めた金を投資に回せば、増やせる。十二年貸してくれたら、十二年後には倍にして返す」


「ええで。なら、王冠を貸すわ。ただし、投資は国内に限定してや。投資で国が豊かにできんのなら貸せん」

「わかった。必ずや、オルトハルツを豊かにしてみせる」


 ハワードは借用書を書くと、王冠を受け取って帰っていった。

 エルマが感心した顔で告げる。

「おっちゃん。まさか、王冠を商人に貸し付けるなんて、思い切った政策を考えましたね」


「別に、ええやん。年に一回も使わん品を倉庫に眠らしておくより、投資懸案につこうてもろうたほうが、国も(うるお)うやろう。ここは王家が興した国やない。セバルはんたちが作った国や」


 エルマが機嫌よく、おっちゃんを褒めた。

「それでも、王冠を貸し出して銀行の資本に当てるなんて、普通は考えませんよ」

「ええねん。こんな施策を採れるのも、わいがいるうちだけやろう。なら、今やっておかんとな」


 エルマが寂しげに伝える。

「なんか、おっちゃん、国王を辞めるような発言ですね」

「そうやね。もう、そろそろ、いい頃合いやと思う。ヒエロニムス国王も、明言しておった。四週間やったら国王を辞めていいと」


「本当に退位する気なんですか」

「四週間はとっくに過ぎた。大まかな街の青写真もできた。そろそろ王位を譲ろうと思う」


 エルマは驚いた。

「そんな簡単に、王位を譲ってもいいんですか?」

「後継者の問題は考えんといけん。せやけど、そろそろ、ええ時期やと思う」


 一週間後、国王の館にレガリア国王のヒエロニムスが訪れた。

 ヒエロニムスが穏やかな顔で切り出した。

「国王オウル殿、少し話がしたくて、寄らせてもらった。よろしいか」


 おっちゃんはヒエロニムスの来訪に良い気がしなかった。

(ヒエロニムスが来ると、あまりええ話にならんからな)


 おっちゃんは本心を隠して、愛想よく応じる。

「ええですよ。今日は、どんなご用件ですか」

「では、二人で話そう」


 おっちゃんは人払いをして、ヒエロニムスと二人だけになる。

 ヒエロニムスは改まった態度で語り出した。

「今日は重大なお願いがあってきた。私には二人の息子がいる。皇太子のユリウスとヘンドリックだ」


「自慢の息子さんらしいな。お噂は、オルトハルツまで届いていますよ」

 ヒエロニムスがらしくない控えめな態度で話す。

「親の眼から見てもなんだが、二人共、よくできた息子だ。それで、弟のヘンドリックだが、養子に出そうと思っている」


「そうでっか。どちらに養子に出そうと思案してるんでっか?」

 ヒエロニムスは当然だといった顔で口にした。

「それは、オウル殿とこだよ」


「えっ、わいのとこでっか?」

 驚きだった。


 ヒエロニムスは謙虚な顔で申し出る。

「そうだ。どうか、ヘンドリックを養子に迎えて、後継者としてもらえないだろうか」


「それは、無理でっせ。ヘンドリックはんの性格も能力も、よう知らん。それに、後継者候補は国の有力者、セバルはん、リオンはん、ハワードはんの内から決める、と明かしている。それを今更、ヒエロニムス国王の息子に決めたら、当然に反発が起きる」


 ヒエロニムスは弱った顔で依頼してきた。

「わかっている。だから、そこを曲げて、なんとか頼む」

「こればかりは、頼むと頭を下げられても無理でっせ。国民が納得しない」


 ヒエロニムスは引き下がらなかった。

「そこは、どうにか懐柔してほしい」

「なんで、おっちゃんのところに養子に出そうなんて思うたんですか?」


 ヒエロニムスは弱った顔で告げる。

「全ては、レガリアのためだ。ヘンドリックは違うが、ユリウスは、王になればヘンドリックを殺そうとする危険性がある。そうなれば、国が割れる可能性があるのだ」


「でも、それやったら、ヘンドリックをオルトハルツの王様にしたら、オルトハルツ対レガリアの戦争になるんと違いますか?」


 ヒエロニムスは渋い顔で告げる。

「そこまで、ユリウスは馬鹿ではない。すでに、別の国の王位に就いている弟を殺そうとは思わない。ヘンドリックも、すでにオルトハルツで王位にあるのなら、レガリアの王位を目指そうとはしないはずだ」


「でも、ヘンドリックはんはレガリアの王子様や。それが民族も文化も違う国の王様になると発表したら、国民は、国が乗っ取られたと騒ぎになりますわ」


 ヒエロニムスは真剣な顔で告げる。

「そうだ、騒ぎになる。その騒ぎを収められる人物がいるとすれば、建国王であるオウル殿だけだ。頼む。ヘンドリックを養子にする件を呑んではくれまいか」

「これは国の根幹を揺るがす問題やわあ」


 ヒエロニムスが帰っていったので、エルマに尋ねる。

「なあ、ヘンドリックはんってどんな人?」


 エルマは穏やかな顔で告げる。

「ヘンドリック王子は、優しくて聡明な人ですよ」

「悪かった。訊き方を変えるわ。ヘンドリックはんの欠点って、なに?」


 エルマが気楽な顔で評価を教える。

「少々変ったお方でして、独自の考えを持って行動しております。それが、周りに理解されない状況が時々あります。でも、人間嫌いではありません」

「偏屈な王子様に国王が務まるかな」


 エルマが気負うことなく、さらりと発言する。

「務まると思いますよ」

「そうかて、レガリアやないよ。このオルトハルツの国王や」


 エルマはどこまでも穏やかな顔で冷静に述べる。

「おそらく、就任当初は荒れると思いますが、数年で落ち着くと思います」


「なんや、エルマはんは、ヒエロニムス国王がこの国の王に息子のヘンドリックを就けようとするのを知っておったのか」


 エルマが多少、気まずそうな顔で告げる。

「正直に言えば、知っていました」

「どんくらい前からや?」


「ヒエロニムス国王はヘンドリック王子をオルトハルツの国王にしようと、おっちゃんがヤングルマ島に旅立った時から考えていました」

「そんな前から画策しとったのか。中々抜け目がない王様やな。でも、これは困ったで。いきなり国家存亡の危機や」


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