第三百九十六夜 おっちゃんと関税
おっちゃんの頭を悩ませる問題はやはり金だった。
税金を効率的に徴収するにあたって関所を設置する案が出ていた。関所の設置する案をエルマと議論していると、お客があった。
隣の町のアントラカンドの領主ザイードからの使者だった。ザイードからの使者はおっちゃんの国王就任の祝辞を述べて贈り物を渡すと、穏やかな顔で用件を切り出した。
「国王陛下に実はお願いがあります。関所の話です。アントラカンドとオルトハルツは距離的に近い。ここはお互いの発展のために、お互いに関所を作らず関税を掛けない方針にしませんか」
(なんや? こっちが関所を作ろうと思うた矢先に申し入れてくるとはな。どこかの商人が動いておるようや。中々、動きが早いな)
「そうか。ほな、検討してみると、ザイード閣下にお伝えください」
おっちゃんはハワードを呼んで意見を尋ねる。
「アントラカンドからお互いに関所を作らず関税をなしにいよういう話が来た。ハワードはんの意見はどうや」
ハワードは難しい顔をして話す。
「お互いに関税を掛けなくて済むなら掛けないほうがいい。不必要に物の値段が上がれば、国民の生活に悪い影響が出る」
「ハワードはんは関税に反対なんやな」
「でもだ、おっちゃん。おそらくだが、アントラカンド側は関所の撤廃はしても税は形を変えて課税してくるぞ」
「どういう仕組みを使こうてくるか、わかるか?」
ハワードが真剣な顔で語る。
「ダンジョンの戦利品に課税がされている」
「そうなんか、あまり聞かんけど、どういう手口や」
「正確には魔術師ギルドに課税する方式で、ダンジョンから産出する品に課税しているんだ」
「なるほどの。『迷宮図書館』からの戦利品は、九割がアントラカンドの魔術師ギルドに、持ち込まれる。そこを冒険者にわからんように課税しているのか」
「調べてみたが、アントラカンドの魔術師ギルドの納税額は他のどの魔術師ギルドより多い。この旨味を領主が捨てるとは思えない」
「でも、持ち出しの時に冒険者に課税したら、不評になるやろうな。かといって、できたばかりの冒険者ギルドに入場税を納めさせれば、冒険者ギルドは立ち行かんくなる」
ハワードは厳しい顔で告げる。
「オルトハルツ側に魔術師ギルドがあればいいのだが、魔術師ギルドを建てるとなると、人も金も掛かる。これは大きな投資懸案になるだろう」
「いきなり、オルトハルツ魔術師ギルドの建設は無理やな。でも、がんばれば、アントラカンドの魔術師ギルドの支部くらいは、できるかもしれん」
「ここら辺が良い頃合かもしれない」
「よっしゃ。おっちゃん、アントラカンドの魔術師ギルドに知り合いがいるから、ちょっと話を訊いてくる」
「街の発展のため是非にもお願いしたい」
おっちゃんは次の日に、アントラカンドの魔術師ギルドにいるグリエルモを訪ねた。
グリエルモは灰色のローブを着た痩せた若い男性だった。髪は銀色で短く、黒い瞳をしており、肌は白い。顔は卵型で、やや鰓が張っている。
目の下には隈があり、あまり健康そうな印象はない。
グリエルモは魔術師ギルドの自室にいた。
「こんにちは、グリエルモはん。聞いたで、ヤングルマ島の研究成果が認められて若くして教授になったんやて、大した出世やな」
グリエルモは応接セットのソファーを、おっちゃんに勧め、友人に向けるような優しい顔で告げる。
「たまたま。ポストが一つ空いていただけさ。それより、おっちゃん国王になったんだって、そっちこそ大出世だよ。冒険者の間でも冒険王オウルと呼ばれているそうだね」
「もう、揶揄わんといて。おっちゃんかて、国王をやりたくてやっているわけやない」
グリエルモが微笑む。
「おっちゃんのそういうところは相変わらずだな。それで、今日はなんの用?」
「オルトハルツにも魔術師ギルドがほしい。せやけど、自前で全てを用意したら、費用がすごいことになる。アントラカンドの魔術師ギルドに支部って作ってもらえんやろうか」
グリエルモが軽い調子で教えてくれた。
「難しい、と言いたいところだけど、可能かもしれない」
「なんや、何かアントラカンドの魔術師ギルドで動きがあるんか」
「実は魔術師ギルドで学長選がある。ガイウスとロレンッオが選挙に出ているが、これが接戦なんだ」
「アントラカンドの学長選か。あまり、いいイメージないな」
「両陣営とも、献金を求めている。もし、勝つほうに資金を援助できれば支部計画は進むかもしれないよ」
「おっちゃん、博打に弱いからな。聞くだけ聞くけど、献金って、いくらぐらいあれば、ええの?」
グリエルモが簡単に告げる。
「金貨二千枚もあれば、覚えがいいだろう」
「貧乏国家で金貨二千枚って、大金やん」
グリエルモが「当然だろう」の顔で、あっさりと述べる。
「大金だからこそ、恩義も感じるというものさ」
「でも、選挙は水物やからな。しかも、アントラカンドにはおらんから、どっちが有利かわからん。確率五十%で金貨二千枚を失うわけにはなあー」
「無理には勧めないよ。俺も学長選からは一歩を引いた位置にいるから」
おっちゃんはグリエルモと別れると、館に戻った。
国庫には霊金鉱でできた王冠と『龍殺しの弓』がある、どちらかを処分すれば金貨二千枚には一応なる。
だが、献金の性質上、応援した候補が負けたら、無駄に終わる。
(魔術師ギルドの支部は欲しい。せやけど、博打はしたくない)
おっちゃんは悩んだ末に、どちらの候補も応援しないと決めた。
「しゃあないわ。他人を当てにせずに、自前で魔術師ギルドをどうにか建てよう」
金はないが、王冠や『龍殺しの弓』を簡単に売るわけにもいかない。あと、売れるものといえば、おっちゃんが覚えている魔法くらいだった。
「魔法を覚えるのにも、お金が掛かる。安う魔法を教える仕組みを作れば、魔術師ギルド設立の費用が稼げるんやないやろうか?」
おっちゃんはエルマに指示を出す。
「エルマはん。ざっくりでええから、魔法を安く教える学校の計画を考えてもらえるか?」
エルマが明るい顔で応える。
「わかりました。早速、検討に入ります」
すると、四日後にグリエルモがやって来た。グリエルモは渋い顔で切り出した。
「おっちゃん、今日はアントラカンドの魔術師ギルドを代表してやって来た。魔法の安売りは、止めてもらえないだろうか」
おっちゃんは、まだ計画段階で計画が漏れるとは思っていなかった。
「なんや、耳が早いな。どっから聞いたんや?」
グリエルモが心配した顔で告げる。
「情報元は明かせないが、魔法の安売りは止めたほうがいい」
「無理にやるとどうなる?」
「やると、国の魔術師の半分から反感を買うよ。友人としてもやらないほうがいいと忠告する。巡り巡って国のためにならなくなるよ」
「他の人の意見なら突っぱねるとこやけど、グリエルモはんが言うなら聞いておいたほうが賢いのかもしれん」
「おっちゃんは、どうして、魔術師ギルドが欲しいんだい?」
「国の中心に『迷宮図書館』が、あるやろう。そこで効率的に収益をあげるなら、魔術師ギルドが必要なんよ。全ては国のためや」
グリエルモが難しい顔をしてから決断した。
「わかった。なら、俺が魔法を安売りしない見返りに支部を建ててくれるように、動いてやるよ」
「具体的にどうするん?」
「学長選に関与する。負けたほうの候補を支部長にするように働きかける。どのみち負けた候補の陣営はアントラカンドにいづらくなるはずだから、ちょうどいい」
「なんや、おっちゃんの国の魔術師ギルドは負けた候補の島流し先か」
グリエルモがさばさばした顔で気軽に発言する。
「有態にいえば、そうだ。でも、学長選で負けた陣営にもいい人材がいるから、それほど酷い人間ばかりが集まらないよ」
「献金やなくて、建設費用にするのなら、まだ建設的かもしれなんな。ほな、土地と建物は用意するから、ギルドの設立支部の話は頼むわ」
二週間後に選挙戦が終わり、ガイウス陣営が負けた。
勝ったロレンッオ学長からは、翌日に魔術師ギルド開設の打診をする手紙が届いた。
「グリエルモはん、やってくれたんやな。これで、魔術師ギルドの設立の目処は立ったで」




