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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
オルトハルツ国
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第三百八十八夜 おっちゃんと『龍殺しの弓』

 夜が明けた。おっちゃんは朝を起きると、エルマにリオンを呼ぶようにお願いした。

 朝食の後で執務室に『龍殺しの弓』を置いて仕事をしていると、リオンがやってくる。


 リオンがおっちゃんに挨拶をすると、机の上にある『龍殺しの弓』に注目する。

「これか? これは、『龍殺しの弓』や、ちと対ゲールの戦いを見越して調達してきた」


 リオンは興味のある顔で訊く。

「触ってみても、いいか?」

「ええよ。なんなら、庭で試し撃ちしてきても、ええで」


「いいのか?」とリオンが子供のように顔を輝かせる。 

リオンはさっそく弓を持って出て行くと、庭のほうから歓声が聞こえてきた。


「まるで、玩具(おもちゃ)を手にした子供のようやな。リオンはんは、狩猟を主とする部族の出身やそうやから、弓に興味があるんやな」


 小一時間すると、リオンが明るい顔で戻ってきた。

「こいつは、いい弓だ。引くのに力が要るが、威力と精度は申し分ない。『龍殺し』と名が付くくらいだ、龍に効果があるんだろう。これがあれば、ゲールといえど狩れるかもしれない」

「そうや。だが、『龍殺しの弓』は、ゲールの狩りには使わん」


 リオンが意外そうか顔をした。

「なら、どうするつもりなんだ?」

「とりあえず、リオンはんは、街の人間の前で『龍殺しの弓』を使って見せびらかすんや。そんで、町中におっちゃんが『龍殺しの弓』を手に入れたと喧伝してや」


 リオンがおっちゃんの言葉に納得した顔をする。

「なるほど、『龍殺しの弓』があれば、ゲールなど怖れるに足りないと、街の人間を安心させるわけか」

「それもあるが、他にも意図がある。ゲールにおっちゃんが『龍殺しの弓』を手に入れたと伝えるためや」


 リオンが渋い顔をした。

「『龍殺しの弓』を、抑止力として使うのか?」

「そういう見方もできるな」


「あまり、いい考えとは思えないな。第一にゲールが本当にこの『龍殺しの弓』を怖れるかどうか怪しい。それに、ゲールが生きている限り、火龍の恐怖は終わらない」

「ええねん。おっちゃんの目的はゲールに『龍殺しの弓』がある事実を知らせる。そのあと、ゲールを罠に掛けて(おび)き出すところにある」


 リオンが力の籠もった顔で告げる。

「で、そこを仕留めるわけか」

「いや、ちゃうねん。そこで、ゲールに人間に手を出したらいかんと教えて、ゲールと同盟を結ぶねん」


 リオンの表情が歪んだ。

「ゲールと同盟を結ぶなぞ、正気か、おっちゃん?」

「オルトハルツは、小さな国や。どこと争っても、立ち行かなくなる。せやから、火龍といえど殺さず、仲間に引き入なきゃ、やっていかれへんねん」


 リオンは、どこまでも懐疑的だった。

「確かにゲールを従えられたら、大きい。でも、本当に可能なんだろうか」

「わからん。だが、おっちゃんは決めた。ゲールを懲らしめて仲間に引き入れる」


 リオンが神妙な面持ちで応じる

「わかった。なら、さっそく、『龍殺しの弓』の宣伝してくる」

 リオンは弓を持って執務室から出て行き、派手に『龍殺しの弓』を見せびらかした。

 街の広場で、試し撃ちをする。狩りを行う。


 冒険者に的を射らせて、その性能を教えた。吟遊詩人にも『龍殺しの弓』の素晴らしさを謳う詩を作らせた。

『龍殺しの弓』の存在は冒険者だけでなく異種族にも伝わった。


 頃合いよしと思った頃に、おっちゃんは動き出す。リオンを館に呼んで話す。

「弓の情報は、広く広まったようや。ここいらで、作戦を次に移す。『龍殺しの弓』を盗む計画をゲールに持って行く」


 リオンが渋い顔で告げる。

「ゲールを館に呼び出すのか? うまくいくかな?」

「ゲールを呼び出す役目は、おっちゃんがやる」


 リオンが興味を示した顔で尋ねる。

「どうやるんだ?」

「おっちゃんが魔法で赤牙人に化けてゲールに『龍殺しの弓』を盗むように仕向ける」


 リオンが懐疑的な顔で告げる。

「簡単に乗るかな?」

「わからんが、やってみる。それで、ゲールと一緒に館に侵入して『龍殺しの弓』を手にしようとしたところで、隠れていた手の者と一緒に、ゲールを押さえる」


「わかった。準備しよう」

「あと、今回の件は『迷宮図書館』にも伝えて、手伝ってもらおうと思うとる」


 リオンが渋い顔をした。

「モンスターの手を借りるのか? 俺たちだけでやるわけにはいかないか?」


「そうはいかん。ゲールには『迷宮図書館』も腹を立てているから、溜飲を下げてもらうためには話は持って行く」

「わかった。そこら辺は政治の話だから、国王のおっちゃんに任せる」


 その夜、おっちゃんは秘密の部屋の呼び出しボタンを押した。

 フィルズがやって来て、機嫌よく話し合いに応じる。

「『龍殺しの弓』を、えらく宣伝しているな。ついにゲールを倒す気になったか?」

「残念やけど、ある筋からゲールは殺さんでくれと、依頼が来た。今回は懲らしめるだけや」


 フィルズは浮かない顔で述べる

「そうか。それは残念だな」

「そんでな、ゲールを騙して、館に誘い込もうと思うとるねん。そんで、館に誘い込んだ後にゲールを取り押さえるのを手伝って欲しいんやけど、どうやろう?」


 フィルズは力強い顔で請け負ってくれた。

「館の狭い部屋では、ゲールが力を発揮できない。いいだろう。力の強い者を派遣して、取り押さえる手助けをしてやろう」


「ほんま、助かるわ。あと、ゲールの居場所を知りたいんやけど、わかるか」

「ちょっと待っていろ」とフィルズは一度、姿を消してから、地図を持って現れた。


 フィルズがゲールの棲家に印を付けてくれた。

「ありがとうな、フィルズはん。そんでゲールの奴だけど、ゲールに仲間はおるんか?」

「いや、ゲールに仲間はいない。奴は常に一人だ」


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