第三百八十五夜 おっちゃんと降って湧いた金
シャーリーの葬儀から一週間後に、ユスフとシャーリーの結婚式が行われた。
ユスフとは知らない仲ではない。なので、おっちゃんが来賓で、挨拶のスピーチをする。結婚式は、ユスフを知る人間も参加した。
結婚式が終わると、シャーリーとユスフがおっちゃんの許に寄ってくる。
ユスフがシャーリーと顔を見合わせてから語る。
「おっちゃん、今日は結婚式に来てくれてありがとうございました」
「なに、水臭いことを言うとるんや。お互いニコルテ村の石切り場で汗を流した仲やろ」
「シャーリーがおっちゃんにお礼をしたいそうです」
「そんな、礼なんかええのに」
シャーリーが穏やかな顔で告げる。
「おっちゃん、ありがとうございました。それで、お礼ですが、父の隠した財宝の在処をお教えします。国のために使ってください」
「ええんか? 二人は新婚さんやろう。お金が必要やないの?」
「いいんです。私は今幸せです。この幸せをプレゼントしてくれたおっちゃんに是非お礼がしたいんです」
「そうか。なら有難くいただくわ」
「領主の館には大きな旅人木があります。その木の根元を掘ってください。誰も見つけてなければ、父の隠し財産があります」
「そうか。なら、国のために使わせてもらうわ」
おっちゃんは帰宅すると、朝を待って、リオンたちに命じた。
「庭にある大きな旅人木の根元に、前領主の隠し財産が埋まっているそうや。掘り返して探してみて」
昼にエルマが呼びに来て、明るい顔で告げる
「おっちゃん、木の根元に大きな瓶が埋まっていて、中に金貨千枚が詰まっていました」
「そうか、それはラッキーやな、国のために使うから国庫に入れておいて」
「わかりました。それで、金貨の使い道は、どうしましょう」
「エルマはんは、何に使ったらよいと思う?」
エルマが明るい顔で提案する。
「官吏を雇われたら、どうでしょう?」
「なんや、エルマはん、人手不足で困っているんか?」
エルマが利発な顔で勧める。
「私は困っていません。しかし、これから、法案を作ったり、統計を作ったりして、国の状況を把握していかねばなりません。そのためには、優秀な官吏が必要です」
「優秀な官吏がいれば、助かる。せやけど、ここは貧乏国家や。高給取りの官吏は贅沢品と一緒や。国は、ある人間で廻すしかない。それに、オルトハルツはオルトハルツの流儀で国を治めあかん。他のやり方を学んだ官吏を入れると、うまくいかんと思う」
エルマが残念そうな顔をする。
「わかりました。オルトハルツは、国も人も若い国です。成長を見越して人を育てていきます」
エルマが退出すると、リオンがやってきて、神妙な顔で頼んだ。
「おっちゃん、庭から出てきた金の使い道だが、兵舎と兵の装備の新調に使いたいんだが、どうだろう?」
「兵隊の皆には苦労を掛けとる。兵舎はいずれはと思うとる。だが、今その時どうかは思案中や。なにせ、オルトハルツは金のない国やからな、辛抱できるところは辛抱してほしい」
「そうか」とリオンが暗い顔で部屋を後にする。
リオンが出て行くと、ハワードがやってくる。
ハワードがにこにこした顔で話す。
「おっちゃん、聞きましたよ。なんでも埋蔵金を掘り当てたとか」
「なんや、話が早いな。そうや、金貨千枚が手に入った」
「でしたら、道の整備に使いましょう。物資や人が行き来する道の整備が進めば、市場が活性化する。そうなれば、来年に入ってくる税収にも良い影響が出ます」
「道が物や金を運んでくる事実は否定しない。道を作れば税収も伸びるやろう。だが、道は維持費も掛かる。人口がまだそれほど多くないうちは、メリットは少ない。悪いけど我慢してや」
「そうですか」とハワードも残念そうな顔して引き下がった。
ハワードが帰ると、セバルがやって来る。
セバルが爽やかな顔で申し出る。
「おっちゃん、前領主の財産を手に入れたそうだな」
「皆、情報を知るのが早いな」
「金の使い道だが、魔術師ギルドを誘致しないか。できれば、小さな学校も併設したい」
「ゆくゆくは魔術師ギルドは必要になるやろう。街に『迷宮図書館』があるから、魔術師ギルドは大きく発展もする」
「だったら、建てよう」
「せやけど、魔術師ギルドの設立は少し早いと思うとる。下手に魔術師ギルドに手を出せば、アントラカンドと利害が対立する。そうなれば国の運営に支障を来たすやろう」
「そういう考え方もあるか」とセバルが無念そうな顔をする。
セバルが退出しようとしたので呼び止める。
「待って、セバルはん。おっちゃんな、今回の降って湧いた金で、冒険者ギルドを建てようと思うとるんや」
セバルが明るい顔で応じる。
「いいと思うぞ。せっかく街に『迷宮図書館』があるんだ。これを利用しない手はない。冒険者ギルドがうまく機能すれば、街の活性化にも繋がる」
「そうや、冒険者ギルドができれば、冒険者が集まる。そうすれば、ちょっとした仕事も頼める。金も落ちる」
「冒険者ギルドでもいいか。どの道、街には必要になる施設だ」
「そこで、冒険者ギルド・マスターなんだけど、セバルはん、リオンはん、ハワードはん、で相談して、決めてほしい。調整してくれるか」
「わかった、他の二人ですぐにでも話を持って行くよ」
次の日曜日に明るい顔をしたセバルがやってくる。
「冒険者ギルド設立の件だが、ギルド・マスターをエイドリアンが是非やりたいと申し出ている」
「エイドリアンってヤングルマ島で赤髭はんの下で副船長やっていた男やな。ハワードはんの甥やろう」
セバルが感心した顔をする。
「よく覚えているな。リオンの友でもある。その、エイドリアンが、リオンとハワードの推薦を受けて、冒険者ギルドマスターになりたいと願い出ている」
(なんか、政治の臭いがするのー。でも、大きい組織になれば権利力闘争が起きる状況はある意味、自然や。にしても、セバルはんの権力欲のなさは、美徳かもしれんが、危ういのー)
「セバルはん、それでいいんか? 他に推薦したい人間がいたら推薦してもええんやで」
セバルが明るい顔で、素っ気なく応じる。
「一緒に旅をしたからわかる。エイドリアンは悪い男ではない。特に、なんら問題ないと思うぞ」
「そうか、なら三人を信用して、冒険者ギルドマスターはエイドリアンに任せるわ。ただ、冒険者ギルドに立ち上げは大変やから、ちゃんとフォローしてやってな」
セバルが力強い顔で承諾した。
「任せておけ、きちんと運営を軌道に乗せるまで責任を持つ」




