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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バレンキスト編
375/548

第三百七十五夜 おっちゃんとバトルエルの帰還

 バレンキストの街にヤイモンと一緒に『瞬間移動』で戻ってくる。

 冒険者ギルドで、おっちゃんはカサンドラに尋ねる。

「美味いパンを売りに来るパンやのお爺さんがおったやろう。次に来るのって、いつか、わかる?」

「だいたい一週間に一度は来るから、そろそろ来ると思うわよ」


「ほな、待っていたら会えるな」

 冒険者ギルドでバトルエルを三日、ひたすら待つ。だが、バトルエルは現れなかった。


 ヤイモンが、やきもちしながら尋ねる。

「バトルエルは来ないわね。まさか、こっちの動きに気付かれたのかしら?」

「気付いて街を去ったは、ないやろう。でも、このまま待っていても、しゃあない。こっちから探しに行こうか」


 ヤイモンが表情を曇らせて語る。

「バレンキストの街は広いわよ。手懸かりなしでの捜索は難しいわ」

「手懸かりならあるよ。美味いブラウン・ブレッドや」


「そんな手懸りで探せるの?」

「あそこまで美味いブラウン・ブレッドを焼けるパン職人はそうはいない。ホワイト・ブレッドに負けないブラウン・ブレッドを焼けるパン職人を探すで」

「わかったわ、やってみるわ」


 おっちゃんとヤイモンは美味しいブラウン・ブレッドの情報を集めた。

 おっちゃんはガルシアに情報を求める。ガルシアが明るい顔で教えてくれた。

「それなら、最近、難民キャンプに物凄く美味いブラウン・ブレッドを売る年を取ったパン屋がいるって聞きましたよ」


(バトルエルはんかもしれん、ヤイモンはんと合流して行ってみようか)

 難民キャンプに行くと、バトルエルがパンを卸している場面に遭遇した。

「おった、バトルエルはんや。なあ、ヤイモンはん、間違いないやろう」

「間違いないわ。この気配はバトルエルのものよ」


 バトルエルは難民に囲まれていた。バトルエルのパンを食べる難民は幸せそうであり、バトルエルもまた、嬉しそうだった。

「なんや、人に囲まれて幸せそうやな」


 ヤイモンが感傷の籠もった顔で述べる。

「あんなに、嬉しそうなバトルエルを見たのはいつ以来かしら」


 バトルエルはヤイモンを見ると寂しげな表情をする。

「すんまへん、パン屋のお爺さん、パンを卸す仕事が終わったら、冒険者ギルドまで来てもらって、ええですか」


 バトルエルは渋った。

「どうしても、いかなきゃ駄目かい?」

「大事な話がありますねん。一度でいいから、話を聞いてください」


 バトルエルは暗い顔で述べる。

「止むを得ないね。でも、話を聞くだけだよ」


 バトルエルは諦めた顔をして、仕事が一段楽すると冒険者ギルドまで来た。バトルエルを伴って、密談にスペースに行く。

「バトルエルはん。おっちゃんな冒険の旅をしていて、偶然気が付いたんよ。バトルエルはんが、『浄水の神域』を捨てた理由や」


 バルトエルが冴えない顔で話す。

「そうかい、なら俺がどんな気持ちで去ったか当ててごらんよ」


「バトルエルはんは、『共感』の魔法の存在を偶然に知った。そんで、試しにバトルエルはん自身に使こうた。そんで気付いたんやろう、バトルエルはん自身が孤独やって」


 バトルエルが沈んだ顔で告げる。

「よくぞ、そこに辿り着いたね。そうだよ。知らなければ問題なかった。だが、知って辛くなった。それで、私は出奔(しゅっぽん)したんだ。私は永遠の孤独から逃げ出したかった」


「パン屋をやっているのかて、パンを焼くのが好きだからだけやない。パンを通じて人と触れ合って、孤独を癒したかったからやな」


 バトルエルは、寂しげに微笑む。

「美味しいパンは人を笑顔にして心を開かせる。私はパンの販売を通じて人の優しさを知った。パンを買いに来る客は餓えていたが、私は触れ合いに餓えていた」

「なあ、『浄水の神域』に戻ってくれへんやろうか?」


 バトルエルが辛そうな顔で語る。

「わかっているよ。俺のパンを食べてくれる人を本当に救いたければ、俺が『浄水の神域』に戻らなければならないってね」

「なら、戻ってもらうわけにいきませんやろうか」


 バトルエルは苦い顔をして視線を逸らした。

「でも、寒々として玉座で、あれこれと殺伐とした指図する仕事は、もうしたくないんだ」

「その件やけど、『大剣アンガムサル』を使こうて、唯一なる存在にお伺いを立てた。そしたら、きちんと侘びを入れるなら、ダンジョンを旅行会社に業務変更しても良い、と了承してくれた」


 バトルエルは驚きの表情を浮かべる。

「なんだって、そんなことが可能なのかい」


 ヤイモンが真摯(しんし)な顔で頼む。

「お願い、戻ってきて、バトルエル。今度は寂しい思いをさせないから、一緒に旅行会社をやりましょう」


 バトルエルは力なく笑う。

「まさか、ダンジョンを旅行会社に変えるとはね。考えも付かなかったよ。ダンジョン・マスターが旅行会社の社長をね」


「ムランキストの街の住民も手伝うと請け合ってくれとる。異種族もや。そんで駄目になった時は一緒に罰を受ける覚悟も決めた。あとは、バトルエルはん次第なんや」


 バトルエルは少々驚いた。

「そこまで話が行っているのかい?」

「そうや。砂漠化は人もモンスターも自分たちの問題やと認識しとる。それゆえ、自分たちの問題は、自分たちの手でどうにかせんとあかんと、立ち上がろうとしているんや」


 バトルエルは曇った表情で俯いた。

「わかった。状況が随分と変ったようだね。でも、一晩、考えさせてくれ」


 バトルエルが沈んだ表情で席を立った。

 去り行くバトルエルの背中を見ながらヤイモンが不安気な顔して呟く。

「バトルエルは戻ってくるかしら?」


「さあの。でも、状況が変った情報を教えた。皆が協力する態度も明らかにした。きっと良い決断をしてくれるやろう」


 翌日、バレンキストに雨が降った。

 おっちゃんとヤイモンが待っていると、バトルエルが現れた。おっちゃんはバトルエルと一緒に密談スペースに入る。


 バトルエルは穏やかな顔で告げる。

「俺は、俺のパンで笑顔になった人のために帰るよ。ここらへんが、良い頃合かもしれない。慣れないが仕事だが、一生懸命やってみるよ」


「そうか。なら、これから、『大剣アンガムサル』を返してもらいに、法王はんに会いに行こうか」

「法王庁へは二度といかないつもりだったんだけどね」

「法王はんには協力してもらったほうが色々とスムーズに行く」


 バトルエルが不安げな顔をする。

「法王か。果たして協力してくれるかどうか?」

「心配は要らへん。法王は良心的な人物やし、人柄は優しい。ほな行こうか」


「わかった、おっちゃんを信じていってみるよ」

 おっちゃんは法王庁へと、バトルエルを連れて歩いていった。


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