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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バレンキスト編
374/548

第三百七十四夜 おっちゃんとボンドガル寺院の会議

 夜になって、バレイラ、ヤイモン、ハビエルの三人が集まる。

 三人がそれぞれ、代表者として、取り纏めた意見を述べるが、前回と全く同じ意見になった。


 意見が出揃うと結論が出ないと思ったのか三人は沈黙する。

 おっちゃんは三人の意見を聞いて、持論を語る。

「やっぱりな、そうなるか。実はな、おっちゃん、会議で結論が出ないと思うて、ちょっと考えた話があるねん」


 三人の視線が興味を示した顔をして視線をおっちゃんに注ぐ。

「あんな、昨日、唯一なる存在にダンジョンの用途内容を変更していいか、伺った。そしたら、旅行会社になら用途変更してもええと申し渡された」


 バレイラが怪訝な顔をする。

「ダンジョンって用途変更って可能なのか? しかも、旅行会社だと?」

「質問したら、可能やった。ただ、旅行会社をやっても面白い話を集められないとアウトや。失敗したら、人とモンスターの両方に責任を取らせると釘を刺された」


 ハビエルが不安な顔で尋ねる。

「具体的には、どうなるんでしょうか?」

「詳しい話は出なかった。せやけど、唯一なる存在が責任を取らせるというたら、滅亡やろう」


 三人が渋い顔をして、互いの顔を見合わせる。

 おっちゃんは滔々と語る。

「でもな。人間に共感したバトルエルはんには、もうダンジョン・マスターは、無理や。せやけど、旅行会社の社長なら、やってくれるかもしれない」


 バレイラが浮かない顔で語る。

「バトルエルは旅行会社を経営した経験なんて、ないぞ。俺たちもない」

「せや。だから、やるなら、皆で支えてやらなならん。勉強もせなならん。バトルエルはんだけにやらせたら、あかん。人間もモンスターも協力せな、一緒になって罰を喰らうで」


 ヤイモンが浮かない顔をして尋ねる。

「でも、旅行会社って、何をするのよ?」

「『浄水の神域』とムランキストの地下水脈の水路を使うて、人やモンスターを運ぶ。そんで、各地に支店を作ってお客を観光させて、物語を集めるんや」


 バレイラが険しい顔で拒絶する。

「水脈を利用した水路を使えば、確かにあちこち行ける。でも、無茶だ。人間側にもモンスター側にも異種族を受け入れる準備はない」


「それを言うたら、このムランキストの街やって、最初は違うたやろう。でも、どうにかなった。そやろう? 要は対話次第や」


 バレイラは険しい顔のまま、否定する。

「でも、人間の心の壁は厚いぞ」

「人間側は法王に協力してもらおうと思うとる。法王に人間と異種族に一緒の権利を認める勅旨を出してもらう」


 ヤイモンが不安の滲む顔で口を出す。

「そう、うまくいくかしら?」

「西大陸ではそれで、融和の道が生まれたんやで。西で結果を出せたのなら、東でも結果を出せるはずや。人もモンスターも、それほど変わらん」


 ヤイモンは困った顔で申し出る。

「でも、人間との共存を広く打ち出せば、他の種族から私たちは裏切り者扱いされるわよ」

「心配ないやろう。ダンジョン・コアの向こうにいる唯一なる存在がOKを出したんや。現場では差別があるかもしれん。せやけど、ダンジョン・マスターのレベルでは露骨に敵視はしないはずや」


 バレイラが苦い顔で不安を述べる。

「失敗した場合は、『浄水の神域』のモンスター全ては居場所を失うぞ」


 ハビエルも苦しい顔で心配そうに述べる。

「ムランキストの街に住む人間だって、そうです。法王の勅旨が失敗に終われば、ムランキストの街の人間は、東大陸の人々から敵視されます」


「なら、おっちゃんの案を拒絶するか。それならそれで、構わん。でもな、おっちゃんは考えたんよ。ほんまにバトルエルはんは、人間に共感したせいで、ダンジョン・マスターを辞めたのかと」


 バレイラが意外そうな顔をする。

「違うと言うのか?」


「昨日の晩に思うた。バトルエルはんは、人間に共感してダンジョン・マスターを辞めたんやない。バトルエルはんは人間に共感した結果、己が孤独な存在やと気がついたんや。そのせいで、ダンジョン・マスターを辞めたんやないかと思う」


 バレイラがムッとした顔で意見する。

「孤独なわけがない。バトルエルには我らのような大勢の家臣がいた」


「そうや、家臣はいた。せやけど、同じ目線に立って、考えてくれる友はいなかった。現にここで、バトルエルはんと一緒に重たい荷物を背負うて一緒に歩もう、いう種族はおらん。人間かて、そうや、滅びに瀕しても寄りかかる決断しかしない」


 三人が無言になる。おっちゃんは言葉を続ける。

「冒険者は命懸けの仕事や。だが、冒険者には己を捨てて助けてくれる友がいる。バトルエルはんの周りには、ダンジョンの未来を考えてる家臣はおった。でも、誰も、バトルエルはんの心配をしてくれる友がおらん。そう考えた時に、ダンジョンを去ったんやないやろうか?」


 バレイラがしんみりした顔で漏らす。

「ダンジョン・マスターの孤独か。確かに、バトルエルは孤独だったのかもしれん」


「だから、バトルエルはんを本当に救いたい。復帰してほしいと思うなら、モンスターも人も、リスクを冒さねばならんねん。バトルエルはんが背負っている重たい荷物を持ってやらな、あかんねん」


 バレイラとヤイモンが神妙な顔で語る。

「わかった、もう一度、仲間たちと相談してみる」

「そうね、私も再度、どうするか検討してみるわ」


 ハビエルが謙虚な顔で恥じ入る。

「許す心がどうのと、得意気な顔で語る前に自分の愚かさを知りました。他者に寄り添い、自分も責任を負う、そんな視点が抜けていたのかもしれません」


 会議はその後、二日後の深夜に再度、集まった時に結論を話し合う流れになった。

 再度集まった時には、三人の考えは纏まっていた。


 ヤイモンが覚悟の篭った顔で告げる。

「私はバトルエルを迎えに行くわ。慣れない仕事だけど、新しい仕事はまた覚ればいいわ。このまま、水脈が細って滅びるよりはましよ」


 バレイラが真剣な顔で申し出る。

「俺たちはバトルエルを社長に仰ぎ、支えていく決断をした。もし、失敗した時は共倒れをも辞さない。簡単には失敗する気はないがな」


 ハビエルが毅然とした顔で述べる。

「人間も協力します。他人に運命を委ねるなんて、口を開けてパンが落ちてくる状況を待つようなもの。パンは自分の手と足で稼ぎます。もう、運命を他人任せにはしません」

 

「ほな、ヤイモンはん、一緒に来て、バトルエルはんを迎えに行こうか」


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