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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バレンキスト編
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第三百六十七夜 おっちゃんとヴィルヘルムの内情

 おっちゃんは夜のうちに瞬間移動を二回だけ使って、バレンキストに戻った。

 バレンキストで一泊して、翌朝の早くにラム酒一瓶と小麦四十㎏を購入する。そのまま、小麦を担いで、瞬間移動を二回また使ってゼネキストに戻る。


 おっちゃんは小麦を駱駝(らくだ)に積み、領主の館に向かった。

 入口に立っていた冒険者に声を掛ける。

「旅の冒険商人です。小麦を運んできました。買いませんか」


 冒険者は素っ気ない顔で話す。

「倉庫の近くに兵站係のハーマン殿がいるから、話をするといいだろう」


 倉庫の場所を教えてもらって、駱駝を引いて行く。途中、家畜の山羊が見えたが、山羊は痩せていた。

 砂に汚れた赤い軍服を着た身分の高そうな若い軍人がいた。兵站係のハーマンだった。

「小麦を運んできたで、買い取ってや」


 ハーマンが渋い顔で応じる。

「ご苦労だな。荷は駱駝一頭分の小麦か。少ないが、ないよりはいい」


 ハーマンの顔には疲れが滲んでいた。ハーマンは買値の二倍の金額を提示した。

(なかなか、ええ値段で買い取ってくれるの。そんだけ、締め付けがきついんやな)


 おっちゃんは換金を済ませると、物資を倉庫に運ぶ。

 倉庫の中には食糧が保管されていたが、それほど量は、多くなかった。ただ、酒の類がなかったのが気になった。

(冒険者を仰山、集めているのに、酒はなしか。食糧の調達だけで他に手が廻らんのやな)


 おっちゃんは寺院に戻るって、駱駝を預けると酒場に行く。

 酒場で待っていると、中級冒険者らしき男が一人でやって来る。男は酒が常連客用だと聞かされると、愚痴っていた。


 おっちゃんは、中級冒険の向かいの席に腰掛ける。グラスを二つ頼むと、ラム酒の瓶をこれ見よがしに、テーブルの上に置いた。

「わいはおっちゃん。旅の冒険者や。ちと、話が聞きたい。付き合ってくれるなら、一杯奢るで」


 中級冒険者はグラスを指差して、物欲しげに告げる。

「話せる内容ならな。でも、まず、一杯目を注いでくれ」


 おっちゃんはラム酒をグラスに半分ほど注いで差し出す。

 冒険者が一気に酒を(あお)って、空になったグラスを、おっちゃんの前に置く。

「で、何が訊きたいんだ」

「ムランキストの街の探索って今、どんな状況や?」


 冒険者がむすっとした顔で告げる。

「街には入れるようになった。街への侵入を妨害してした厄病龍も、追い払った。だが、代償がでかすぎた。三十五人いた探索隊のうち、五人が死亡。二十人が病に(かか)った。元気な人間は、十名だけだよ」


 おっちゃんは二杯目を注いで男に差し出す。男はラム酒を実に美味そうに飲んだ。

「それは、大変やったな」


「覚悟していたとはいえ、思ってたより被害は大きかった」

「でも、ムランキストの街は近づくだけでも病気に罹るって聞いとるで。なんぞ、対策はあるんか?」


 男は酒を飲み干すと機嫌よく語る。

「『賢者の調合書』を丸暗記しているアルカを連れてきている。アルカがいれば、どんな病気の治療法もわかるし、病に対して抵抗性を上げる薬の調合法もわかる」

「なるほどな、それなら街に入れるな」


 おっちゃんは男のために、つまみに塩漬けの鶏を注文してやった。さらに、空になったグラスに、再びラム酒を注ぐ。

「そうか。なら、物資不足を除けば問題なく順調なんやな?」


 男はラム酒を味わうように飲みながら語る。

「問題はある」

「なにが問題なん?」


「アルカには知識があっても、調合の腕がない。腕の良い薬師を呼び寄せようとしたが、南の関所を越えられなくて困っている。十人の薬師が来られないと危なくてムランキストの街に入れない」

「フリードリッヒの陰謀か?」


「そうだ」と答えて男は空になったグラスを差し出す。酒を注ぐと男は面白くなさそうな顔で告げる。

「フリードリッヒは、自前で軍を整えつつある。国軍を仕切る将軍たちの懐柔も試みている」

「そうか、それは良くない動きやな」


「あまり時間が掛かりすぎる展開はまずい。フリードリッヒに手柄をすべて持っていかれちまう。へたすりゃ首もだがな」


 男がグラスのラム酒を全部、飲んだ。

 訊きたい情報は後一つなので、ボトルを男の前に置いた。

「法王庁の特認冒険者が妨害に動いているって聞いたで。問題ないの?」


 男はおっちゃんを気にせず、ボトルを軽く振って中の酒の量を確認しながら答える。

「特認冒険者といったって、十人いないって話だ」

「どこら辺に潜伏しているんやろうね?」


「特認冒険者はムランキストの街の付近にある廃村にいる。廃村はかつてワー・ウルフの村だったというから、今は廃墟同然だろう」

「そうか、ありがとうな。ほな、残りの酒は全部やるわ」


 男は赤ら顔で機嫌よく答える。

「ありがたく貰うよ。それと、もし、ムランキストの街に行くなら止めたほうがいいぞ」

「なしてや」


「あそこには、不要に近づくと皮膚病に罹るって話だからな」

「それは、近づかんほうが賢明やな」


 おっちゃんは、寺院に幾ばくかの銀貨を寄進して、駱駝を預かってもらう。おっちゃんは特認冒険者と合流すべく、かってワー・ウルフが住んでいた村を目指した。

 村の半分以上は砂に覆われていた。井戸も砂で埋まり、使える状態ではなかった。


 誰かがいないと探す。村の外れに木の板が刺さった真新しい砂の小山があった。

 おっちゃんは、それが墓標のように見えた。

(まさか、ビアンカはんが亡くなったとか、いわんやろうな)


 おっちゃんは墓標に刺さった木の板を見る。

「チキータ。ここに眠る」の文字が木に彫られていた。

「ビアンカはんの墓標やないようやけど、特認冒険者側にも犠牲者が出たような。こら、せいぜい用心して行かんと、危ないの」


 特認冒険者の痕跡はなかった。どこに行ったか示す跡もなかった。

(さすが、プロの冒険者や。痕跡が全然ない。これは、合流する計画は無理やな。行動もわからん)

 おっちゃんは、危険かもと思いつつ、単身でムランキストの街を目指した。


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