第三百四十七夜 おっちゃんと襲撃者
翌々日の夜を迎えた。解呪組合から運び出された荷物の列が、夜の街を粛々と進む。
おっちゃんはどきどきしながら人足たちを見守る。おっちゃんは隊列の中央に配備されていた。
おっちゃんたちは無事に港に到着した。少しの時間を置いて、異変に気が付く。
「荷物はこんだけか? まだ、残っていた気がするけどな」
年配の人足が怪訝な顔で発言する。
「荷物はまだあるはずですけど。後列の奴等が遅れているのかな」
年配の人足が人をやって確かめに行こうとしたので、止めた。
「行かなくてええよ。現場監督はおっちゃんやから、おっちゃんが見てきますわ」
「そうですか、なら、お願いします」
「ほな、ちょっと見てきますわ」と、おっちゃんは他の現場監督に声を掛ける。
おっちゃんは駆け足で後方を見に行く。
(積み込み前に襲われたのなら、強盗団の仕業か。人足が無事ならええけど)
しばらく進むと、路地裏で人の気配がする。
路地裏を覗く。人足たちが倒れていた。呼吸を確認する。人足たちは全員が眠っていた。
(ふー、魔法で眠らされただけやな。命まで取らなかった理由は騒がれたり、血の跡が残ったりする状況を気にしたんやろう)
「おい、しっかりせい」と、おっちゃんは現場に倒れていた人足頭を起こす。
人足頭が目を覚まし、ぼんやりした顔で告げる。
「あれ、ここは、どこ? しまった。荷物が持っていかれた」
人足頭が飛び出しそうになるのを留める。
「待て。荷物を追ったらあかん。相手は複数や。それに、おそらく武装もしている。丸腰で行ったら、命取りや。これは、現場監督の命令や」
「じゃあ、どうしたら?」と、人足頭が慌てる。
「まず、後方の人足が全員無事か起こして確認してくれ。わいじゃ全員が無事かわからん」
「へい」と、人足頭が人足たちを起こして、顔を確認していく。
おっちゃんは、時間が掛かるように人足を起こす作業にはわざと加わらなかった。
「トニーとマルコがいません」と、人足頭が強張った顔で声を上げる。
「トニーとマルコは昔からおる人足か?」
「いえ、つい数日前に板場に来た人間です」
おっちゃんは安心させるために人足頭に声を掛ける。
「なら、襲撃者の仲間の可能性があるな。内側から手引きされたのかもしれん」
おっちゃんの言葉に人足頭が顔を曇らせる。
「そういえば、あの二人、さっきになって急に最後尾の荷運びに加わったな」
「誰か、トニーとマルコの素性に詳しい者はおるか?」
人足たちは顔を見合わせるだけで、誰も知る者はいなかった。
「よっしゃ、まず、港にいる仲間と合流や。そこで、上のもんと協議する。まず、港まで移動や、駆け足」
号令を懸ける。こんなところにいたくないと思ったのか、人足たちが駆け出す。
港に行ったおっちゃんは、ゴルカに伝える。
「後続の荷運びの人足が何者かに襲われて、荷が奪われた」
ゴルカは取り乱した様子もなく人足頭に尋ねた。
「奪われた荷物は、幾つですか」
人足頭が畏まって報告した。
「へい、荷車二台分です」
ゴルカは顎に手をやり、澄ました顔で発言する。
「失った荷物については、心配ありません。保険を掛けてありますからね。残りの荷物をきちんと積んでいただけたら、賃金はお約束通りに払いますよ」
ゴルカの言葉に人足頭がほっとする。ゴルカが平然とした顔で指示を出す。
「では、予定通りに積み込みを開始してください。私は船長に数量変更の申請をしてきます」
「へい」と人足たちが応じて。船に荷を運び入れる。
おっちゃんは気になったので、荷運びをしている人足に尋ねた。
「ところで、この船って誰の物かわかるか?」
人足は曖昧に首を傾げる。
「さあ、海運王様の船ではない事実は確かですね」
人足は短く答えると作業に戻った。
船への積み込みが終わったので、おっちゃんたちの仕事も終わった。
おっちゃんは報酬の金貨三枚を貰って、冒険者ギルドに帰る。
三日後、おっちゃんたちが荷物を運び込んだ船が、海賊たちに拿捕された、との報告が冒険者ギルドに入って来た。
おっちゃんはエールを飲みながら思う。
(船に運び込んだ品は解呪の泉から溢れていた呪われた品や。価値があるものは入ってない。せやから、『解呪』の費用を考えれば高く付くゴミばかり積まれていたんやろうな)
海賊に情けは無用。強盗にも同情できない。騙された商人には多少は憐れみを覚える。
だが、プロ同士の騙し合いなら、危機管理ができていないと非難されるのが常だった。
(せやけど、こんな子供じみた復讐を本気でするとは、海運王も落ち目やな)
海運王の評判を、それとなく冒険者ギルドで尋ねてみる。
「海運王かい? 最近はよい噂を聞かないね」
冒険者は肩を竦めた。海運王を褒める者はいなかった。




