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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
345/548

第三百四十五夜 おっちゃんと巨人の住む湖

 翌日、猿人の街に移動する。酋長のドドンガと面会した。

「突然の来訪、失礼します。今日はお尋ねしたい話があって来ました。この近くに巨人の住む湖ってありませんか?」


 ドドンガが自慢げに話す。

「街の隣の湖がかつてそうだったと聞く。だが、我らの祖先が湖に住んでいた巨人と戦い、湖から巨人を追い払った」


(巨人が住んでいた湖の水でええんかな? それとも、現に巨人が住んでいる湖やないと駄目なのか、判断がわかれるとこやね)

「ちなみに、その住んでいた巨人はどこに行ったかわかりますか?」


 ドドンガが尊大な顔で告げる。

「ここから、しばらく東に行った場所にもう一つ湖がある。そっちに移り住んだと言い伝えられている」

「そうでっか。ほな、そっちの湖に行ってみるかな」


 ドドンガが険しい顔で忠告した。

「気を付けられよ。湖に住む巨人は人を喰うとの話だ」

「わかりました。用心して行ってきます」


 おっちゃんは湖の場所を教えてもらい、『飛行』の魔法で空を飛ぶと湖を目指した。

 四十分ほど空を飛ぶと、教えられた通りの場所に周囲十㎞ほどの湖を発見した。


 湖の畔におっちゃんは下り立つ。湖から清浄な気が立ち込めていた

「これは御利益がありそうな湖やね。ここの水を使ったら、ええ薬ができそうや」


 どこからか見られているような視線を感じた。

(噂の人食い巨人やろうか? でも、湖の神聖さからいえば、そんな人を喰うような巨人が住んでいるようには、見えんけどな)


 だが、誰かがいる気配がする。湖の主なら話を通しておかねば問題になる。話が(こじ)れてからでは解決が難しい。


 おっちゃんは大きな声で叫んだ。

「巨人はん。湖に住む巨人はんはおられますか。わいはおっちゃんいう冒険者ですねん。湖の利用に関して話がしたいんです。姿を見せてもらえますか」


 同じ言葉を二度、大声で繰り返す。

 湖面が揺れる。湖の下から、頭が禿げ上がった一つ目の巨人の上半身が出現した。巨人は上半身だけでも五m以上はあった。


 おっちゃんは一目ちらっと見て、巨人は誰かが化けているものだと理解した。

(素人が化けたにしては、よくできている。せやけど、化け慣れていない。細部の詰めが甘いで。巨人はんの本来の姿は、もっと小さいな)


「湖の巨人はんでっか? 実はこの湖の水を使って、魔法薬を作りたいんです。湖の水を使わせてもらって、ええですか? きちんと使用料は払います」


 巨人は怖い顔で怒鳴った。

「ダメだ。この湖は我らのものだ。信用が置けない人間や猿人に渡すわけにはいかない」

「湖が欲しいのとは違います。水が欲しいだけですわ」


 巨人が疑いの視線を向ける。

「そんな甘言を口にして、ゆくゆくは湖を乗っ取るつもりだろう」

「乗っ取るだなんて、滅相もない。ただ、呪われた琥珀糖の木を救い、困っている蟻人たちを助けたいだけです。どうか、ご理解をお願いします」


「信用ならんな」と、巨人は、おっちゃんの言葉を厳しい顔で突っ撥ねた。

「なら、どうしたら信用してくれますか?」


 巨人が思案する顔をする。

「そうだな。人間の街に呪いを解く解呪の泉がある。この泉が汚染されたと聞く。その泉を綺麗にしたら、信用してやろう」

「その件なら、解決しましたで。もっとも、解呪の泉の精はこんな欲深い人間とは付き合いきれん、と(おっしゃ)いまして、しばらくは泉の力を封鎖すると決断されました」


「汚染の解決は本当か?」と、巨人は露骨に疑う顔をした。

「本当じゃよ」と老婆の声がする。


 おっちゃんが視線を向けると湖の畔に、泉の精が立っていた。

 泉の精が語る。

「タッくん。おっちゃんの言葉は本当じゃよ。もちろん、蟻人を救おうとして動いている件も間違いない。おっちゃんに協力してあげてくれ。儂からもお願いする」


 タッくんは困った顔をする

「伯母さんのお願いなら、聞いてあげたい。だけど、人間は本当にうんざりするくらい欲深いからね。猿人だって、共存すると口にしていたけど、前の湖から追い出されたからね」

「あれ? 猿人は戦って追い出したと話していたけど?」


 タッくんは不機嫌に口を尖らせた。

「違うよ。猿人たちが湖を汚したんだよ。住みづらくなったから、こっちに移動してきたんだよ」

「真実は都合が悪いから、改変したんやな。巨人が人を喰う嘘も、巨人はんと街の猿人が接触して真実を知られると都合が悪いからやな」


 タッくんが機嫌も悪く答える。

「僕が猿人を喰う話になっているの? それは酷いな。僕は魚だって食べないのに」

「よし、わかった。ほな、水だけ汲ませてくださいな。猿人にはそれ以上の行いをしないように、釘を刺しておきます。ですから、水汲みを認めてください」


 泉の精も頼む。

「タッくん。儂からもお願いする」


 タッくんは渋々の態度で応じた。

「伯母さんが口添えをするなら、いいけど。水の代金は要らないけど、本当に水を汲むだけだからね」

「ありがとうございます」


 おっちゃんは猿人村に戻って、ドドンガに会う。

「湖はあった。巨人も、おった。せやけど、巨人はんは、今は肉食を断ち、殺生(せっしょう)(いまし)めておった。だから、水を汲むだけなら許可が出たで。水を汲んでモルモル村まで運んできて。水は購入する」


 ドドンガが驚きの顔を浮かべる。

「なんと、あの巨人が善良になったのか! 信じられんな」

「確かに性格は丸くなった。せやけど、怒らせたらあかんで。湖の水の品質を守っている存在は巨人はんや。巨人はんの匙加減の一つで、水の質は下がる」


 おっちゃんは目に力を入れて、ドドンガを見て話す。

「巨人が怒って湖の水質を悪くしたら、人間は猿人はんから水を買わん。水を使こうて蟻人はんへの輸出品を造る。せやから、水質の劣化が起きたら蟻人はんも敵に廻るで」


 ドドンガが鷹揚な顔で請け負った。

「水売買は良い金になりそうだから、水を汚したりはしない。好んで儲け話を潰して、蟻人を敵に廻すほど、我らは愚かではない」


「ほな、とりあえず、金を払うから、一回目の水の運搬はすぐにしてくれるか、二回目からは、次の『七日市』からでええわ」


 おっちゃんが金貨を払う。水はその日のうちに樽に詰められ、モルモル村に送られた。

 モルモル村では薬師が待機しており、夜を徹して魔物防止薬が造られる。


 二日後に完成した『樹木の魔物化防止薬』を蟻人に持たせて効果を試してもらう。

 モルモル村で結果を待つ。三日後にギッシャが村を訪れた。

「抗疲労薬で動けなくなっていた者たちの体は回復した。魔物化防止薬も効果を上げた。琥珀糖の木への被害が止まった。約束通りにモルモル村の琥珀糖の林は人間たちに返す」


 フェリペが緊張した面持ちで確認する。

「『七日市』への復帰はどうするんだ?」

「薬を買うには金が必要だ。昔以上に交易をする必要がある」


 フェリペは顔を輝かせて、おっちゃんに礼を述べた。フェリペは報酬の金貨を渡してくれた。


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