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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アルカキスト編
335/548

第三百三十五夜 おっちゃんとアルカキストの祭り(後編)

 御三家が会場入りしてから三十分後に伝令がやって来る。

「街の広場にデモ隊が集結中です。その数は百人」


 班長が苦い顔で告げる。

「まだ、百名か。この調子だと、二百人は集まるな」

(嫌われとるな、解呪組合)


 班長が渋い顔をして命令を出す。

「よし、第一班と第二班、準備しておけ」


 おっちゃんたちは兜を被って、木の盾を持って衝突に備える。

(おっちゃんたちが抜かれたら、武器を手にした第三班とデモ隊が衝突する。そうなれば、死人が出るかもしれん。踏ん張りどころやな)


 緊迫した顔の伝令が走って来る。

「デモ隊が移動を開始しました」


 班長が号令を掛ける。

「よし、我々も出発する」

 おっちゃんたちはメイン会場へと続く道を進んでゆく。


 班長が指示をする

「盾を構えて整列」


 盾を構えて道に一列になって整列する。

 二十分ほどすると、解呪組合に抗議するプラカードを持った群集の一団が現れる。


 班長が凛とした声で叫ぶ。

「これより先は一般市民が余暇を楽しむ会場だ。おまえたちが来るべきところではない。主催者は即刻、この集まりを解散させ、道を戻られよ」


「おまえらが帰れ」「解呪組合は解散しろ」「解呪に自由を」「代官は退位せよ」

 口々にデモ隊から不満の声が上がる。


 デモ隊が近づいて来る。気が立っているデモ隊は止まらずに前進して、おっちゃんたちの警備の人間とぶつかる。

 盾を挟んで、押し合いが開始される。おっちゃんは盾を手に踏ん張る。拳、足、木の棒が盾を容赦なく叩く。


 おっちゃんたちは、タダひたすら耐えて、デモ隊と押し合う。警備隊で作るラインが揺れる。

 警備隊は夢中で盾を押してラインを崩されないようにする。


 デモ隊の中に強烈な光と音が飛び込む。警備部隊の魔法使いからデモ隊を蹴散らすために『烈光』の魔法が飛んでいた。

 デモ隊が怯む。だが、すぐに『烈光』を打ち消す『無音の闇』が唱えられ、デモは激しい音と光の打ち消し合いに発展した。


 光と闇が交錯する。おっちゃんたちは盾を挟んで抜かれまいと懸命に踏ん張った。

 背後から威勢よく水流が放たれる。消火用魔道具により放水が始まった。


 水は、おっちゃんたちの頭上を飛び越えて、デモ隊に勢いよく降り注ぐ。

 おっちゃんたちにも水が掛かる。デモ隊がトマトを投げて応戦して来る。


 背後からの水と前方から飛んで来るトマトで、警備隊はぐちゃぐちゃになった。木の盾が威勢よく蹴られる。

 放水用の魔道具が新たにもう一機、加わったのか、背後から飛ぶ水に勢いが増した。


 銅鑼を叩くように大きな音が鳴り響いた。盾を蹴る勢いが弱くなった。

 気が付くと、デモ隊が散り散りになり後退していく。後ろを振り返ると弓兵隊が来ていた。


 デモ隊は弓兵隊が投入されて、これ以上は危険と判断した。デモ隊の主催者が銅鑼を鳴らして撤退の合図をデモ隊に送ったと知った。

 終わって見れば、木の盾は壊れかけ、水とトマトでぐしょぐしょになっていた。


 通りを見るが死体は転がっていなかった。

「なかなか、ハードな仕事やったで。でも、死人が出なかっただけ、よかった」


 デモ隊がいなくなったので待機場所に戻るようにずぶ濡れになった班長が指示する。

 待機場所で濡れた体を拭くが風呂には入れない。デモ隊が再結集してやって来るかもしれないので待機する。


 火は使えないとの通達があり、秋の寒空の中で震えながら夜になるまで待つ。昼食は出たが夕食は出なかった。

 日が落ちると待機命令が解除された。報酬に銀貨二十枚を受け取って解散となる。


 警備隊はメイン会場の温泉の使用を禁止された。なので、しかたなく、会場になっていない小さな温泉宿に警備隊の人間は繰り出す。


 小さな温泉宿で温泉に浸かり、温かい食事にありつく。

 温泉宿の人間は警備隊に好意的で「ご苦労様」と声を懸ける。

 暖炉に威勢よく薪をくべて、甘酒をサービスしてくれた。


 警備に携わっていた人間同士が渋い顔をして、ぼやき合う。

「割に合わない仕事だよな」

「ほんと、ほんと」


 翌日、汚れた服を洗濯に出して、冒険者の酒場に顔を出す。

 冒険者ギルドではデモ隊と警備班の衝突は少しだけ話題になっていた。でも、それほど大きな話ではなかった。


 おっちゃんは、テレサに尋ねる。

「昨日、祭りにデモ隊が突入しようとして失敗した件、あまり話題になっておらんの」


 テレサが安堵した顔で教えてくれた。

「どちらにも大きな被害が出なかったからだと思うわ。逮捕者が出た話も死人が出た話も聞いていないもの。祭りも滞りなく終わったわ」


(死人も逮捕者も出なかったから、話題にならんかったのか。デモで不満があった人間も少しは溜飲(りゅういん)を下げた。ほどよくガス抜きになったんやろう。権力者側の勝利やのう)


 テレサが憂鬱な顔で告げる。

「でも、これ、毎年、起きるのかしら? 祭りの記憶は楽しかったんだけどな」


 今回は権力者側がうまくデモを治められた。だが、次もうまくいくとは限らない。

「解呪組合が態度を改めない限りは、難しいやろうな」

 アルカキストの街に垂れ込める暗雲はいつ晴れるか。おっちゃんにもわからなかった。


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