表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ヤングルマ島【マレントルク国】
234/548

第二百三十四夜 おっちゃんとヤスミナ(後編)

 おっちゃんは昼食を摂ると、美味しそうな魚の干物を買って『幻影の森』に入った。

「ポッペはん、いますか? ポッペはん、おっちゃんです」


 おっちゃんは声を出しながら歩く。三十分ほど歩くと、近くの茂みからポッペが現れた。

「なんだ、おっちゃん。また、来たのか、今度は誰が迷子だ」


「迷子やあらへん。ちと、ポッペさんに相談があってな。森の奥で『目覚めの石』って採れるやろう。おっちゃん、その石が欲しいんよ。お礼をするから、石が採れる場所に連れて行ってくれへん」


 ポッペが威勢よく語る

「目覚めの石がある場所は危険だ。でも、おっちゃんは運がいいぞ。俺が『目覚めの石』を持っているから、分けてやろう」

「ポッペはんが持っているんか。それは、助かります」


 ポッペがポケットに手を入れて捜すが何も出てこない。ポッペが思い出した顔をする。

「いけねえ。『目覚めの石』は、落としたんだ」

「どこに落としたら、覚えていませんか?」


 ポッペが残念そうな顔で発言する。

「覚えている。だけど、落とした場所は岩の裂け目だから、取れないよ」

「大丈夫ですわ。おっちゃんなら、取れますわ。案内してもらえますか」


「こっちだ」とポッペが元気よく走り出した。おっちゃんも走って従いていく。

 十五分ほど走ると大きな岩の前に着いた。岩には幅十㎝の裂け目ができていた。中を覗くと、奥に何か黄色に光る石がある。


 ポッペがどうだとばかりに発言した。

「ほら、あの光る石が『目覚めの石』だ。どうだ、あれは取れないだろう」

「そんなことありまへんよ。また、見ていてください」


 おっちゃんは裸になると、蛇の姿を念じる。たちまち、おっちゃんの体がロープのように細く長い蛇の姿になった。


 おっちゃんは人間ではない。おっちゃんは『シェイプ・シフター』と呼ばれる、姿形を変化させられる能力を持ったモンスターだった。


 ポッペがおっちゃんの変身に、素直に驚きの声を上げる。

 おっちゃんは岩の裂け目からするすると入って、『目覚めの石』を(くわ)えると、裂け目から出てきた。人の姿を念じて元に戻る。


 ポッペが顔を輝かして訊いてくる。

「すごいな、おっちゃん。もしかして、大きくもなれるのか?」

「あまり、大きい姿は無理ですけど、ワイバーンくらいにならなれますよ」


 ポッペがキラキラした瞳を、おっちゃんに向けてくる。

「そうか! ワイバーンになってくれるか?」

(『目覚めの石』を分けてもらうんや。それくらい、お安い御用や)


「ええですよ」と、おっちゃんは服をバック・パックに詰めてワイバーンになった。

「よかったら、ポッペさんを背中に乗せて、飛びましょうか」


 ポッペが満面の笑顔で頼む。

「いいのか、頼むよ。俺も空を飛んでみたい」


 おっちゃんはポッペに荷物を持たせると、ポッペを背中に乗せて飛ぶ。

「しっかり掴まっていてくださいよ」


 空を飛ぶと、ポッペが歓声を上げる。空に舞い上がると、遠くに山が見えた。

「あれが、神の住む山でっか」と尋ねる。


 ポッペが機嫌もよく応える。

「『巨人の寝床』のことか? あの山に神様なんか、住んでいないよ。あの山の下には、でっかい巨人が眠っているんだよ」

(そうなんか。マレントルクでは巨人が神様なんかな)


 おっちゃんは二十分ほど遊覧飛行をしてから、森の外れに降り立った。

 ポッペが興奮した表情で声を出す。

「空を飛ぶって楽しいな。また今度、乗せてくれ。できれば友達も乗せたい」


「また、機会ありましたらな。あと、これ、『目覚めの石』のお礼です」


 おっちゃんは持ってきた魚の干物を差し出す。ポッペが素直に喜んだ。

「魚の干物か。嬉しいよ。仲間と(あぶ)って食べるよ。一人の偏屈を除いて、みんな魚は大好きさ」


 おっちゃんは着替えた。ポケットに『目覚めの石』を入れて、意気揚々と寺院に戻った。

 寺院の庭でイサムの姿を探す。赤岩を割って食材を出すイサムの姿が目に入った。


 おっちゃんはポケットの中で『目覚めの石』を握る。

「イサムはん、精が出るな。あんな、ヤスミナはんのことやけどな――」


 イサムが安心した顔で告げる。

「ヤスミナ様の件ですか。ほんによかったです。さすがはナディア様です。まさか、こうも早く石割で『目覚めの石』を出してくれるとは思いもよりませんで」


「ナディアはんが、『目覚めの石』を持ってきたんか?」


 イサムが、きょとんとした顔で答える。

「御存知なかったですか。つい先ほど、ナディア様が『目覚めの石』をお持ちになりました。眠っていたヤスミナ様は目を覚ました」


「そうか。それで、どうなったん。どっちが本物やったん」


 イサムがニコニコした顔で告げる。

「ヤスミナ様が目を覚ますと。もう一人のヤスミナ様が、透明になるようにして消えました。あれには、驚きました。それで、目を覚ましたヤスミナ様が本物だと、巫女長が判断なされました」


 おっちゃんは、ポケットの中で握っていた手を離した。

(ナディアはんが活躍したのなら、それでええか)


「そうか、それはよかったな」と、おっちゃんは踵を返して、宿坊に戻った。


 宿坊でごろごろしていると、扉をノックする音がした。開けると、ヤスミナが立っていた。

ヤスミナは顔に感謝の色を浮かべて話す。


「おっちゃんさん、ですね。私を『幻影の森』から担いで救出してくれたと聞きました。ありがとうございました」


「呼び名は、おっちゃんで、ええよ。別に大した仕事やあらへん。寺院の人にはよくしてもらっていますから。そんで、一つ訊きたいんやけど、どうして、あんな危険な場所に夜に行ったん?」


 ヤスミナの表情が曇る。

「それが、よく覚えていないんです。ただ、『夜の精霊』に呼ばれた気がします。そうして、夢の中で『夜の精霊』に従いて行きました。行き着いた先は『巨人の石』でした」


「そうか。夢と現実の狭間(はざま)にいたんやな。それで、その先は?」


 ヤスミナが苦しそうな顔をする。

「『巨人の石』の前でなにか大事な話を石から聞かされた気がします。でも、何を聞いたかは思い出せないんです」


 おっちゃんはヤスミナを気遣った。

「ええよ。無理に思い出さなくて。ちょっと気になっただけやから」


 ヤスミナがお辞儀をして退出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ