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ふるさと

一方的な思慕

作者: xoo

 私の生まれ育った土地は北海道、空知地方の泥炭地の只中である。既に親も私も近い親戚も離れているが、私の三世代前が秋田から入植した、とのことだ。

 私はその秋田の、父祖の土地に行ったことはない。地名も覚えていない。父から話を聞いたことはあるが、聞き流して忘れてしまった。その父は既に亡く、父の同胞も末の叔父さん一人だろうか。残った叔父さんに今のうちに話を聞くか、父〜祖父〜曽祖父と除籍簿を辿ればあるいは辿り着けるかもしれない。けど。


 年上の従兄、本家の長男が昔、秋田を訪ねた。しかしその土地の人に話を聞いても、お寺さんに話を聞いても、誰も曽祖父を知らない。寺の過去帳を見ると、そこに曽祖父の親の名前があって、目の前の男がその土地の係累であることがやっと認められた、そうだ。そりゃそうだよね、食いつめてその土地を離れた次男三男四男……の事なんて、その土地に残って地を繋いだものにとっては(えにし)なんて感じることはない。

 でも、その土地を離れ、その土地に思慕しながら開拓地の土と成り果てた者の子孫にとっては、一方的ながら父祖の土地、なのだ。



 あの年、2011年。8月、台風12号が紀伊半島を襲い、多数の被害が出た。その時、奈良県十津川村へ北海道の新十津川町から駆けつけた人々がいた。しかし十津川村の方では、名前が同じだけの遠く離れた北海道から人が来たことに戸惑ったという。


 北海道新十津川町は、明治22年(1889年)8月に起きた十津川大水害で壊滅的な被害を受けた十津川郷(今の奈良県吉野郡十津川村)の住人2500人が、北海道樺戸郡に入植して作り上げた町である。入植した人が皆、土に帰った後も、新十津川の人々は十津川村から入植した歴史を語り継ぎ、母村と呼び、思慕を高めていった。たとえ姉妹都市の申し込みを断られても。

 その後。十津川村と新十津川町は2017年、奈良県を交えて連携協定を結んだ。新十津川町の人にとって大事だったのは、母村に認められることではなく、母村の役に立つことだったという。



 同じ2011年3月。東日本大震災の発生直後に北海道伊達市は宮城県亘理(わたり)郡への支援を決め、翌日には第一陣が出発した。当別町も同様に父祖の地に支援を決めたと聞く。


 幕末そして明治維新。戊辰戦争に負けて伊達家の分家筋の亘理伊達家(亘理藩)は石高を2万3180石から58石(わずか0.24%)にまで減らされ、家臣団を養うことができなくなった。亘理藩館主の伊達邦成は自ら家臣団を率いて胆振国有珠郡、今の北海道伊達市に入植した。同様に岩手山伊達家(岩手山城、所領は現在の大崎市など)は1万4643石から65石に減らされ、城主の伊達邦直は家督を息子に譲って別家(当別伊達家)を立て、石狩国石狩郡当別、今の当別町に入植した。ちなみに二人は実の兄弟で、弟の邦成が亘理伊達家に婿養子に入った経過がある。

 伊達市と亘理町は従前から交流があった。東日本大震災後に伊達市は、津波による塩害で特産物のイチゴが作れなくなった亘理町のイチゴ農家を受け入れて土地を提供するなどの支援を行なった。のちに降雪が少ない伊達市にイチゴのハウス栽培が定着するきっかけとなった。



 伊達市は北海道と福島県の2つがある。北海道の伊達市は1972年市制施行、平成の大合併で有珠郡壮瞥町及び大滝村と対等合併し、新たな名前をつける構想があった。一方、福島県伊達郡は鎌倉時代に御家人中村朝宗が陸奥国伊達郡を賜ったのをきっかけに伊達姓を称し、伊達宗家初代宗主となった、いわば伊達家本家の発祥の地である。同じく平成の大合併で市になろうとしていた福島県側は伊達市の名称を望み、新たな名称を予定していた北海道側が譲る形で穏便に決まるはずだった。

 しかし北海道側の3市町村合併は壮瞥町が離脱、伊達市と大滝村の飛地での吸収合併となったが、伊達市側の古い住人が伊達の名前に固執し、2つの伊達市が並立することとなった。気象庁の地震速報などではそれぞれ胆振伊達市、福島伊達市と称されることがあるが、正式な名称はどちらも伊達市である。

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― 新着の感想 ―
子どもの側からの一方的な想い、なのでしょうか。 実は、ルーツの1つに十津川村がありまして、十津川村にも新十津川町にも親近感を持っています。 お祖父ちゃんお祖母ちゃんや伯父さんのような。 スーパーでJ…
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