表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/43

災いを呼ぶアルタイル





やっとだ。


グレース・ユルフェは、そう思った。太陽が陰り始めたのが、部屋の窓からよく見える。

美しい夕日が、これから起こることを、祝福してくれているのではないかとすら思えた。

雰囲気を出すために、いくつも持ってきたキャンドルに火を灯しながら、グレースは微笑みを深くした。

運命の番に出会った瞬間に、グレースには分かった。そして、運命の番であるエマニュエル・リシュリューにも分かったことだろう。

エマニュエルは、それから、グレースをずっと見つめるようになった。

王女を無理やり降嫁させられた悲劇の銀狼。それが、エマニュエルの評判だったから、グレースも知っていた。

男爵家の仲間入りを果たしたばかりのユルフェ家でも、その話題で持ちきりだったからだ。でも、その噂の人が、自分の運命の番だなんて。運命の番に会えた幸運と、そしてその相手との叶わない恋に、グレースはみるみる溺れていった。


どうしても手に入れたい。


物語の主人公のような彼と、悲劇のヒロインの自分が、番になった時、きっと、この物語は獣人に語り継がれることになる。

それに、それはエマニュエルの望みでもあると思った。熱に浮かされたようにグレースを見つめる瞳も、グレースだけを隊で特別扱いすることも、全部全部、これがグレースだけの勘違いではないと思わせてくれる。

でも、エマニュエルはどこかで、しっかりと線を引いていた。それは、抗えない本能の中に、わずかに理性を灯していることを証明するようだった。

健闘会の日、祝福のキスを見せつけられるのが嫌だったグレースは、エマニュエルの剣を模擬刀と入れ替えた。それにエマニュエルは気づいていたが、グレースを責めなかった。

エマニュエルは、ギー・アゼマに膝を折る形となったが、それでいいとグレースは思っていた。

エマニュエルとジゼルの不仲は、よく知られていることだったし、エマニュエルは負けても一番強いことをみんなが知っていた。

エマニュエルがあえて、負けたのだとみんな思う。そうすれば、より一層、エマニュエルとジゼルが不仲であることが強調される。

グレースの読み通りだったが、初めて会ったジゼルは、恐ろしく美しかった。顔の造りは、絶世の美女とは違うし、神々しい美しさを想像していたから、勝ったと思った。でも、違う。立ち居振る舞いや、表情、そして、そらすことを許さない瞳、動くだけで神が奇跡を起こしているのかと思うような舞、神の炎と触れ合う神秘を目にした瞬間に、恐ろしくなった。

彼女が守り人であることを、認識した。

でも、ギー・アゼマの手を離させようと、エマニュエルがジゼルを抱き寄せた瞬間に、許せないという感情が勝った。


ジゼルは恐ろしい、でも、運命の番は自分だ。


エマニュエルの腕の中にいるジゼルを睨み付けたが、それに気づいた彼女は、じっとグレースを見つめ返した。

感情のないヘーゼルの瞳は、グレースの宣戦布告を間違いなく買っていた。




グレースは、キャンドルの中でひときわ大きなものに火をつける。バラの香りと聞いていたが、びっくりするほど甘い匂いに一瞬、鼻をふさいだ。グレースがエマニュエルに感じる香りよりも、ずっと強くて、くらくらする。

エマニュエルは、絶対に、グレースにこの香りを感じて、本能をたぎらせている。グレースが近づき、不自然にならない程度にエマニュエルに触れると、彼は発情の香りをさせていた。あの涼やかな目元が色欲に染まり、鍛錬の時ですら、ほとんど見せない汗が顎を伝う。

それが、嬉しくて嬉しくて、たまらない。なのに、エマニュエルは、王家の圧力のせいで、グレースに手を出さない。

だから、グレースが背中を押してあげないと。

暗くなり始めた部屋のたくさんのキャンドルは、想像よりも美しくて、グレースは嬉しくなった。ここが、二人の運命の部屋になる。

下準備は完璧だったし、エマニュエルは絶対にここに来る。二人は運命の番だ。この運命に、誰も逆らうことはできない。

匂いに中てられてクラクラしているグレースは、扉が開かれた瞬間に、運命が動き出したのを感じた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ