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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE10

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256/332

狂気に呑まれ 

 ツイッターのプロフに黒彼クイズ設置しておいたので、暇な人はチャレンジしてみてください。


 大分簡単です。

 『妹』を殺す決心はしたものの、それには準備が必要だ。精神的なものではない。俺はこの手の決断を中々出来ないが、出来ないからこそ、一度してしまえば絶対に揺らがない。

 俺は『妹』を殺す。

 目先の感情に呑まれていると分かっても、殺さずにはいられない。俺を日常へと繫ぎ止めていた楔……それこそ妹だったのに。その楔が無くなった以上、もう日常に戻る事は許されない。ならいっその事、自分から足を踏み入れてやる。黒い世界に。クオン部長や西園寺部長が居る世界よりも遥か深淵……犯罪者の世界に。

「それじゃ私、ちょっと周りを見てくるね! 誰かが私を尾けてきてるかもしれないし。それまでお兄ちゃんは大人しく待っててね!」

「おい、いい加減解けよ」

「万が一があるから♡ 逃げたら許さないからねッ?」

 そう言って『妹』は扉の外へ姿を消した。この間に俺は彼女を殺す為の準備をしなければならないが、身体が縛られたままで放置されるのは想定外だった。これでは何の準備も出来ないではないか。


 ―――萌の拉致されている場所さえ分かればな。


 俺の考えていた作戦は、『妹』に同行し拉致されている場所を把握。背後からどうにか『妹』を殺し、それから萌を助けるというものだったが、変えざるを得ない。元々興味が無かったから『もしも』すらあり得ないとしても、縄抜けの技術を会得しなかった事を後悔した。この縄が解けるのは直接縛った『妹」だけ。彼女の帰還まで、俺はどうやっても動く事は出来ないのだ。

「あああああああクソッ! どうにかして解けろよおおおおおおおおおおお!」

 俺の叫びが空しく響き渡る。事態は何も進展していない。奇跡的に縄が解ける事は無いし、縄の耐久度が弱まっていて、切れるという事もない。縄は馬鹿みたいに硬いし、『妹』はしっかりと縛っている。

 そして『妹』はちょっと周りを見てくるねと言った癖に、中々戻ってこない。もう三十分も経過している。大して楽な姿勢でも無いが、あんまりする事がないと流石に段々眠くなってくる。

 いや、駄目だ寝てはいけない。寝たらそれこそ作戦の全てが破綻する。俺は暗殺者などとは違い、素手で人を殺せる強者では無いのだ。


 人を殺す……なら……何かしらの準備を…… 


 意識が、落ちた。





「―――ようやく見つけた」

  












  


「…………ちゃーん。お兄ちゃーん!」

 聞き慣れた声が聞こえる。主に朝頃に、聞き慣れた声だ。

 ……分かっている。声の主は『妹』だ。聞き慣れた声を発していても、『妹』は『妹』だ。

「起きてってばー! 置いてくよー?」

 何が言いたいのかと言うと、不愉快だ。同じ顔、同じ声の他人に寝起きを叩き起こされる時程不愉快な事は無い。意地でも寝たふりを貫こうとも考えたが、身体に掛かっていた拘束が解かれるのを肌で感じると、俺は直ぐに立ち上がった。

「わッ!」

 寝たふりをしようか否かと考えられる時点で大分覚醒していたのは言うまでもない。『妹』からすれば突然跳ね起きた様に見えるだろうが、俺はこいつが嫌いだ。嫌がらせの一つや二つは積極的に行おう。

「お兄ちゃん。殺る気満々だね♪」

「ああ。『首狩り族』だからな。首を獲る気にもなるだろう」

「あはは! じゃあ私も誰かを殺したら、二人合わせて『首狩り兄妹』だね!」

 うざい。あんまりにもうざいと、作戦とか関係なしにこの場で殺してしまいそうだ。こいつは本当に何を言っているんだ。頭は大丈夫か。『妹』のどんな言葉も聞くに値しないから適当に流すつもりだったが、下らな過ぎて流す気にもなれない。

 微妙な視線だけを返すと、『妹』は露骨に不機嫌になった。

「……お兄ちゃん、ノリ悪い」

 こいつには自省というものが無いのだろうか。『アイツ』の身体を奪い取り、その立場を利用して俺を攫い、あまつさえ俺に殺しをさせようとして、更には俺の神経を逆撫でする為に『アイツ』が普段やっていた事を見様見真似でやって、怒らない筈が無いだろう。どうして自分が元凶だと気付けない。俺をこんな風にしたのは何処のどいつだ。


 俺に日常を捨てさせる決心をさせたのは


 他でもない


 お前だ。


「さっさと案内してくれ。萌を助けたい」

「はいはい。全くお兄ちゃんったら、私が居るのに、この浮気者♪」

 『妹』は意気揚々と俺の腕にとびついた。

「……何のつもりだ?」

「この方が仲良し兄妹に見えるでしょ?」

 俺が意地でも『妹』を拒絶する様に、どうやら彼女の方も、兄妹が居る感覚を楽しみたいようだ。今まで散々拒絶しといて何だが、ここまでの根気を見せられたら折れるしかない。俺の方からも腕を絡める力を強くすると、彼女は無邪気な笑みを浮かべた。

「じゃあ、行こっか!」

 ああそうだ。今の内に兄妹を好きなだけ楽しんでいればいい。好きなだけ兄妹を味わっていればいい。本物になり替わったつもりでも、所詮は偽物。俺とお前は兄妹じゃないし、相思相愛という訳でもない。お前の事なんか知りたくもないし、お前の顔なんか見たくもないし、お前の思想を理解する気もない。

 今は耐える時だ。俺は自らの舌を噛みながら、笑顔を取り繕って萌救出に向けて歩き出した。普通、こういう状況ではどうやって助けるか、とか。不測の事態にはどう対応するか、などを考えそうなものだが、俺は違った。


 萌を助けてからこいつを殺すか、それともこいつを殺してから萌を助けるか。


 ハムレットではないが、それが問題だ。

「一つ聞いてもいいか?」

「何?」

「殺す時の手順とか……そういうのはどうするんだ? あっちだってやられっぱなしとはいかないだろ」

 自殺志願者なら話は別だが、萌の父親は萌をレイプする事に躍起になっていた。言い方が悪かったので訂正すると、血は繋がってないとはいえ娘と子供を作ろうとしていた。子供を作るとは即ち自分が生きていた証を残す事であり、要するに生きる気満々である。

「え? 普通に背後から刺せば良いんじゃないの?」

「簡単に背後を取れるとは思えないんだけどな。まさか入り口に背中向けてる訳ないし」

「いやいや。多分あの子もう犯されてる頃だよ? って事は……分かるでしょ?」

 

 ―――ああ。

 

 ぼかして言ったつもりだろうが、察しが悪い俺でも言わんとする事は分かったのだから、モザイクに意味はない。確かに行為中に襲えば、確実に先手は取れる。だが俺としては、萌の純潔が散らされる前に助けたい。『妹』を急かす必要がありそうだ。

「分かるが、ちょっと待て。そんな無防備な状態で部屋に鍵も掛けない奴は居ないだろ。そもそも何処の部屋で撮影したんだよ、あのビデオは」

「今から案内してあげるから焦らないで、お兄ちゃん♪」

 意外に抜け目がない。居場所さえ聞き出せたら近くの石でも拾って後頭部を殴りつけようかと思ったのに。一度は手を組んだ萌の父親を殺す計画は、実は随分前から練っていたのかもしれない。ひょっとしたら、出会ったその瞬間から。そうでもないと、ここまでの用心深さは出せないだろう。

 どんなに頭の良い奴がたてた作戦も、それが突発的である限り、必ず綻びが生まれる。所謂『うっかり』という奴だ。俺の言葉運びは大分自然で、狙って聞き出しているとはまず思われない筈なので、ここで『うっかり』をしないという事は、今回の作戦における裏目を全て把握している可能性がある。


 ―――直接騙すのは無理そうだな。


 一番腹が立つのは、ここで場所を聞き出せないと萌を助けに行けないので、二次的に俺の反逆を防いでいるという点だ。反逆を想定しているのは当然としても、こんなにあっさりとケアされると、掌の上で踊らされているみたいで業腹だ。

「……マジで許さねえからな」

 敢えて特定の人物を指さず、俺はぼそりと呟いた。

 

     

 頑張ればもう一回……いやあスペシャルエピソード進めるかなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒彼クイズやってみたいんですがリンクはもう消したんでしょうか? 天奈に続いて萌までとなると胃がキリキリします。
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