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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE6

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121/332

完璧と完全は破られる為にある 後編

次でスティックゲーム自体は終わらせるよてい。

 制限時間は一分。この一分の間に考える事は山積みだ。そう言えばジャッジ係が居ない様な気もするが、そこは全員同時にやらなければいい話なので、あまり問題はない。

 取り敢えず旗は一番公正に判断してくれそうな部長に任せておいて、先発は香撫達がやる事になった。先程の相方選択と違い、くじ引きの結果こうなったので、俺に介入する余地はない。

「それじゃあ、始めるぞ」

「はい! 碧花さん、頑張りましょうッ」

「………………はあ、そうだね」

 紛らわしい話だが、俺の開始合図は飽くまでこのゲーム自体の開幕を告げるものだったので、このゲーム内における合図とは全く違うものだ。後者の合図は部長がやってくれる。先発にならなくて何よりだ。まずは他のメンバーがどれだけの実力を保持しているかを見物させてもらうとしよう。



「よーい、スタート!」



 目隠しをしてスティックの両端を加えた二人が食べ始めるが、そこで俺は見物人の……正確には、碧花の事が好きな見物人のデメリットに気付いてしまった。まさか俺にこんな趣味があったとは思わなかったが、どうしてしまおうか。


 目隠しをしている碧花に、背徳的興奮を感じてしまうのだ。


 それだけではない。棒をどれだけ短く残せるかというレースなので、必然的に彼女は棒を食べ進める事になる。より変な言い方をすると、棒を口の中に押し込む事になる。この時点で俺の抱いている想像がどういう物か、勘の良い童貞諸君ならばお気づきになる筈だ。

 このイメージが下ネタを覚えた小学生が何かにつけてそれに繋げるのと同じなのは分かっている。女性に対して免疫があり、余裕のある男性諸君ならば俺の反応には呆れを通り越していっそ不快感すら味わうかもしれない。『こいつがっついてんな』とでも思うかもしれない。

 けれども、俺は聖人でも無ければ八方美人で無欲な人でもない。好きな人が居るなら、その人の事は自分の手で幸せにしたいと思うのが俺だ。『アイツが幸せならそれでいい』などと、他人や環境に任せた幸福で妥協出来る人間ではないのだ。そして、これは言い換えれば、好きな人を征服したいという事だ。どういう意味でも自分の物にしたいという事だ。

 水鏡碧花は俺にとって好きな人の類に入る人物である。しかし、彼女の美貌は俺にとっては高すぎる壁であり、決して手に入るなどとは思っていない。いや、思っていないからこそ、俺は彼女に対してよからぬ妄想を抱いてしまう。『もしもこうなったら良いな』とイメージする。

 教会があるのなら即刻懺悔室行きになるであろう俺の罪深さは自覚しているつもりだ。果たしてどうしたことだろう。端から恋愛対象として見ていない妹やその友達はともかく。由利や萌でも同じイメージを抱いてしまうのなら問題しかない。まさかこんな事になるとは夢にも思っていなかったので、対処方法も当然思いついていない。

 俺は背中に己の罪が刻み込まれるのを感じた。盛り上げる為とはいえ全員を騙し、それでいながらこんな所で興奮するなんて! 

 全員を騙している事に関しては『盛り上がったからいいじゃん』とか何とか言って開き直ろうとか考えていたが(仮にバレた場合。バレない為に俺は優勝するのである)、ここまで加わると、開き直るという手段は最悪な気がしてきた。

 香撫はどんどん食べ進めていく。碧花もペースこそ遅いが、食べ進めている。制限時間は残り三十秒。二人の唇の距離はかなり近い。チキンであればこの辺りでストップさせる事もあるだろう。だが二人はまだ動きを止めない。


―――何でこんなにやり手なんだ。


 慣れていない筈なのに、まるで毎日毎日想定していた様な動きだ。特に碧花。あのペースは明らかにスティックの全長を知っている速度だ。彼女とキスをしたい人間は俺を含めて山ほど居るだろうが、ひょっとして彼女にもキスしたい人間が居るのだろうか。そんなイケメン、校内に居たかどうか定かじゃない。大概イケメンなど覚えやすい顔なので、俺が忘れている筈は無いのだが。

 残り時間は数十秒。あの距離だと、そろそろ互いの鼻息とか、匂いを感じてくる頃合いだろう。意図的にキスをしようとしない限り、ここでペースを上げる輩は居ない。当然、二人もそうだった。






「そこまで!」

 




 

 部長が白旗を上げると共に、停止。スティックの長さは二センチ。かなりギリギリというか、唇の厚みでによっては突破不可能な記録が生まれてしまった。この記録に驚いたのは本人達よりも、純粋にこのゲームを楽しもうとしている萌達よりも―――皆を騙している自覚のある俺だった。言いたい事は色々あるが、一つはっきりしているのは、いきなり負けそうという事だけだ。


 まさかここまでの記録を叩き出してくるなんて。


 そう言えば、やり忘れていた事があった。俺は仮想スティックゲームで十万勝したのかもしれないが、飽くまでそれは経験であり、勝ち方ではない。そして俺の場合、他の参加者が強豪という想定を一切していなかった。なので勝ち方も糞も、俺が今まで積み重ねてきた勝利は仮想空間による俺TUEEE以外の何物でもなく、つまるところ無意味だったという訳だ。

「やりましたね! 碧花さんッ」

「…………そうだね」

 好成績を出せて嬉しそうな香撫とは対照的に、碧花はちっとも嬉しくなさそうだった。かなり気が進んでいない様だ。それでもきっちり好成績を残すあたり、彼女が学校において優等生である事を証明している。

「部長! これは私達も負けられませんねッ!」

「優勝賞品によるけどな。まあ頑張るさ。それなりにな」

 クオン部長はスティックを手に取りつつ、フードを脱いだ。

「狩也君。次、ジャッジ頼むぞ」

「あ。はい。分かりました」

 後ろ姿はイケメンだが、そういう人物は割と居る。肝心の顔は仮面で見えないので、きっと卒業まで彼の顔を拝むことは出来ないのだろう。しかし、不思議と俺の中に悲しさは無かった。

 出会った当初は顔が見たくて仕方なかったが、付き合いが少し長くなってくると、むしろ顔を見たくないという思いが芽生えつつあるのだ。それは『顔を見たら幻滅するから』という事ではなく、顔が見えない方が部長だからという理由だ。顔の見える部長は部長ではない。俺の中では少なくとも、クオン部長は顔が見えないからクオン部長なのだ。

「それじゃあ二人共、準備は良いですか?」

「ばちこい」

「いつでもどうぞ!」

 二人がスティックを咥えたと同時に、おれは開始の号令を出した。

「始め!」






 俺がそう言った直後、部長は一瞬でスティックの殆どを食べてしまった。  

 





 あまりの速度に、言葉が出なかった。萌は一歩も動いていない。多分、開始前に「動くな」とでも言われたのだろう。二人の唇に挟まれたスティックを測るには、距離にも因るが、少し離れると肉眼では確認出来なくなっていた。しかし唇が当たってはおらず、本当にギリギリで静止していた。ここまでギリギリだと、唇が震えるだけでもキスしてしまいそうだ。俺は慎重に二人の間を見つめて、一分の時を待つ。失敗しろと心の中で念じてみたが、どちらも石化したみたいに動かない。まるで最初から死んでいるかの様だった。

 そんな二人の中で経過する一分はあまりに長いのかもしれないが、俺達観客にとってみれば、この上なく短い時間だった。

「それまで!」

 スティックの長さ、一センチ未満。この時点で俺は敗北を予感した。

 何故前後へんにしたし→投稿時間が間に合わないから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 目隠しをしている碧花に、背徳的興奮を感じてしまうのだ。 狩也くん、、、。
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