ガンドルンの町
雨に濡れながら、ゴパルがガンドルン内を歩き回る。レインウェアのおかげで、意外に快適のようだ。
店を見て回って、店主と簡単に会話を交わして回っている。ガンドルンにも建設業者や、資材運送業者が数多くあり、看板があちらこちらに立っている。
普通であれば、ここで数社に顔を出して、事業の見積もりをさせて検討するべきなのだが、ゴパルには、それをする気は無さそうである。
代わりに、パン屋とピザ屋があるのを発見して、驚いている。
「発酵に使うのは、市販の粉末イースト菌でしょうか? 店主さん」
早速、店内に入って店主に質問を始めた。店主も、ゴパルの質問に面食らった様子だったが、彼が微生物の専門家という事を知って、何となく納得してくれたようだ。
やはり、海外産の乾燥粉末イースト菌を輸入して、使用しているという返事だった。小麦とバターも輸入していると言う。ゴパルの垂れ目がキラリと光る。
「今度、氷河の宿近くで、低温蔵を作る予定です。国産のイースト菌や、パン用、ピザ用の酵母菌も保存します。一般の人からの評価も集めますから、後日、酵母菌の配布も計画していますよ」
……と、説明を受けても、何のことやら分かっていない様子の店主であった。
仕方なく、パンを数個買って店を後にするゴパルである。もうすっかり、建築や運送業者の、見積もり集めをする事は忘れてしまったようだ。
ガンドルンは坂ばかりの町なのだが、石畳の階段が整備されているので、測量ポールの杖を使って歩く必要は無い。
少し、お荷物に感じてしまったが、また分解してリュックサックへ入れるのは面倒なので、そのまま持って歩いて行く。
ゴパルの目に、池が映った。しかも流水の池だ。早速、池へ駆けつけて、柵越しに池を見つめ、そばに立てられている看板を見た。再び垂れ目がキラリと光る。
「へえ。ニジマスの養殖場か。レストランも付属しているんだね。でも、レストランと呼ぶよりは、食堂って呼んだ方が適切かなあ……」
グルン族の農家を、そのまま改装して食事ができるようにした建て構えなので、確かに食堂と呼ぶ方が似合っているようである。
とにかくも戸惑う事なく、真っ直ぐに入店するゴパルであった。




