計画停電
三人の二十代前半の男スタッフの一人が、頭をかきながら教授に振り返った。
「厳しいと思います、クシュ教授。今年設置した冷凍庫の消費電力が大きいですね。発電機で使う軽油と、ピックアップトラック用のガソリンを共に、三割ほど多く備蓄しておくべきかと」
ラメシュの提案に、腕組みをしながら同意するゴパルである。チヤをもう一口すすってから、クシュ教授に黒褐色の瞳を向けた。深刻度がさらに三割増しになっている。
「先程のニュースでは、鉄塔の倒壊が起きているとも報じていました。首都へ向かう幹線道路が、土砂崩れで通行止めになる恐れもありますね」
クシュ教授がチヤをさらに一口すすってから、ガラスカップをテーブルに置いた。禿頭の後頭部に残っている白髪交じりの黒髪を、軽くかき上げる。
「うむ……燃料不足になる恐れもあるという事だね。冷凍庫や冷蔵庫が使えなくなると、困るなあ」
ネパール国内には油田は無い。燃料は全て陸路でインドや中国から輸入している。パイプラインでの輸入では無く、トラックを使った輸入なので、幹線道路が不通になると、すぐに燃料不足になってしまう。
ゴパルもガラスコップをテーブルに置いて、腕組みをした。
「今年は、海外との大きな合同研究がいくつかありますからね……停電で機器が使えませんでした、では今後に悪影響が出ますよ」
ラメシュがチヤを一気飲みして、空になったガラスコップをテーブルに置いた。
彼は身長が百八十センチあり、ゴパル助手やクシュ教授と違って、スリムな体型である。眉も短いが細く、癖のある黒髪も肩先まで伸ばしている。メガネも縁無しの小さなもので、この五人の中ではオシャレな方だろう。
「それは勘弁して欲しいです。私達三人は、博士課程の大事な時期です。博士浪人になるのは嫌ですよ」
ラメシュと一緒に、窓枠の雨漏りを調べていた、二人の二十代前半の男達が、クシュ教授に心配そうな顔を向けた。ラメシュと、この二人が、博士課程なのだろう。
ゴパルがチヤを飲み干して、目を閉じて腕組みをした。
「うーん……とりあえずは、燃料の備蓄量を増やすしかないですか。同時に、長期停電に対応した研究計画に、練り直さないといけないかなあ……」




