ゴパル山羊
ゴパルは山羊にも劣る、とでも言いたげな物言いである。ちなみに、ヒンズー教では、山羊は、かなり愚鈍な印象を持たれている。
協会長も、サビーナの意見に賛同する部分があるようだ。ゴパルに料理を食べるように促しながら、赤ワインを一口飲んだ。まずは、国産ワインから飲んでいる。飲み慣れているのか、ゴパルと違って表情に変化は現れていない。
「紅茶の木の枝は、山羊も食べますよ。ひと手間かければ、牛も食べますし。それよりも、チヤに大量に入れる砂糖や練乳の害の方が、気になります」
早くも復活したアバヤ医師が口を挟んできた。彼は、妻と共に、子羊の肉の煮込み料理を食べている。赤ワインも、国産では無さそうな香りだ。ゴパルと協会長が飲んでいる、フランス産の赤ワインと、飲み比べもしていた。
「バター茶を有難がるボテに、言われたくは無いけれどな。塩が多過ぎだろ、アレは」
協会長はチベット系のタカリ族なので、本来は、塩バター味の茶を飲む。紅茶葉では無く、黒いレンガのような形状の黒い茶葉を、削って使う。たん茶と呼ばれている。ただし、大きなヤカンでグツグツ煮出して飲む点では、チヤと変わらない。
味の方は、焦げ臭いウーロン茶風味の、塩バタースープといったところだ。慣れると、一日中エンドレスで飲めるようになる。
それと、ボテというのは、チベット系民族に使う蔑称だ。意味は、チベット難民とか、そういう感じである。尊称はラマで、お坊様とか、そういう意味になる。
ちなみに、バフンに対しては、タパレが蔑称で使われる。意味は、欲深とか、そんな感じ。寺院の司祭には、バフンの成人男子しかなれないので、喜捨や寄進を受け取る立場になる。そんな彼らを指しての言葉だ。
チェトリに対しては、カシアで、これは混血。ネワールに対しては、ククラで、英語の悪口で使うチキン野郎に意味が近い。で、グルンについては、当然ながらジャディヤで、アル中である。
なお、不可触民カーストや、異教徒の連中に対しても、それぞれ蔑称があるのだが、これはシャレにならないので書かない。




