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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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赤ワイン二つ

 給仕長が、赤ワインの瓶を持ってやって来た。

 協会長が、給仕長から紹介されたワイン瓶を見ているのを、ゴパルも横から見る。ワイン樽が並べられた熟成庫の白黒イラストがあり、モレ・サン・ドニという文字表記があった。下の方にクロ・ソロンと書かれている。

(……モレ・サン・ドニというワインの名前か。村の名前をそのまま使っているんだな。しかし、知らない銘柄だな。もしかして高いのか?)

 思わず、冷や汗をかくゴパルだ。高いワインは、本当に高い事くらいは、知っている。本当にホテル協会の経費で落とす事ができるのかどうか、不安に感じる。

 一方の協会長と給仕長は、そんなゴパルの不安をよそに、平然としている。瓶のラベルを確認した協会長がうなずいた。

「では、これにしましょう」

 給仕長が一礼した。

「かしこまりました。では、ご確認ください」

 給仕長が、協会長のグラスに、このワインを少量注いだ、その赤ワインを、協会長が試飲する。


挿絵(By みてみん)


 数秒間ほど風味を味わってから、満足そうにうなずく協会長だ。

「うん、これなら許容範囲でしょう。これで、お願いします。ゴパル先生と私に一杯ずつを。残りは、皆様で分けあってください」

「かしこまりました」

 給仕長が、協会長とゴパルのグラスに、それぞれフランスの赤ワインを注いだ。瞬時に、華やかな乾燥ベリー系の香りが、客席に広がっていく。

 続いて、国産の赤ワインが、グラスでそのまま出されて来た。こちらは、瓶を見せる事もしていないし、客に試飲もさせていない。グラスワインは、通常、試飲をしないのだが、それを勘案しても、まあ、そういう程度の酒なのだろう。

 こちらは、より赤黒い色合いで、プラムの果実のような香りが強い。少し、微妙な気持ちになるゴパルであった。


挿絵(By みてみん)


 とりあえず、それぞれのワインを一口ずつ飲んでみる。フランスのワインは、チョコレートや革、干した果物の香りが口の中に広がる。穏やかながらも、受ける印象はかなり強めだ。

 次に、国産ワインを一口飲んでみる。酸味が強く、ベリーのような香りが強いのだが、受ける印象は今ひとつであった。飲み比べてみると、国産ワインの方がブドウ果汁の風味が強い。


 給仕長が、そんなゴパルの表情を察したのか、申し訳なさそうに告げた。

「お客様をご不快にさせてしまうような行為は、厳に慎まないといけませんが……」

 こう前置きして、真剣な表情になる給仕長だ。

「我々、ポカラの会員制レストランは、国産ワインに大いに期待しております。ですが、今は、グラスでご提供する、安価なテーブルワインの扱いです」

 給仕長とゴパルとが、同時に国産の赤ワインが入ったグラスを見つめた。

「その現状認識を、共有してもらいたく、このような事をいたしました。お許しください、ゴパル先生」

 ゴパルが、納得してうなずいた。

「謝る必要はありませんよ。品質は嘘をつきません。知名度を上げて、人気が出るように、私も微力を尽くします」


 もちろん、ゴパルは大学の研究者だ。ブドウ園やワイン酒造所の、社員でも役員でも無い。バクタプール酒造から、事業報酬を受けてもいない。

 ただ、ブドウ栽培で使用している有機肥料は、KLを使ったものだ。さらに、ワイン専用の酵母菌や乳酸菌の、共同開発と研究を行っている。そのため、関係者である事には違いは無い。

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