トマトソースのパスタ
給仕長が穏やかな声で、次のパスタ料理を運んできた。さすがにランチだけあって、結構多めだ。
「トマトソースのパスタです」
早速、ゴパルがフォークとスプーンを使って、赤いトマトソースがたっぷりと絡まっているパスタを巻いた。
豚の頬肉の塩漬けと、燻製香りが若干するベーコン、それに細かく刻まれたマッシュルームが、ソースに程よく混じっている。ニンニクは控え目だが、香草の香りが強い。
しかし、緑色の葉や、根らしき物は見当たらない。乾燥パセリの粉が、少しだけかかっているだけだ。
首を少しかしげたゴパルが、協会長にパスタを給仕している給仕長に聞いた。
「あの、ギリラズ給仕長さん。ハーブの香りが強いのですが、これはどうしているのですか? パセリ以外のハーブが見当たらないのですが」
給仕長が、にこやかに微笑んだ。
「ええ。水溶性の香り成分を、厨房で蒸留して抽出しています。その蒸留した水を、香水代わりに使っているのですよ。葉や根があると、どうしてもトマト果肉の滑らかさを邪魔してしまいますから。」
そうなんだ、と感心しているゴパルに、給仕長が補足説明をしてくれた。
「乾燥パセリは、飾りという意味合いが強いですね。パスタだけでは、少々、見た目が悪いもので。他には、コショウもかけておりますよ」
そういえば、彼もバラの香りに包まれている。これも同じ蒸留香水か何かを使っているのだろう。
アバヤ医師が、ゴパルにニヤリと笑いかけた。
「それだけでは無いぞ。油やアルコールを使っての香り抽出もしておる。ポカラは亜熱帯から温帯まで年中揃っておるからな、こういった芸当も、地元産のハーブで可能なのだよ」
首都は、標高がポカラよりも高い千四百メートルなので、亜熱帯ではない。バナナが育つ場所へ行くには、カトマンズ盆地を出て、トリスリ川といった、深い谷底を流れる川のほとりまで下らないといけない。




