道すがら
ホテルまでは、ミニバンで五分もかからない、という話だった。舗装されてはいるが、もちろん、穴だらけのデコボコ道である。
その道中でも、さすがは亜熱帯のポカラと言うべきか、放し飼いにされている水牛が数頭ほど、道端の草を食んでいた。他には白い雌牛や、山羊の群れも居て、一緒に草を食んでいる。
そうなると、当然ながら水牛糞や牛糞、それに山羊糞が道路にも散乱している事になる。雨期なので雨で希釈されて、道路一面に薄く広がっているのだが、気にしないゴパルであった。空港はポカラ市街地に接しているので、すぐに民家が立ち並ぶ風景に変わった。
民家も今は、ほぼ全て、鉄筋コンクリート造りが占めている。ポカラはネパールでも最も雨量が多い街の一つなのだが、瓦屋根の家は少ない。防水コンクリートの屋上になっている家ばかりである。
そんな、日光浴ができるような民家の屋上には、チベット仏教の旗を掲げている家が見られる。赤、黄色、緑、白の四角い小旗を連ねているので、結構派手だ。
それよりもゴパルは、民家の庭に生えている立派なバナナの方に、関心が向いている様子であった。
「バナナの病気は、土壌感染ですからね。外から汚染された土壌や肥料を持ち込まずに、こうして土づくりを丁寧に行ってくれれば、家庭菜園として重宝します」
運転しているホテルのスタッフが、ゴパルのセリフを聞いて少し感心している。
「さすがは、大学の先生ですね。見ている対象が、普通の人とは違いますね」
ゴパルが垂れ目を細めて、軽く両手を振った。このミニバンは送迎タクシーと違い、足元から地面が見えないし、空調も効いている。燃料も満タンに入れていて、エンジン音も軽快だ。
「いえいえ……私は、ただの助手ですよ。ポカラは初めてでして、興味深いのです」
そして、運転手が首からかけている身分証を見て、首をかしげた。
「ん? ポカラのホテル協会長様……なのですか? ええと、ラビンさん」
運転手をしていた協会長が、にこやかに微笑んだ。確かに、所作が洗練されている。
「ラビン・シェルチャンです。タカリ族ですよ。私達からすれば、助手も教授も一緒です。ゴパル先生と呼ばせてください」
そこまで言われると、これ以上は指摘できなくなるゴパルであった。協会長が安全運転をしながら、話を続ける。
「クシュ教授から、お話を電話で伺いまして。もしかすると、ポカラのホテル協会にとっても、良い事になるのではないかと思いましてね。まずは、お顔を合わせておくべきだと判断いたしました。ゴパル先生」
ゴパルが、クシュ教授の手回しの良さに感心していると、協会長が車を停めた。
「到着いたしました。ようこそポカラへ」




