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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
178/1133

レカナート市シスワ地区

 それからすぐに、かなり広い平野部に差し掛かった。ただ、東方面には高い山が連なっているので、ポカラ盆地の東端なのだろう。民家も少なくなり、舗装道路の両側には青々とした水田が広がっている。

 こうして走ってみると、ポカラ盆地はカトマンズ盆地よりも、かなり小規模だ。

 青天であれば、青空の色と、水田の稲の緑とが美しいのだろうなあ、と思うゴパル。

 十字路に差し掛かり、それを南へ左折した。

「シスワです。ホテル協会へ、果物を出荷している農家さんが多いのですよ。ちょっと、見に行きましょう」


 カルパナがバイクで地区内を走ると、多くの農家が気づいて手を振ってきた。さすがに先程の駐屯地前のように、冷かしてくる者は居ないのだが、子供が何人もカルパナのバイクに触ろうと、追いかけてきた。

 その子供達を追跡を、巧みに回避して農家を巡るカルパナだ。ヘルメットのサンバイザー越しに、カルパナが愉快そうに小声で笑っている。

 彼女にとっては、バイクに乗るのは、気分転換になるのかもなあ、と思うゴパル。


 この時期は、果皮が手で楽に剥けるスナックパインと、テニスボールほどの大きさのグアバの収獲が始まっていた。

 それぞれの農場で、生育具合を確認しながら、初物のパイナップルとグアバを一切れ試食する。もちろん、草刈りをしたばかりの鎌で、果物を切っているのだが、誰も気にしていない。鎌の刃には、かなり錆が浮いているのだが、これも気にされない。

 カルパナが微笑んで、集まって来てくれた農家達を見つめた。

「今年も良い出来ですね。収穫が始まったばかりですので、甘みが若干足りていませんが、すぐに良くなるでしょう。ホテル協会の料飲担当に、知らせておきますね。病気も発生していませんが、輪作は徹底してください」

 安堵の表情を浮かべる数名の農家だ。ゴパルが見るところ、全員がバフンやチェトリ階級のようである。農作業をしていたようで、柄が色あせて、生地も所々破れている野良着だ。しかし、履いているサンダルは、全員が新品に近い物だった。

「はい、分かりました。カルパナ様」

「農業開発局の役人や、肥料店の連中は、ここへは週に一回来るかどうかで、放置だからなあ。カルパナ様が、こうして気にかけてくださるってのは、有難い事だ」


 カルパナが照れて、両手をパタパタさせた。

「私も、農場の仕事がありますから、それほど頻繁に来ることはできませんよ。今回は、事前連絡を入れずに、突然来てしまいまして、すいませんでした」

 そして、二重まぶたの瞳で、穏やかに農家達を見つめた。腰まで伸びている黒髪が、風に乗って穏やかに揺れている。

「これまでも、何回も言いましたが、この収穫は、皆さんの実力です。私も見習わないといけませんね」

 恐縮している農家達である。


 カルパナが少し真剣な表情になって、ゴパルに視線を向けた。

「せっかくですので、ゴパル先生に見て欲しい畑があるのですが……すぐそこですので、構いませんか?」

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