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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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見回り終わって

 一通り見終わった頃、畑作業をしに、二人の男達が段々畑にやって来た。鍬や鎌を持っているので農家だろう。カルパナが彼らに挨拶をする。

「おはようございます、ケシャブさん、ブペンドラさん。雨が上がって良かったですね」

 カルパナに合掌して挨拶を返す、二人の農家の男達だ。どちらも三十代くらいだろうか。よく日焼けしている。

「そろそろ、いい加減に晴れてくれないと困るっすよ、カルパナ様」

「どうも、うちの娘に袋菓子を買ってくださったそうで。ありがとうございます、カルパナ様」

 カルパナが軽く世間話を交わして、段々畑と苗畑ハウスの作業で、いくつか指示を飛ばす。と、二人の農家の男達の表情が、急に真剣なものに切り替わった。

「ハワス! カルパナ様」

 二人の男が、警官のような敬礼をカルパナに返して、小走りでハウス内へ駆けて行った。

 ハワスというのは、使用人が主人の命令を受ける際に使う言葉である。旦那様の思しのままに、とでも訳せようか。


 カルパナが苦笑して、ゴパルに穏やかな視線を投げかけた。

「使用人ではありませんよ。大昔はそうでしたが。今は、農場の仕事をしてもらう、現業職員です」

 さすがは、集落三つを治める名家の長女だなあ、と感心しながら、ゴパルがスマホをポケットに収めた。

 ビシュヌ番頭から聞いた後で、地図で広さを調べてみたのだが、フェワ湖の最深部から、湖へ注ぐ川の源流部までを占めている。フェワ湖を治める地主といっても良いだろう。そのくらいの規模だった。

「このまま私がここに残ると、農作業の邪魔になりそうですね。もっと観察して、カルパナさんの説明を聞きたいのですが、そろそろ引き上げましょうか」

 再びカルパナが照れている。

「そんな偉くありませんよ。私は、米国の有機農業団体に加盟しているのですが、その代表のジェシカさんから色々と聞いて、試行錯誤をしているだけです。ゴパル先生のように、学もありません」

 本当に、謙虚な人だなあ……と感心しているゴパルだ。まだランチまでは、時間があるので、とりあえず聞いてみる。

「カルパナさん。もう少し、時間が残っていますので、どこか案内してくださると助かります。どうでしょうか?」

 カルパナが、少し首をかしげて考え始めた。

「……そうですね。ポカラ観光も兼ねて、平地の農場も見に行きましょうか」

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