パメの育苗ハウス
育苗ハウスは、サランコットの斜面を上ってすぐの場所に建っていた。前回、訪問した堆肥製造ハウスとは、沢一つ挟んだ向こう側だった。
見上げると、ビシュヌ番頭が教えてくれた、二十ロパニの段々畑が、すぐ上に広がっていた。
育苗ハウスの周囲は、放牧牛や山羊の侵入を防ぐために、ネット製の柵が巡らせてある。上の段々畑も、同じネット柵で囲われていた。
段々畑の最上段の上の段には、黒いプラスチック製の一トンタンクが設置されていた。上流のコンクリート製の水タンクで溜めた水を、この黒タンクに一時貯留するのだろう。液肥を潅水に混ぜて使うのに便利だ。
ゴパルが確認のために、一番手前の段々畑まで上る。残念ながら草だらけで、何も作物は育っていなかった。急いで育苗ハウスまで戻る事にするゴパルである。しかし、道が泥で滑るので苦労しているが。
「すいません、カルパナさん。おっとっと……ちょっと、段々畑の様子を確認しておきたかったもので……」
カルパナがニッコリと微笑んで、段々畑の一角を指さした。トウモロコシが生えていて、実が成り始めている。
「全部で十一枚の畑があります。詳しい作付け状況は、後でファイルを送信しますね。他に、収穫開始しているのは、ウリと大豆、それにオクラですね。トマトも収穫していますよ。これは夏トマトです。育苗ハウスで育てているのは、冬に収穫する冬トマトの苗ですね」
しかし、それぞれの段々畑は、ネット柵で囲まれているので、下から見上げても柵しか見えなかった。
カルパナの説明によると、他にニンジン、ショウガ、ブロッコリー、アスパラガスが育っていて、玉ネギとニンニクの植えつけ準備を始めるらしい。小麦は収穫した後で、今は切り株しかないとの返事だった。
「輪作を徹底しているのですね。何年間で一巡するのですか?」
ゴパルの質問に、気楽な表情で答えるカルパナだ。畑に居ると、気分が落ち着く性格なのだろう。
「五年で一巡するように、輪作を組んでいます。牧草を緑肥として輪作に組み込んでいますので、野菜を栽培しない畑や畝が出ますね」
ゴパルがちょっと考えて、納得したようだ。ゴパルが先程見たのは、栽培していないハズレ畑だ。
「なるほど。五年で一巡するのが、二つ、ここにあるのかな。で、アスパラガスは多年生作物だから、専用に一つ、独立して畑を区切っていると」
段々畑の面積は、それぞれ異なるのだが、合計で十一枚になる。
土道は、まだ完全に乾いていないので、何度か足を滑らせかけたゴパルだったが、何とか無事に戻ってきた。
「お待たせしました、カルパナさん」
カルパナがハウスの引き戸を引いて開けた。穏やかな視線をゴパルに向ける。野良着姿という事もあるのだが、実に農地の風景に馴染んでいる。
「五年で一巡する輪作は、珍しいと思います。普通は三年くらいですね。では、ちょっとトマト苗の様子を見てみましょうか」




