カルパナ種苗店
チヤをすすりながら、店の入り口で立って待つゴパルである。ビシュヌ番頭が、チヤをすすりながら頭を下げた。
「すいません、ゴパル先生。カルパナ店主は、お嬢様ですので、少々ずれた所があるのですよ」
この間にも、花の苗や切り花を求めて、客がやって来る。彼ら彼女らの相談に乗って、花を売っていく番頭だ。客の中には、農家も居るので、種苗の予約受付もしている。
(数人分の仕事を、一人でやっているのか……)
感心するばかりのゴパルだ。店の外にはバイクが無いので、カルパナの弟君や、スバシュ氏は、出かけているのだろう。
その店舗業務をこなしながら、ビシュヌ番頭がゴパルに、カルパナの事を簡単に説明してくれた。
彼女は、この辺りの地主であるバッタライ家の長女だ。
かなり歴史のある家だそうで、ポカラがマラリアのために暮らせない時代から住みついているらしい。当時は、奴隷としてマジと呼ばれる漁労民を統率していたそうだが、今は解放したという話だ。
「土地も、今ではかなり減りました。それでも、このパメと、川向いのチャパコット、フェワ湖の源流部のナウダンダでは、広大な土地を有していますよ」
想像以上の大地主なので、目が点になっているゴパル。
「なるほど……三つの集落を束ねる大地主でしたか。その長女であれば、相当なお嬢様ですね」
ビシュヌ番頭が、軽く目を閉じて、口をへの字に曲げた。
「化粧もせず、泥にまみれておりますけれどね。有機農業も、バッタライ家が裕福だからこそ、道楽の一つとして家長から認められているのですよ」
ここで、切れ長の細目を開けた。整った太い眉が、ピコピコと上下する。
「道楽ですが、黒字経営ですけれどね。寺院への寄進も欠かしておりません」




