翌朝
その日は、疲れたせいもあって、そのまま部屋で寝てしまったゴパルであった。
それでも、雨雲が薄くなっていたので、明日の朝は、アンナプルナ連峰を見る事ができるかな? と期待していたようである。翌朝は、日の出前に目覚ましが鳴るように、時刻設定をしていた。
果たして、翌朝。宿泊している二階角部屋の、北側の窓から外を見るゴパル。今日も、雨雲が鎮座したままであった。アンナプルナ連峰はカケラも見えない。
「……分かっていましたよ」
しかし、朝食を摂りにロビーに下りて、ホテルの中庭から南の方角を見ると、晴れ間が見えていた。ただ、残念ながら、アンナプルナ連峰があるのは北の空だ。やはりまだ、雲の中である。
湯気の立つチヤが入ったカップを片手に、南の空を見上げるゴパル。垂れ目の黒褐色の瞳が、嬉しさ半分、残念半分の色を帯びている。
「雨期は、そろそろ終わりか」
前回、チップを渡して、このホテルの窓口にした男のスタッフに、挨拶をしてチップを渡す。前回は、チップはもう支払わなくても構わないかな、と思っていたようだが、結局支払っている。ゴパルが飲んでいるチヤは、彼が持って来たものだ。
既に、数名のインド人や欧米人観光客が、中庭で朝食を食べていた。インド人は、北部出身のようだ。チャパティを手でちぎって、ジャガイモの香辛料炒めや、ウリの香辛料炒め煮を包んで口に運んでいる。
欧米人観光客は米国人のようで、オートミールと目玉焼きだった。
協会長がにこやかな笑みを浮かべてやって来た。
「おはようございます。ゴパル先生。昨晩は、良く眠れましたか?」
すぐに、ゴパルが立っている最寄りのテーブルに、彼の朝食が運ばれてくる。小さな平たい揚げパンのプリと、葉野菜の香辛料炒め煮、それにダルであった。
ゴパルがテーブルに座って、チヤのカップを置いた。
「おはようございます。今朝は、アンナプルナ連峰が見られるかな、と期待したのですが……残念です。このチヤ、相変わらず美味しいですね」
協会長が、肩を軽くすくめた。
「そろそろ雲が切れる時期なのですが……今年は、雨がよく降りましたから、アンナプルナ連峰が見えるようになるのも、少し遅れそうです」
そう言って、一重まぶたの目を細めた。朝早いためか、少々眠たそうだ。白髪交じりの七三分け髪型に、明るくなった南の空の色が反射する。
「次回、ポカラへお越しになる際は、きっと晴れていますよ」
その判断は、クシュ教授次第なのだが、まず間違いなくポカラへ来る事になるだろうな、と思うゴパルだ。
「そうなると嬉しいですね」
協会長が、何回かうなずく。
「そうそう。カルパナさんは、八時頃に、お迎えに来てくださるそうですよ」




