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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
157/1133

翌朝

 その日は、疲れたせいもあって、そのまま部屋で寝てしまったゴパルであった。

 それでも、雨雲が薄くなっていたので、明日の朝は、アンナプルナ連峰を見る事ができるかな? と期待していたようである。翌朝は、日の出前に目覚ましが鳴るように、時刻設定をしていた。

 果たして、翌朝。宿泊している二階角部屋の、北側の窓から外を見るゴパル。今日も、雨雲が鎮座したままであった。アンナプルナ連峰はカケラも見えない。

「……分かっていましたよ」


 しかし、朝食を摂りにロビーに下りて、ホテルの中庭から南の方角を見ると、晴れ間が見えていた。ただ、残念ながら、アンナプルナ連峰があるのは北の空だ。やはりまだ、雲の中である。

 湯気の立つチヤが入ったカップを片手に、南の空を見上げるゴパル。垂れ目の黒褐色の瞳が、嬉しさ半分、残念半分の色を帯びている。

「雨期は、そろそろ終わりか」

 前回、チップを渡して、このホテルの窓口にした男のスタッフに、挨拶をしてチップを渡す。前回は、チップはもう支払わなくても構わないかな、と思っていたようだが、結局支払っている。ゴパルが飲んでいるチヤは、彼が持って来たものだ。


 既に、数名のインド人や欧米人観光客が、中庭で朝食を食べていた。インド人は、北部出身のようだ。チャパティを手でちぎって、ジャガイモの香辛料炒めや、ウリの香辛料炒め煮を包んで口に運んでいる。

 欧米人観光客は米国人のようで、オートミールと目玉焼きだった。

 協会長がにこやかな笑みを浮かべてやって来た。

「おはようございます。ゴパル先生。昨晩は、良く眠れましたか?」

 すぐに、ゴパルが立っている最寄りのテーブルに、彼の朝食が運ばれてくる。小さな平たい揚げパンのプリと、葉野菜の香辛料炒め煮、それにダルであった。


 ゴパルがテーブルに座って、チヤのカップを置いた。

「おはようございます。今朝は、アンナプルナ連峰が見られるかな、と期待したのですが……残念です。このチヤ、相変わらず美味しいですね」

 協会長が、肩を軽くすくめた。

「そろそろ雲が切れる時期なのですが……今年は、雨がよく降りましたから、アンナプルナ連峰が見えるようになるのも、少し遅れそうです」

 そう言って、一重まぶたの目を細めた。朝早いためか、少々眠たそうだ。白髪交じりの七三分け髪型に、明るくなった南の空の色が反射する。

「次回、ポカラへお越しになる際は、きっと晴れていますよ」

 その判断は、クシュ教授次第なのだが、まず間違いなくポカラへ来る事になるだろうな、と思うゴパルだ。

「そうなると嬉しいですね」

 協会長が、何回かうなずく。

「そうそう。カルパナさんは、八時頃に、お迎えに来てくださるそうですよ」

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