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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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スペイン風オムレツ

 これも二人分というサビーナの説明であった。

 まず、ジャガイモ一個と、ズッキーニ一本、玉ネギ一個を、一センチ角に切っておく。次に、トマト一個を湯剥きして、同じ大きさに切っておく。

 バターを敷いたフライパンを熱して、その中に角切りにした野菜を入れて、塩コショウを振って、軽く炒める。

 卵四個をボウルに入れる。その際に、傷んだ卵が混入する恐れがある。そのため、別の小さな容器に卵を一個ずつ割り入れて、卵の品質を先に確かめる。良い品質の卵だと確認してから、ボウルに移し入れるのが重要だ。

 いきなりボウルに卵四個を割り入れてしまうと、その内の一個が傷んでいた場合、全て廃棄する羽目に陥る。

 続いて、炒めた野菜を入れる。これに、ピザ用のチーズを四十グラムと、オリーブオイルを、小さじ半分程度加えて、よく混ぜる。

 卵は、黄身と白身とで固まる温度が異なるので、泡立て器を使って、念入りにかき混ぜておく。混ざったら、トマトソースとブイヨン、塩コショウを加える。これで見た目が赤っぽくなる。

 これを、卵料理専用のフライパンに、バターを敷いてから注ぎ入れ、強火で、できるだけ短時間で焼き上げる。この専用フライパンは、見た目は厚手の鉄鍋だ。柄もかなり長い。

 出来上がったオムレツは、分厚くて、どっしりしている。ピザ用のチーズも、個人の好みなので、基本的にどんなチーズでも良い。


 ゴパルがスマホで、サビーナの説明を録音しながら、パクパクとオムレツを食べている。

「フライパンは、市販のものを使う事になるでしょうね。それでも、首都へ戻ってから、家でオムレツを作ってみますよ。卵も良い品質ですが、トマトとチーズも風味がとても良いですね」

 アバヤ医師もオムレツをバクバク食べながら、同意した。

「卵は、鶏肉や去勢山羊肉と同じ扱いだからな。ヒンズー教の高位カーストでも食べやすい。清浄食材ではないから、毎日は食えぬがね」

 彼は髪が真っ白で、初老といっても良さそうな風貌なのだが、大した食欲である。

「卵は、餌と飼育環境で、ほぼ味が決まる。ここの養鶏場は、ケージ飼いで配合飼料を使っておるが、抗生物質や駆虫剤は抑えておる」

 あっという間に、オムレツがアバヤ医師の口の中へ入っていく。と、スプーンの動きをいったん止めて、ゴパルを見た。真面目な表情だ。

「飼育環境で問題になる悪臭やハエと、薬剤の使用が無くなれば、かなり美味い卵になるはずだぞ、ゴパル君」

 この医者も、結構、KLの情報を収集しているなあ、と感心するゴパルであった。ビンダバシニ寺院で出会った際に、少し話しただけだったのだが。


 アバヤ医師が、続いてカルパナとレカに顔を向けて、ニッコリと微笑んだ。医者が患者に向けるような笑顔だな、と感じるゴパル。

「トマトとチーズも、なかなかのものだ。惜しむらくは、生産量が少ないという点だな。ま、頑張る事だ。ワシらも楽しみにしておるよ。首都やインドの友人を招待して、いつの日かパーティを開きたいのでな」

 カルパナとレカが照れている。

 サビーナが、二人をニヤニヤしながら見て、ゴパルに告げた。

「トマトは、カルちゃんの農場産。チーズは、レカっちの酪農場産なのよ。牛と山羊に水牛まで揃っているのが強みね」

 レカが照れながら、謙遜し始めた。同時に挙動不審な動きも混じり始める。

「そ、そそそそんな良質じゃないよ~。硬質チーズとかー、熟成チーズの出来が悪いし」

 ゴパルが、レカを刺激しないように、慎重な口調で提案した。

「KLの構成菌には、家畜の腸内環境を改善する働きを持つ種類があるので、役に立てると思いますよ。まあでも、首都でもKLは商業ベースでは、それほど広まっていないので、試行錯誤する必要はありますが」


 レカが、きょとんとした表情になってゴパルを見つめた。かなり意外に感じたらしい。

「……ずいぶん、正直に言うのね。ゴパルせんせー」

 カルパナも同じような表情をしている。

「これまでの微生物資材の営業の方々は、全員が揃って『お任せください』の一点張りでしたのに」

 ゴパルが頭をかいた。

「ただの助手ですから。商売には疎いのですよ、すいません」

 協会長が、ゴパルに微笑んだ。

「製品の培養方法なんて、普通は教えませんよ。私が興味を抱いた理由の一つは、それですね。KLの製造元が、倒産しないように祈るばかりです」

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