オムレツとスープ
オムレツはスペイン風で、トマトとチーズをふんだんに使った分厚いものだった。ミネストローネスープにもトマトが使われているので、薄っすらと赤い。
協会長が、ゴパルに微笑んだ。
「どうぞ、お召し上がりください」
では、とゴパルがスープを口に運んだ。予想以上に滋味深い味で、垂れ目がさらに垂れる。
「美味しいですね。そこそこ美味いどころでは、ありませんよ。これなら、学生や外国人観光客に人気になるのも分かります」
サビーナもスープを一口すすって、口元を緩めた。
「そうね。食堂としては、上出来だわ。ゴパル君の味覚もしっかりしているじゃないの。悪趣味アバヤの洗脳工作は、効果なかったわね」
アバヤ医師は、無言で愉快そうに微笑んでいるだけだ。彼も同じスープをすすって、ご満悦の様子である。
「有機トマトを、たっぷりと使っているようだしな。まあ、トマトは、ヒンズー教では不浄な食物なんだが、これは例外扱いしても構わぬだろうよ」
カルパナが苦笑して、スープを一口飲んだ。
「確かに、不浄な野菜ですね。連作障害もきついですので、その分、土地を汚すと思います。その対策で、土地に優しい有機農法をして、輪作もしていますが、隠者様からは時々説教を受けますよ」
サビーナが仏頂面になって、さらに一口すする。
「ヒンズー教では、不浄扱いの食材が多すぎるのよね。牛肉が使えないのは、本当に痛いわよ。でも、会員制レストランでは使うけれどね。ハラル認証の牛肉だから、品質も良いのよ。このピザ屋でも、客の注文に応じて牛肉を使っているわよ。それでも、制約が多いわね」
協会長が黙ってうなずいた。ホテル協会としては、確かに大きな制約だ。レカは、平然とスープをすすっている。この二人は、宗派は別々だが仏教徒である。
ゴパルが、もう一口スープを飲みながら、カルパナとサビーナに微笑んだ。
「今では、首都でもトマトをよく食べるようになりましたよ。変化はしています。牛肉は、さすがに無理ですが。しかし、このような美味しいスープは、初めてですよ」
サビーナが上機嫌になった。結構、単純な性格なのだろう。
「そうでしょ、そうでしょ。カルちゃんのトマトも良いけど、卵もポカラ産で、なかなかなのよね」
そう言って、スープの作り方を簡単に説明し始めた。
「材料は、二人前よ。一人前だと、かえって作りにくいから。超絶簡単だから、ゴパル君も覚えなさい」




