レイクサイドへ
ゴパルは協会長とタクシーで、カルパナとサビーナはバイクとスクーターで、それぞれレイクサイドのピザ屋へ向かった。レカは、カルパナのオレンジ色のバイクの後部荷台に座っている。
ビシュヌは種苗店に残った。まだ営業時間中で、ランを含めた花の苗や、鉢を買い求める客の応対をしないといけないらしい。
カルパナやゴパル達を笑顔で見送り、同じく居残ったスバシュに告げた。
「スバシュさん。オダマキとカスミソウ、それにアサガオとヘメロカリスの在庫確認を頼みます。そろそろ、花の時期も終わりですからね。それと、カーネーションとキンギョソウ、それにトルコギキョウの走り花がありましたら、何本でも構いませんので知らせてください」
走り花というのは、大多数の花が咲き始める前に咲く、早咲き株の事だ。希少価値があるので、高く売れて人気も高い。
スバシュが赤いバイクに乗って、ヘルメットを被り、拳を肩まで上げた。肩まで伸びている、癖のある黒髪がヘルメットから、はみ出ている。
「了解っす、番頭さん」
そのまま、一発でエンジンを点火して、ナウダンダの苗畑へ走り去っていった。彼も、ピザ屋へは行かないのだろう。
バイクはカルパナ種苗店で三台運用しているようで、全て同じ型だった。ただ、カルパナのバイクだけは車体がオレンジ色だ。他の二台は赤色である。座席の後ろにある、大きな平らな荷台には、トロ箱が一つ縛りつけられていた。
レイクサイドの通りでは駐車が難しいので、今回のタクシーの貸し切り依頼は、ピザ屋の前までにする協会長であった。
タクシーの運転手が、軽くクラクションを鳴らして、協会長に挨拶してから走り去っていく。協会長がゴパルに振り返って、軽く腕組みをしながら謝った。
「すいません、ゴパル先生。帰りはまた、タクシーを呼びますね」
ゴパルが恐縮して、頭をかいている。
「私は、そのような偉い人ではありませんよ。お気遣い無く。次回からは自転車でも借ります」
そう言って、二十四時間営業のピザ屋から通りを挟んだ向かい側にある、自転車とバイク専用の駐車場を見た。
今は、カルパナとサビーナが、各々のバイクとスクーターを、専用駐車場へ入れている最中だ。レカは既に挙動不審な動きを始めながら、駐車場の入り口付近に立っている。
協会長も、その駐車場を見つめながら、改めて腕組みをした。
「車の駐車場も、近くに設けてあるのですが、百メートルほど離れているのですよ。自家用車を使う人が増えていますので、ピザ屋の地下や、この駐輪場の地下に、乗用車用の駐車場を掘ろうかと、検討している所です」
ゴパルも協会長の考えに賛同した。
「そうですね。合計で十台ほど駐車できれば、便利になると思いますよ」
しかし……と、ゴパルが視線を、ピザ屋の周囲にたむろしている学生達に向けた。
数十名は居る。男子学生は、白い長袖シャツにネクタイ、ズボンに革靴だ。女子学生は、民族衣装のサルワールカミーズである。ゴパルの目から見ても、男女ともに良く似合っているなあ、と思える。
学生達は、欧米人やインド人、中国人等の観光客と、英語やヒンズー語、それに中国語で談笑していた。
協会長も少し困ったような表情になり、学生達を見つめる。
「ちょうど学校の帰りですね。語学の勉強としては、それなりに有効だと思うのですが、ピザ屋に来るような外国人観光客の言葉には、下品なスラングが多いのですよ……」
確かに、ゴパルが聞いても、その手の単語が乱舞している。協会長が話を続けた。
「警備員を配置して、警官の巡回も行っています。ですので、学生がここで犯罪に巻き込まれる恐れは低いのですが、それでも親としては不安ですよね。ホテル協会でも、相互監視のシステムを組んではいるのですが」
ゴパルが素直に感心して聞いている。
「はあ、そうなのですか。地域の治安維持もしているのでは、大変ですね」
そうして、ふと、カルパナとサビーナの服装に、今になって気がついた。
彼女達は、駐輪場の奥でバイクを停めて、レカが待つ所へ戻り始めている。レカを含めた三人ともに、サルワールカミーズ姿だ。少し反省するゴパルである。
頭をかきながら、協会長につぶやいた。
「講習参加者の服装に、今になって気がつきました。今からでも、服装を褒めた方が良いでしょうか?」
協会長が、思わず吹き出した。
「山から降りてきたばかりでしたから、少し疲れているのですよ。疲れていると、感性も少々鈍るものです。彼女達の服装は、普段着ですから、それほど気にする必要はありませんよ」




