補足
ゴパルが再び、密閉タンクのフタをポンと叩いた。
「この培養液ですが、悪臭の軽減のために使う事ができます。さらに、これを元にして、色々な事が出来ますよ」
悪臭軽減と聞いて、レカとサビーナの目がキラリと輝いた。ゴパルが察して、補足説明を加える。
「基本的には、この培養液を水で百倍に薄めて、臭う場所に散布します。悪臭が強い場所では、薄めずに原液そのまま散布しても構いませんよ。すぐに効果が現れるはずです。ですが、悪臭を発する物が、新たに次々やってくる場所では、毎日散布した方が良いですね」
サビーナが撮影を続けているレカの肩に抱きついて、二重まぶたの黒褐色の瞳を、ゴパルに真っ直ぐ向けた。レカが、あ~う~とか言って、よろめいている。
「早速、試してみるわね」
サビーナに、相づちを打つように、レカも答えた。
「わたしも、やってみるー」
ゴパルが礼を述べてから、今度はカルパナに視線を向けた。
「培養液を使って、米ぬか製の種菌が四週間で出来ます。それを用いて、生ゴミの堆肥……というか漬物ですね。それが五週間で出来ます。さらに生ゴミ漬物を用いて、土を加えて分解させた、土ボカシという堆肥が四週間で出来ます。育苗土は、時間がかかりますが、十二週間で出来るはずですよ」
カルパナが、少し驚いたような表情をして聞いている。
「本当に、色々と出来るのですね。ええと……まずは、米ぬかを使った種菌を仕込むのですよね」
ゴパルが肯定した。
「はい。液体の培養液よりも、この種菌にした方が、菌の種類と数も豊富になります。汎用性が、さらに高くなりますよ」
普通の微生物資材には、この発想は無い。あくまでも、その微生物資材に封じられている、特定の微生物を培養するだけだ。米ぬかに付着している、野生の有用菌まで取り込んで使う事は、普通はしない。
協会長と、ビシュヌ番頭が、顔を見交わして安堵した表情になった。ビシュヌ番頭が、ほっと一息つく。
「培養が順調に進んで、良かったです。これで培養の方法は分かりましたので、次回からは私一人でもできますよ」
協会長も、安堵の表情を浮かべたままで、軽くうなずいた。
「私でも、培養できそうです。さて、この後ですが、ゴパル先生を食事に招待しましょう」
協会長がサビーナをチラリと見た。
「レストランは……この服装では無理ですかね。サビーナ料理長さん」
サビーナが苦笑した。
「そうね。発酵臭がする服装では、残念だけど、他の客の迷惑になってしまうわね。ここは、二十四時間営業のピザ屋で良いと思うわよ」
今になって、近くの茶屋から、チヤが届けられた。スバシュがゴパルに謝るが、ゴパルは全く気にしていない様子で、ニッコリと笑った。そのままチヤのグラスを受け取り、上端を指二本で持つ。
「では、チヤを飲んでから、ピザ屋に行きましょうか」




