カルナの説教
頭をかきながら丸太橋へ歩いてきたゴパルの周囲を、カルナがグルグル回る。まだ取り損ねている吸血ヒルを手で摘んで、引き剥がして捨てていく。
リュックサックとシャツの間を中心にして、数匹ほど、まだ残っていたようだ。
続いて、ゴパルにお辞儀をさせる。身長差が十五センチほどあるためだ。髪の中に潜んでいるヒルを、さらに数匹発見して、捨てた。
一通りヒル駆除をしてくれたカルナが、大きなため息をつきながら、吊り気味の細い目でゴパルを睨みつけた。
「雨期の森の中を、素人が歩くと血まみれになるわよ。バカなの?」
ゴパルが手の出血傷を消毒して、絆創膏を貼りながら謝った。
「済まないね。アルジュンさんから道を聞いたのだけど、ヒルにやられてしまった」
カルナがジト目になった。彼女の服装は、袖が短いシャツに、膝下までのズボンでサンダルなのだが、無傷である。
「森の中じゃなくて、モディ川の岩伝いに歩けば良いじゃないの。みんな、そうしているわよ。今の時期、森の中を歩くのは、強力と牧童、それに急ぎのロバ隊くらいよ」
そう言って、カルナがモディ川の激流を指差した。確かに、巨岩が多数ある。これらを伝って行き来しているのだろう。かなり危険な道だが。
(川沿いは、現地の人しか無理だろうなあ。私のような旅行者では、足を滑らせて川に落ちるだけか)
しかし、そういった反論はしないゴパルだ。素直に謝る。
「助けてくれてありがとう。それで、この道を進めば、車道に出るのかな?」
カルナがうなずいた。他にも、飼い葉集めをしている女性達がいるようだ。次々に、ゴパルとカルナが居る場所へ集まってきた。彼女達も野良着姿である。もちろん、出血はしていない。
「そうね。この先は、車道まで森は無いから安全よ。そろそろ、ナヤプル行きの四駆便がガンドルンのバスパークから降りてくる頃ね。ミニバスは、この雨で通行できないわ」
既に数名ほどのオバサン達に囲まれて、グルン語で大笑いされているゴパルだ。離脱すべき頃合いだろう。
「情報ありがとう。では、車道に出たら、四駆便を待つ事にするよ」




