ご飯
ゴパルの垂れ目が輝く。
「おお。白ご飯ですね。三泊しか経っていないけれど、嬉しいな」
ニッキが、太くて短い眉毛を愉快そうに上下させた。
「アルビンから、ディーロばかり食べてたって聞いたっす。山米と地鶏なんで、美味いっすよ」
早速、ゴパルが白ご飯に、黒ダルをかけて、指先でチョンチョン突いて混ぜ始めた。地鶏の煮込み汁も、ご飯にかける。右手の人差し指、中指、薬指の第一関節までを使って、混ぜ終えたご飯を取り、親指の爪の面で弾いて口の中へ送り込んだ。
ゴパルの垂れた黒い瞳が、キラリと輝く。
「ん! 美味いねっ」
ニッキが、満面の笑みを浮かべた。ちょっとドヤ顔になる。
「そうでしょう、そうでしょう。山米は、新米じゃないっすけど、地鶏は骨も頭もチャイ、使ってますんでねっ」
ゴパルが、今度は三本の指の第二関節まで使って、飯をすくって口に放り込む。
「山米も十分に香りが高いですよ。地鶏は、さすがですね」
葉野菜の香辛料炒めを食べて口を直し、再び地鶏肉を取った。右手の指先だけを使って、器用に骨を外していく。基本的に、骨ごと口の中へ入れるという事はしない。魚料理は別だが。
ご飯と鶏肉煮込みの、お代わりをして、それを平らげ、満足そうに席を立つゴパルだ。そのまま洗面所で手と口元を洗う。皿を調理場へ引き上げていったニッキに、礼を述べた。
「ありがとうございました。美味しかったですよ」
ニッキが調理場から顔を出す。
「で、酒はどうします? シコクビエの焼酎がありますぜ」
ゴパルが頭をかいた。
「これからジヌー温泉まで坂を下るので、止めておきます。すいませんね、今回も食事だけの世話になってしまいました」
ニッキが、分厚くて大きな手をパタパタ振った。一重まぶたの奥の黒い瞳が、柔和な光を帯びている。
「良いって事すよ、ゴパル先生。ジヌーへの下り坂は、地元民でもチャイ、転んでしまうっすからね。酒を飲んで酔っ払った旅行者じゃ、考えてみれば確かに危険すナ」
恐縮しているゴパルに、ニッキが宿のスタッフに、グルン語で何かを命じた。すぐに、スタッフが器とカビが少々生えた食パンを持って来た。それをゴパルに見せるニッキ。
「こんなもんで、良かったすかナ?」
ゴパルが、牛乳が少量入ったガラスコップと、水に浸した干しブドウを入れた小皿、それに点々と青や赤、黄色に黒の斑点が生じている食パンを受け取った。満足そうに微笑む。
「良い具合に発酵していますね。ありがとうございました」




