チトワン国立公園
チトワン国立公園には夕方に到着した。この公園は、ムグリンから流れてくる川と湿地帯とを包括する広大な公園だ。観光客も多くやってきて人気がある。
そのため、予約した民宿も西欧のロッジ風だった。ゴパルがチェックインを済ませてから軽く頭をかく。
「ずいぶんとオシャレな民宿ですね。野良仕事の後で泊まるには少し気が引けます」
カルパナも困ったような笑顔を受かべて同意している。
「ですよね。まさか、こんな民宿とは予想していませんでした」
食堂のメニューは完全に欧米人向けだった。そのためジプシーに乗って、近くのナラヤンガルの町まで行く事にする。ついでに衣類や小物の買い物も済ませるカルパナだ。
「ブトワルほどではないのですが、ここも安くて品数が多いんですよ」
ブトワル等のネパール西部地域から首都へ向かうには、このナラヤンガルを通らないといけない。そのため、この町は交通や流通の要衝でもある。ただ、今の時期は気温が高くて過ごしにくいが。
カルパナとゴパルは川沿いのネパール料理の食堂で定食を食べていたのだが、川風を浴びてほっとしている。
この辺りの川幅は数十メートルほどもあるため、風通しがよい。川の流れが速いのだが、投網で魚を獲っている漁民の姿が見えた。そろそろ日が暮れるので、漁をする時間なのだろう。
ゴパルがスマホのバッテリー残量を見て、肩を落とした。
「残念。夜景を撮ろうかと思ったのですが、無理ですね。ダチョウ農場で調子に乗って撮影し過ぎました」
クスクス微笑むカルパナである。
「はしゃいでいましたからね。私のスマホもそろそろバッテリー切れです。宿で充電しましょう」
ゴパルが少し考えてからカルパナに聞く。
「カルパナさん。チトワン国立公園には野生のサイが居るんですが、早朝ツアーに参加してみますか? インド象の背中に乗るので、安全だと思いますが」
カルパナも少し考えて、夜空を見上げた。雨雲が立ち込めていて星や月が見えない。
「雨が心配ですが、そうですね……せっかくですし、参加してみましょうか」
ゴパルが了解してから、少し照れた。
「雨期なので地面がドロドロです。ツアーで行ける範囲も限られてしまうので、運が良ければサイと出会う事ができるという程度ですね。歩いて森の中を探し回るのは、お勧めできません」
どうやら以前にやった事があるらしい。チトワン国立公園のサイは近隣の村にも散歩にやってくる。人がサイに襲われてケガを負ったというニュースはあまり聞かないのだが、それでも相手は野生のサイだ。無茶な接近は止めるべきだろう。
カルパナがジト目になっていく。
「ゴパル先生……菌の採集はほどほどにしてくださいね」
「はい、カルパナさん」
食堂を出た後は、インド菓子屋に行って買い食いを楽しむカルパナとゴパルであった。




