ダチョウ農場
ダチョウだが、出荷時の背丈は二メートル半を超える。体重も二百五十キロに達するので、目を丸くして驚いているゴパルとカルパナである。
巨大な鳥なので、高くて頑丈な柵の中で放し飼いされていた。そのため、ダチョウに直接触れる事はできない。
タクルシンがご機嫌な表情で説明をしてくれた。
「結構広い農場でしょ。オーストラリアから受精卵を輸入して孵化させているんですよ。向こうに見えるのは、餌やり係ですね。面白い恰好をしているでしょ」
頭にダチョウの首と頭を模したハリボテを被っている。かなり首が長くて二メートルくらいありそうだ。
「ああしないと、ダチョウが攻撃してくるんですよ。ハリボテを被る事で、大きく見せかけているってわけですね」
すっかり観光客の気分になっているゴパルが、ハリボテを被った作業員を撮影している。垂れ目がキラキラしているので満喫しているようだ。
「はええ……面白いですね。七面鳥にもそうなってもらいたい気分です」
七面鳥には人間を見かけると見境なく突撃する習性がある。ハリボテを被っても効果は期待できない。
タクルシンがダチョウを見ながら話を続けた。慣れた話し方なので、観光客をこうして案内しているのだろう。
受精卵を孵化して育てているのだが、経営が安定するまでに八年間ほどかかったらしい。飼育コストが鶏よりも高いためだ。
オーストラリアでの飼育コストは精肉一キロあたり6500円ほどになる。ただ、ネパールでは人件費が安く抑えられ、餌を自給するので900円ほどだ。これは骨付き肉でのコストで、骨を抜いた場合は1500円になる。糞は肥料として販売している。
コストを聞いたゴパルが腕組みをして呻いた。
「むむむ……高級肉になりますね。サビーナさんの店で使うしかないかも」
カルパナが穏やかに微笑んだ。
「ピザ屋では無理ですね」
そう答えてから、農場内を見回した。
「作業員を多く雇っているんですね。村としても良い仕事先になっているのでは?」
タクルシンが満足そうな表情で、肯定的に首を振った。
「そうですね。ダノ村からも何人か雇ってもらっています」
今の時期の作業員数は130人ほどらしい。ダチョウの羽数が八千に達していて、毎日三百キロの精肉を出荷しているので、そのくらいの人数が必要になるそうである。
羽数を聞いて感心しながらも、少し呆れるゴパルだ。
「どんだけ受精卵を輸入しているんですか……カブレの養鶏場ですら五千羽くらいですよ」
カルパナはバルシヤ養鶏を基準に考えているので、ゴパルの反応を見てキョトンとしている。
「五千羽くらいでは経営が難しくありませんか? ああでも、産卵鶏でしたら大丈夫かな」
タクルシンがスマホで時刻を確認した。
「ちょっと早いですが、食事にしましょうか。ダチョウ肉の香辛料炒めとか煮込みがお勧めですよ」
頭をかいて両目を閉じるゴパルである。
「辛さは控えめにしてくださいね」
食事は観光客向けだったので、それほど辛くはなかった。タクルシンをダノ村まで送り届けてから、チトワン国立公園へ向かうカルパナとゴパルだ。
カルパナが運転席で苦笑している。
「真っすぐな道で平坦ですね。また居眠りをしてしまいそうです」
ゴパルも窓の外を見ながら頭をかいている。地平線が南側に見えていて、林が点在しているだけの単調で雄大な景色である。
「普段は山ばかり見ていますしね。ああでも、前方に大きな森が見えてきましたよ。あ。湿地帯もあるのか。洪水地ですかね」
ヒマラヤ山脈とマハーバーラット山脈が北にそびえているので、洪水が起こりやすいのだろう。特に今は雨期の最中なので川の水位も高い。
川の色は泥水色で、意外に流れが速いようだ。地元の水牛は心得たもので、そんな状態の川には浸かっていなかった。
「ワニは……見当たらないか。残念」




