回り道
一通りカルパナとタクルシンとの情報交換が終わったので、ゴパルが撮影を終了した。
とりあえず、ポカラのクリシュナ社長にチャットで伝える。すぐに返信が来た。それを読んで、ゴパルがほっと安堵の表情になる。
「今回の撮影記録はこれで十分だそうです。役目を果たす事ができて良かった」
カルパナも喜んでいるが、一方のタクルシンは電話に出ている。その彼の顔が険しくなっていく。手短に電話を終えてから、その険しい表情のままでカルパナとゴパルに告げた。
「昨日の夜に、ポカラへの道が土砂崩れで不通になったと知らせがきました。回り道をして帰るしかありませんね」
ゴパルが軽く肩をすくめる。あまり深刻には考えていない様子だ。
「あらら。険しい山道ですからね……雨期ですし崩れる事もあるでしょう。そうなると、ムグリン経由でポカラへ帰る事になりますね」
ムグリンは、ポカラと首都を結ぶ幹線道路の中間地点にある宿場町だ。ブトワルからまず首都へ向かう道を進み、ムグリンで方向を変えてポカラへ向かうというルートになる。
カルパナも特に困った表情になっていなかった。ゴパルの提案に素直に同意する。
「そうですね。その道で帰りましょうか。山道ではないので車酔いになる心配はないですし、その方がゴパル先生にとって楽かも知れませんね」
苦笑しながら肯定するゴパルだ。
「確かに」
ムグリン経由だと今日中にポカラへ着くのは厳しそうだと分かり、ムグリンの南にあるテライ地域のチトワン国立公園で一泊する事になった。
タクルシンがスマホで電話をかけて、早速宿を手配する。カルパナとゴパルのスマホに、その民宿の住所と予約番号を知らせた。実に手際がよい。
「インド人観光客が、よくチトワン国立公園に泊まるんですよ。それで民宿に部屋をキープしてあるんです。遠慮なく泊まってください」
ゴパルとカルパナが感謝した。予約した部屋が一部屋だけなので、少し目が泳いでいるようだが。さすがに結婚済みなので、別々の部屋というわけにもいかない。
タクルシンが目を細めて頬を緩めている。
「初々しいですねえ。チトワン国立公園の民宿までは平坦な道ですので、楽に着きますよ。出発するのは、もう少し後でも良いでしょう。ちょっと観光していきますか?」
普通の観光客であれば、仏陀生誕地のルンビニへ足を向けるのだろうが、残念ながらゴパルとカルパナ、それにタクルシンもヒンズー教徒である。
ブトワル市内にはヒンズー教寺院も点在しているのだが、カルパナが自身の服装を見て諦めた。
「参拝するには、ちょっと土汚れが目立ちますね……今回は遠慮します」
結局、ブトワル郊外のスルヤプラ村にあるダチョウ農場へ行く事になった。カルパナが説明してくれた。
「実は、そのダチョウ農場から肉をサビちゃんが買っているんですよ。鶏肉よりも低カロリー低脂肪なので、ポカラの富裕層から注目されているそうです」
状況を理解したゴパルが、スマホのバッテリー残量を確認する。
「短時間でしたら撮影できます。私もダチョウは見たことがないんですよ。ぜひ行きましょう」




