ナウダンダ
ナウダンダでは簡易ハウスを使ったマッシュルーム栽培実験が行われていた。既にマッシュルーム栽培は農家での商業栽培が始まっていて、ポカラやジョムソンのホテル協会から良い評価を受けている。
今回の実験は、麦ワラと馬糞厩肥を使った栽培実験だ。サビーナの強い要望によって、半ば強引に決まってしまったらしい。
簡易ハウスの中で、カルパナが困ったような笑顔をゴパルに向けた。
「サビちゃんのこだわりって、なかなか頑固なんですよ。西洋野菜の種類も増加する一方ですし」
今回は紫キャベツの栽培実験をするらしい。とりあえずトレビス栽培に準じて畑の準備をし、生長の様子を見ながら追肥で対応するという事だった。
千平米あたり土ボカシを三トン、生ゴミボカシを五百キロ投入し、周辺の雑草や前作の収穫残渣と一緒に畑の土にすき込む。その後、KL培養液を水で五百倍に薄めた液をたっぷりと散水するという方式だ。
トレビスは好評なので、育苗も同時並行で行っている。
直径九センチの育苗ポットに育苗土を詰め、種子を六、七粒蒔く。薄く覆土して水やりをしている状況だ。発芽後、生育の良い苗を選んで最終的に一本だけ残す。本葉が五、六枚に達したら畑へ定植する予定である。
西洋ネギはサビーナがダシ取り用で使うため、年に二回収穫する栽培暦になっていた。
今は春ネギで、二回目の土寄せと土ボカシの追肥を終えた段階である。栽培農家が増えてきているので、この土寄せは西洋ネギの葉の分岐点より下までに留めるように注意を促している、と話すカルパナだ。
それ以上土を被せると、枯れてしまうらしい。土ボカシの量は一株あたり百グラムを目安にしている。
ニンジンもダシ取りでよく使うそうなのだが、料理の付け合わせにも使う。ネパール料理屋ではサラダ用に使ってもいる。
そのため、年間を通じて何度も収穫できるような栽培暦になっていた。近くの畑では二回目の間引きを始めているらしい。これは本葉数が六、七枚の段階で行い、苗と苗の間が七、八センチほどになるようにする。
カルパナがそのような話をして、斜面の下の方を指差した。
「パメでは秋ズッキーニの種蒔きが始まっています。簡易ハウスの中で苗づくりをしているのですが、栽培農家が多くなって需要が増えて大変です」
ズッキーニの種子をKL培養液の一万倍希釈液に一昼夜浸け込む。直径十二センチの育苗ポットに育苗土を詰めて、種子を二粒ずつ蒔く。発芽適温は二十五から三十度の間なので、簡易ハウス内での育苗になっている。
発芽後に生育の良い方を残して一本だけにする。苗の生育適温は十七から二十三度なので、よく育っている苗から順に簡易ハウスの外に出していく。
チャパコットの花卉ハウスも相変わらず忙しいそうだ。ランの出荷は落ち着いたのだが、カーネーション、キンギョソウ、トルコギキョウの育苗が始まっていると話すカルパナだ。
「新しい担当者が頑張ってくれています。他には、ヤブツバキとクチナシの林に生ゴミボカシを追肥していますよ」
ゴパルが録音しながら感心している。
「大忙しですね。ついにパメとナウダンダとチャパコットがKLまみれになってしまいましたか。こんなに大規模になるとは予想していませんでした」
カルパナも微笑みながら肩をすくめた。
「私もです」
元々はカルパナが長年使っている段々畑だけでKLを使う予定だったそうなのだが、今では地域の農業再興で使われている。
「肥料不足が解消されると、一気に広まりますね。KLや光合成細菌の使い方は、ホテル協会のポータルサイトで公開しています。ですので、私が直接教える事はあまりないんですよ」
ゴパルがうなずく。
「レカさんの編集のおかげで、分かりやすいですよね。リンゴ栽培の動画も好評だと聞いています」
そのような雑談をしていると、厩肥づくりの準備が整ったようだ。スバシュが声をかけてきた。
「そろそろ始めましょう、カルパナ様、ゴパル先生」




