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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラの南も山なんです編
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ナウダンダの茶店

ポカラの南隣の、シャンジャ郡を舞台にした短編です。

 アソーズ月の中旬、西暦太陽暦では九月第四週になった。ダサイン大祭の時期である。恒例の民族大移動が始まったのだが、ゴパルは今年も帰省できずじまいであった。バスや国内飛行便が全て満席になっていたためである。

 ナウダンダの茶店でカルパナと一緒にチヤをすすりながら、スマホの電話を切ったゴパルが背中を丸めた。

「当日の空席も無いという返事でした。今年のダサイン大祭は低温蔵で仕事ですね、ははは……」

 カルパナがチヤをすすりながら、軽く肯定的に首を振った。

「アスタミの日が終わりましたら、低温蔵へ遊びに行きますね。ドローン輸送で山羊料理って運べたかな」

 そう言って、カルパナがスマホで問い合わせを始めた。


 ゴパルは実家へ電話をする事にしたようだ。しかし、なかなかつながらず、三回目の電話かけ直しでようやくゴパル母が電話口に出る。

 ゴパルの話を聞いて、大きなため息をついた。

「……まったく。彼女を連れて会いに来るくらいの甲斐性はないのかい」

 平謝りするばかりのゴパルだ。

「すいません、かあさん。バスのチケットは取っていたのですが、オーバーブッキングに巻き込まれてしまいまして。弾き出されてしまいました」

 一つの席チケットを複数の客に販売してしまう状況は、この時期に多く見られる。

「去年までなら、相乗りトラックにも乗れたのですが……クシュ教授から絶対に使うなと厳命されているんですよ」

 交通警察の臨検や検問所で見つかってしまうと面倒な事になるようである。法令違反という事で、ゴパルに支払われている危険地手当が取り消されるかもしれないと、クシュ教授に脅されては従うしかない。

 それには当然のように同意するゴパル母だ。

「ゴパル。カルパナさんを連れて、そんな相乗りトラックなんかに乗ってきたら、ぶっ飛ばすからね」


 スマホでの問い合わせを終えたカルパナが、ゴパルを見かねて電話口を替わった。ゴパルのスマホを手にして、穏やかな声で話し出す。

「こんにちは、カルパナです。あまりゴパル先生を叱らないでください」

 とたんに口調が変わるゴパル母。

「あら。カルパナさんが居たのですか。耳障りな話を聞かせてしまいまして、どうもすいません」

 その後は、ゴパル母とカルパナとで当たり障りのない会話が始まった。カルパナに無言で合掌して感謝するゴパルである。


 電話が終わり、カルパナが一息ついた。ゴパルのスマホを返して微笑む。

「納得してもらえましたよ。では、マッシュルーム栽培の実験を見に行きましょうか、ゴパル先生」

「ハワス」

 茶店からマッシュルーム栽培を行っている簡易ハウスまでは距離があるので、途中で西洋野菜を栽培している畑を巡っていく。

 農業を再開した人が増えているので、何人もの農民と合掌して挨拶を交わしていくカルパナとゴパルだ。


 その一つトレビスの畑で、カルパナが簡単に作業を説明した。

「ここではこれから土ボカシを追肥として使います。一株あたり二百グラムくらいかな」

 ゴパルがスマホで撮影しながら、同時にメモをとる。

「すっかり土ボカシの使用が定着しましたよね。生ゴミボカシはどこから取り寄せているんですか?」

 カルパナが穏やかにうなずいて答えた。

「清掃会社と競合しないように注意しながら、パメやナウダンダ、チャパコットの住民から回収していますよ」


 それでも作付け面積を今後増やすと不足するらしい。そのため、サランコットの民宿街やナヤプルの居酒屋とも相談していると話してくれた。

 感心するゴパルだ。

「生ゴミ争奪戦みたいになってきていますね。このような状況になるとは予想していませんでした」

 カルパナも軽く肩をすくめながら同意した。

「私もです。ポカラ市が環境保全に力を入れ始めたのも大きいかな」

 生分解性のプラスチックを使う事が義務づけられていたのだが、違反者への罰則が厳しくされたらしい。


 そのような話をしながら簡易ハウスに到着した。スバシュがニコニコしながら待っていてゴパルに手を振っている。

「こんにちは、ゴパル先生。厩肥づくりは順調ですよ」

 ゴパルも合掌して挨拶を返してから、改めて自身のスマホのバッテリー残量を確認した。ほっとしている。

「ダサイン大祭前の忙しい時期に、こうして立ち会ってくださって、どうもありがとうございます。では早速ですが撮影を始めましょうか」


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