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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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翌朝

 寝袋を畳んでリュックサックに入れ、部屋の外に出ると、外は白銀の世界になっていた。

「あらら。寒いと思ったら、雪が積もってしまったのか」

 白い息を吐きながら、部屋に戻って、服装を雪山用に変更する。化繊のタイツと、厚手のシャツと靴下に変え、厚い手袋をして、首にタオルを巻く。最後に、ダウンジャケットを着込んで完了だ。

 昨日まで着ていた服は、まとめてビニール袋へ突っ込む。そこへ粉せっけんを振りかけて、水を入れた。袋から空気を抜いて、口を閉じて密閉する。それをリュックサックの中へ入れた。

 これで、歩いている間に洗濯ができる。衣類は全て化繊なので、すすいで振り回せば良い。それでも多少は湿っているが、その程度であれば、着ている間に体温で乾く。

 首に手を当てて、脈拍を測る。

「……平常値か。仕事をしないといけないな」


 高山病の症状が現れると、脈拍が高くなる傾向がある。アンナキャンプへの旅は、今日も続行決定だ。

 改めて部屋を出て、食堂に入り、朝食を頼む。メニューを見て、即席麺を一つ頼んだ。

 標高が高いので、ご飯や煮物は、生煮えになってしまう。当然ながら不味いので注文しない。昨日の夜に頼んだピザとチヤも、もう一度ぜひ食べたいとは思えなかった。

 しかし、飲み物は意識して摂る必要があるので、ミルクが入っていない紅茶だけを頼む。砂糖だけ入っている紅茶で、カロチヤと呼ばれている。硬水で紅茶を淹れているので、色がかなり黒っぽい。それが中ジョッキで、やって来た。

「なるほど、水分補給のためだね」

 水や湯やインスタントコーヒーでも、別に構わないのだが、気分としては、やはり紅茶を飲みたいゴパルであった。


 クタクタに煮えた即席麺を、フォークを使って食べ終えて、中ジョッキの紅茶を飲む。飲み終わるまでには、少し時間がかかりそうだ。

「次からは、即席麺には、卵を割って入れてもらおう。いや、オムレツを頼んで、それを汁麺に入れた方が良いかな」

 ……などと、考えるゴパルであった。確かに、全く具材が入っていない麺だけを食べるのは、栄養バランス上、褒められた行為ではないだろう。


 そこへ、アンナキャンプ方面から、早くも欧米人観光客が数名、ガイドを連れて下山してきた。

 高価そうなダウンジャケットを着て、分厚い高級化繊の帽子を被り、丈夫そうな手袋をしている。両手にはスキーのストックが握られていて、それを交互に使って杖にしていた。

 これまた高価そうな登山靴で、凍りついた地面をザクザク音を立てて歩いていく。靴底には、アイゼンが取り付けられているようだ。当然ながら、全ての装備は防水仕様である。

 彼らは、このデオラリで休憩するつもりは無いようで、真っ直ぐ歩いて去っていった。彼らの後ろ姿を、中ジョッキ紅茶を飲みながら見送るゴパル。

「もう下山するのか」


 民宿のオヤジが、同じ中ジョッキ紅茶をすすりながら、食堂から顔を出した。彼は、チョムロンの土産屋で売っていた、毛糸の帽子を被っている。

「この天気じゃ、アンナプルナは見えないだろうからナ。急げば、今日中にナヤプルまで着けるさ」

 ゴパルが視線をオヤジに向けて、中ジョッキ紅茶をすすった。既にほぼ飲み終えようとする勢いだ。

「そうなんですか? 確かに下り坂ですが」

 民宿オヤジが、中ジョッキ紅茶をグビグビ飲みながら目を細めた。

「おうよ。セヌワからジヌーに下りて、そこからモディ川沿いに行けば、車道に出る。そこでバスや四駆便に乗ればナヤプルだ」

 ゴパルがうなずきつつ、飲み終えた中ジョッキをオヤジに手渡した。

「なるほど、そういう道もあるのですね」

 オヤジも中ジョッキを空にして、ニヤリと笑う。

「土地の者以外には、お勧めできねえ道だけどなっ」


 今度は、強力隊が大きな荷物を担いで下山していった。ゴパルとオヤジに野太い声で挨拶をしていく。しかし、素足にサンダル履きというのは、何というか凄みがある。

 ゴパルが立ち上がった。アンナキャンプ方面は、雲に覆われていて見えない。

「さて、会計をお願いします。私も出発しますかね」

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