渡る世間はうるさい黙れ
……四天王揃っちゃったよ。私には荷が重すぎると思うんですけど。
「てめなに奇声あげとんじゃほんに、いてこますぞワレ!?」
「うっわ……キノスじゃん死ねよ」
「てめぇこそくたばれや翁翔!! それとも今日こそ俺が地獄にド突き落したろか!?」
「イヤァァァァァァァァァ!! なんて不快ィな声! 黙れだまれっ! 気持ちぅ悪い!!」
「お前こそ喋んな、奇声上げんな、生きてんじゃねぇ!! 蕁麻疹出るんだっつのしばくぞ! いや、ここで殺したるわ!!」
「ウウェッウェッウェッ……こいつらうるさい……」
……収集つかねぇ……
キノスがうるさい。緋ノ宮もうるさい。翁翔は……なんかもう存在が疲れる。エドワードに限っては鶏かよお前。
四天王って碌なのいないのね……。
「まぁまぁ、緋ノ宮ちゃん。うちに来てシャワーでも浴びなよ。凄い清潔にしてあるしさ」
「ぬかせっ! 貴様の家など汚物で溢れておるに違いない!!」
「緋ノ宮ちゃ~ん。あんまりそういう決めつけは良くないと思うぜぇ? 君ってばそういうところあるから直した方がなおよくなると思うんだけど」
「ぶっ殺す!!」
女騎士の方かと思いきや、翁翔に攻撃を仕掛けたのはキノスでした。手元に持っていた鉄パイプ大の鉄の棒の先端を翁翔に向けた瞬間、なんの前触れもなく翁翔に向かって高速で射出された。レールガンっぽい。
翁翔に向かって一直線に飛んでいく鉄の棒。はえぇ……この棒の先端地味に細くなってるし、この速度だと人体ぶち抜きそうだしモザイクモザイク。モザイク処理をかける作業に慣れて来てる気がする。
「アホか。更に飛びゃあいい話だろカス」
見た目以上に圧倒的な容量を持つ収納系レアアイテム、【渇望蛙の革鞄】……あぁ、発音しづらい。誰ですかこの〝か〟ばっかりのアイテム作ったの。……絶対課長でしょこれ。ですよね。……まぁいいけど
から、手に持っていたものより更に大きい、ピンポン球くらいの大きさに固められた灰粘土を取り出しました。それを落として足元で爆発させ、さらに上空へと飛ぶことによって軌道上から逃れました。
「……まぁそう来るだろうとは思ってたけどなッ、狂い咲けや熱き花!!」
翁翔は自身の下半身付近の前あたりに灰をばら撒いて爆発を起こしました。彼の目の前に迫っていたのは幾本もの釘。それも超高速で飛来しており、まともに食らえば体に穴が開きそうなほどでした。爆風に極振りした灰の爆発は、飛来する釘に運動エネルギーなどなかったとでも言う如く釘を真上にふっ飛ばしました。一応釘が落ちて来れば危ないことにはかわりありませんので、すぐにその場から少しずれます。
ボンボンさっきから爆発うるさいなほんとに。
「僕を弟子にしてください!」
「しつけぇんだよ……って、うおっ!!?」
思わず上体を仰け反らせて飛んできた石を避ける翁翔。キノスの魔法よりも早い速度で、的確に頭を狙ってくる石という不意打ちをくらった翁翔は思わず素っ頓狂な声をあげました。四天王の他三人に笑われる翁翔。
「ふへひひひひひ……だっせ……」「クソだっせぇな翁翔! やっぱ四天王とか言われるなかでお前が一番最弱だろ」「悪人にはふさわしい無様さだッ!」
キノスが指差して笑い、エドワードは翁翔の方を振り向きなから見て嗤い、緋ノ宮は服についた土埃を一心不乱に叩き落としながら笑いました。結構もう汚れ落ちてると思うんだけども。
そして無言になる翁翔。あ、これヤバい奴じゃ……?
足元での爆発をやめ、地面に軽やかに着地しました。すると鞄から巨大な灰丸を出しました。野球ボールくらいありそう。何これ灰の比率半端ない。どうやって作ったんだこれ。……スライゴムで表面コーティングしてる……?
「あんま調子に乗んなよ」
野球のようなピッチングフォームでボールを金弥に投げつけました。とはいえ、金弥も灰丸が危険だと言うことはわかっているので、ジャンプして回避します。
「狂い咲けや」
おぉ、すげぇ……翁翔は解っていたようで、金弥の足元へと投げつけていました。そして、ボールを覆っているスライゴムの力でぼよんとボールが一回跳ねます。金弥が地面に足がつきかけた頃、灰丸は金弥の背中あたりにあったのです。
「えっ?」
「熱き花ぁ!」
「あぐっ……!!」
これは……爆風を強くしてるのかな。空中に居た金弥は爆風によって吹っ飛び、その直線上には翁翔が居たのです。……うーん、ストーカーで見る目が無い奴だけど、見た目は子供だしあんまり気分は良くないかな……
金弥は涙目になりつつも、自分の身を守ろうと翁翔の方へと手を伸ばして威嚇のようなポーズを取ります。実際、翁翔に筋力はあるとは言っても金弥の筋力はかなりのものなので、逃げ出すことは可能でしょう。直に触れればの話でしょうが。
「流石に図に乗りすぎ……「させるかァァァァァ! 小ゥなり!」ちっ!」
突っ込んできた緋ノ宮の攻撃をすんでのところで躱す翁翔。緋ノ宮は体を張って金弥を受け止めます。これなんて言うんだ……仁王立ち? じゃなくて、なんか決心というか、苦渋の顔しながら受け止めようと……
「ぐうっ……!! だ、大丈夫か君ィ! あんな奴に誑かされて……洗脳でもされたか!」
「……ち、違います! ただ僕は好きな子に告白したく「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」あうぐっ!」
がっしりと受け止められたと思ったら、すぐに剥がされて地面に叩きつけられる金弥。ふんだり蹴ったり過ぎる。流石の野次馬達もびっくりしているようです。
「成人でもないのに異性が好きだなんだと……! 不ゥ純! 不潔ゥ! あぁ、この身で受け止めたと言う事実がァ激しく気持ち悪い!! このガキをひっ捕らえろ! 犯罪者に加担したものとして逮捕する!!」
「そ、そんな……」
うっわ……なんだその捻じ曲がった正義感……正義感、なのか? かもしれないけど……えぇ……ただただ引くわ……正義感というか潔癖症が行き過ぎたって言えば良いのか……しかしこれは……えぇ……?
「テメェら俺を無視してんじゃねぇぞクソが!!」
ファッ!!?
「ひっぃぃぃ」
金弥を捕えようとしていたけど、すぐさま一目散に散開する緋ノ宮の部下達。……いや、そりゃそうだ……木材を売っている店の先から、何本もの巨大な木の丸太がいくつも飛んでくるのだから。
えっと……
『棒状の物体を高速で射出するだけの魔法』
棒状の物体を高速で射出する魔法。発動に魔法名を唱える必要は無いため、魔法名で察知することが難しい。射出するにも一定以上の硬度が必要であるため、髪の毛や紐や針金などは射出不可能。
第三世代型か。てかなにこれ強すぎない。デカさ制限ないのかこれ
……ついでにエドワードも見とこう。あ、こっちも第三世代型なのか。
無詠唱で使える時点で強い感あるんだけども。あれ? でもなんでエドワードこんな魔法で四天王に選ばれてるんだろ。どう考えても攻撃に転用するの難しいような……わけわかんないな。あれ、っていうかもう居なくなってるし。仕事場に行ったのかな? たしかに測量士って仕事っぽいけども。
「大……なり! 小なり! 小なり! 大なり! 小なり! 大なり!」
「ちょっ……緋ノ宮ちゃん、俺の方に来るのばっか巨大化させるとかひどくね!? 祭凱瀑紗!」
緋ノ宮が自分に当たるものだけ小さくして弾き飛ばし、背後に飛ぶものだけ巨大化させる。良いぞ、もっとやれ。
しかし翁翔は普通の灰を横薙ぎにばら撒き、灰が丸太にぶつかるたびに爆発してゴリゴリと丸太が短くなっていきます。爆破によって丸太が灰になり、新たに灰が増えていきます。それらの灰が未だ空中を舞っている翁翔のばら撒いた灰と触れて、火薬と化します。……なんやこれ永久機関か。おい、あくびしてんじゃねぇぞ。
「緋ノ宮ちゃん。こっちの方来なよ。そんなに必死に武器ぶん回してたってしかたないしさ。俺んち行こうぜ」
「これが答えだクズが! 大なり!!」
あんたがクズとか言えたもんじゃないと思うけど……あんたさんが払い落としたちっちゃい木材、野次馬とか部下には当たってないけど、金弥にはめっちゃあたってるんだけど。悪人認定した人に容赦ないなこの人……
「きょ、今日納品する予定の木材がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるせぇクソが! そこに金置いてんだろうが!!」
「なんで銅貨一枚なんですか!! お金が全然足りな「うっせぇ!!」ぎゃふっ!!」
ひでぇ……木材屋の店主さん、商品をはした金にされたばかりか鳩尾蹴られるとか……
……片や粉塵だらけ。片や大赤字で怪我も負わされた店主……めちゃくちゃ過ぎるでしょ……
「これでも喰らえやボケが!!」
「武器型魔法は破壊不可能と学ばなかったか、犯罪者め! 小なり!!」
五寸釘をどこからともなく取り出して射出するキノス。緋ノ宮は小型化の魔法を唱えつつ、【打ち出の大槌】で叩き落とします。やば、ほんとに収拾つかない。これどうす……あ。
「……邪、魔!」
三人の四天王の目の前に突然現れる、槍を逆さに持った無表情の美男美女達。
「げっ」「うそゥ」「マジかよ」
「がっ……!!」「きゃん!!」「ヴェアァァァァァァァ!!?」
……美男美女達の振るう槍によって思い切り殴られて、吹っ飛ばされる三人。
野次馬達と騎士団員たちが声の主の方を向く。
そこに居たのは、いまだ気絶しているアリスを背負ったまま謎の惨状に目を白黒させているモモと。救世主輝夜さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
「邪魔くさいったりゃありゃしない。まったく」
今日の報告
私、今日から輝夜さんのファンになりますっっっっっっっっ!!!
「後輩ちゃん、ちょっと落ち着こうか by三好




