０４話④:夏の訪れ

私がこの村に来てから９か月経った。

雨の降る日が減り、入れ替わるように暑い日が増え始めた。

…いよいよ"夏"が来る。

私のキライな季節、夏。

日本には"冬将軍"なんて言葉があったが、

私にとっては"夏魔王"だ。

暑いし汗かくし蚊に刺されるし、

食欲落ちるし疲れるし。

泳いで涼む？泳げません。

怪談で涼む？怖い話大っきらい。

あんまりディスると夏好きの人に怒られちゃうか。

今日はこのくらいにしといてやる。

あ、線香花火は大好きです。

１人でボヤきながら村へと向かう。

今日は子供たちと一緒に川遊びだ。

田植えのとき、川が近いことを聞いていたので子供たちに連れて行ってもらう約束をしていた。

川に足入れてれば涼しいかも。

そう考えながら村の広場に行くと、

既に子供たちが待っていた。

全員が、タモ網にカゴ、着替えと手ぬぐいを持って。

「えっ？何を持ってるの？」

「魚を捕るんだよ？」

「泳ぐんだよ？」

「ももねえ荷物は？」

「………ワタシハミンナヲミテルネ」

まさかのガチ勢でした。

川"遊び"って聞いたよ！？聞いたもん！

川遊びって言ったら石投げて遊んだり岩に腰掛けて足ぱちゃぱちゃすることだよ？川遊び舐めてんの？

……ごめんなさい私が舐めてました。

お願いだからサンダルで山登りする人を見る目で見ないでっ！

〜〜〜

林の中を子供たちと一緒に歩いて行くと、徐々に水の流れる音が聞こえてきた。

林を抜けて視界がひらけると、そこには幅１０メートル程の川が流れていた。

川の水は澄んでいて水底がハッキリ見えるし、それほど深くないみたい。

深くても私の腰より下くらいかな。

「「「わーーーーい」」」

子供たちは服を脱いで川に飛び込んでいく。

みんな元気だなぁ。気持ち良さそうに泳いでる。

私は手頃な岩を見つけて由緒正しき川遊び:足ぱちゃぱちゃをして涼もうっと。

ちょうど良い感じに木陰になっている所を見つけ、岩に腰を下ろして足を水に付ける。

冷たい！

強い日差しで熱くなった身体が冷やされていくみたいで気持ちいい！

足を揺らしながらのんびり子供たちを見ていた。

泳ぐのに満足したのか、子供たちは立ち上がって川の中に石を積み始めていた。

「何してるのー？」

「魚を捕るんだよー」

見ていると、川を分断して狭めるように石を積み、

下流の狭まった所にタモ網をセットしていた。

「ももねえ来て！バシャバシャしながら来てー！」

「えっ？何をするの？」

裾をまくり、言われたとおりバシャバシャしながら歩いていく。

…水中に魚がいるのが見えた。

あ！追い込むのか！

意味が分かり狭まっている入口の方に歩いていく。

子供たちも泳ぎながら狭まっている方へ向かう。

子供の１人がタモ網を上げると魚が３匹入っていた。

カゴに入れた魚を触ってみると少しぬるっとしている。

子供たちにとってはこの感触も宝物みたいだった。

「本当に捕れちゃうんだ…」

「まだまだ捕るよ！また上から歩いてきてー」

子供たちと一緒に回り込み、捕れた魚をカゴに入れていく。

ーー遊びながら食べ物が捕れるなんてすごい！

何往復したか分からないが、カゴ２つがいっぱいになったところで終わることにした。

「いっぱい捕れたね」

「うんっ！みんなに分けられるね」

少し休憩したら村に戻ろう。

そう話していた時、ふと思い出した。

由緒正しき川遊び、やってなかった…

私は立ち上がり、良さそうな石を探してみる………よし！キミに決めた！

見つけた石を拾って川辺に近づく。

「ももねえ何するの？」

「ふふっ、見ててねー」

距離が出せるよう川を斜め方向に。

握りよし、踏み場所よし。

右手を後ろに引いて左足は出来るだけ前に。

水平に、水面に近い高さで！

シュッ！

投げた小石が水面を跳ね、５回ほど跳ねたところで沈んだ。

「……！？なに！なに今の！どうやったの！？」

振り返ると子供たちに取り囲まれていた。

すっごくキラキラした目で。

「ふふっ、内緒。今度来た時に教えてあげるね」

子供たち全員のブーイングがすごいが、

遅くなると村の人たちが心配するから。

何とか宥めて帰り支度を始める。

…ここに来る前、村で向けられたあの視線はこれで帳消しに出来たはず。

もう少し優越感に浸りたいもん！

子供たちとワイワイ騒ぎながら村に帰る。

……楽しかったなぁ

夏はキライです。

暑いし汗かくし蚊に刺されるし。

…でも少しだけ。

ほんの少しだけ、好きになったかも。