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京夜日記  作者: 京夜
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第三十話 「心の真ん中にあるもの」

大学のころに書いた作品で、もともと短編としてアップしていたものですが、もともと京乎日記の一部だったので、こちらに移動させてもらいます。



 昔、 「 私って何だろう 」 、と悩んだことがあります。


 別に誰かから責められたとか、大きな壁にぶち当たったわけではなく、ただ小説を書いていたある日の出来事でした。

 書いているキャラクター一人一人が自分の分身であるように感じ、私は悩んでしまったのです。


 男性もいる、女性もいる。

 年寄りも、若いのもいる。

 お金持ちもいる、貧乏な人もいる。

 頭がいいのもいる、馬鹿もいる。


 その全てが自分のように思えたのです。


 そこで冒頭の疑問が生じました。


「私って何だろう」


 今まで考えること無く、信じていた何かが、とても脆いもののように感じた時でした。



 現実の自分を表現すると、幾つかの言葉では言えました。

 でもそれは表面的な違いであって、心の奥にあるもの、軸となるものとは、とても思えませんでした。


「この心の、真ん中にあるものは何だろう」


 私はしばらく答えを見つけられずに、悩んでいました。


 答えは意外なところから、やってきました。

 それは、私の小説を読んでくださった方からの感想でした。


「あなたの小説はどれを読んでも、あたたかい空気を感じます」


 どの小説を読んでも?

 私ははっとしました。

 どの小説にも、どのキャラクターにも共通しているものはなんだろう。


 全てが重なる所。


 私は一所懸命に考え、探しました。


 そこで気付いたのです。

 言葉にもできない、言葉にしてしまうと恥ずかしくなるような何かを。


 あえて言うならば、冬の寒い日に窓からの光が差し込んで、板の床がほんのり暖かくなっているような。

 色で言えば、うすい橙色というか。


 そんな微かのものが最後に残りました。



 それに気付いた私の感想は、「ちっちゃ(小さい)!」でした。


 こんなに自分の軸、心の真ん中にあるもの、土台になるものが小さいなんて、本当にびっくりしました。

 こんな、触れば壊れそうな何かをもとに、今まで生きていて、その周りをごてごてとつけてきたなんて……。


 私は不安になる一方で、どこか安心をしました。

 この、心の真ん中にあるもの、嫌いじゃない。

 私は初めて、自分というものを肯定できる、というか自分を好きになれるような予感がしていました。


 自分が好きになれれば、誰か一人ぐらいはやっぱり好きになってくれるような、そんな予感に繋がっていきました。

 それこそ、病気になろうが、一文無しになろうが、火傷をして見かけが変わったとしても、私が私であるかぎりは大丈夫なのではないか、とその時思ったのです。


 もちろん、現実はそんなに単純ではないのでしょうが、でも、どこかでそんな「いつまでたっても変わらない自分というもの」を見つけたような喜びを感じていました。


 これからどんな人生が待っているのだろう。

 自分の外側はきっと、変わっていく。


 でも、死がやってくるまで、きっと「心の真ん中にあるもの」は変わらない。


 わずかなものだけれど、私は生きていける自信がつきました。


 私は一度やめていた小説を再開しました。

 こころの中にある何かが、読んでくださった方を幸せにしてくれることを願いつつ。

 形を変えても、表現できない何かが、伝わることを信じて。



 私は小さい。


 それでいい、と思っています。



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