第二十七話 「苦難」
先日NHKで「Dear にっぽん」という番組がありました。
「君の名は」で有名になったバンド、RADWIMPSの元ドラマーだった山口智史さんを追ったドキュメンタリーでした。
彼はライブ途中で急に右足が動かなくなり、ドラムができなくなります。
病名はジストニア。
原因不明の難病で、治療方法がありません。
彼は絶望して脱退し、10年も音楽から離れます。
しかし、ゆっくりとまた音楽と向き合い、楽器会社と共同で新たなドラムを開発して、右足を使わずともドラムが叩けるようになり、音楽に復帰するというストーリーでした。
その苦しさと、再度ライブの場に立った時の嬉しさが心に伝わり、私も一緒に涙しました。
苦難があってよかったとは、とても言えないのですが、人の強さに心打たれました。
私もジストニアを持っています。
私の場合は、書くときに手が固まり、字が書けなくなります。
医学生の時に発症したので、勉強のし過ぎだったのかもしれません。
いろんな治療法を試しましたが、いまだに治っていません。
ただ私は字が書けなくなった時も、絶望をすることなく、たんたんとそれを受け入れました。
過度に緊張する右手を左手で支え、医師国家試験も何とか乗り越えました。
心が強い、のではないと思います。
自分に対する価値感が低くて、できないのが当たり前だと思う癖がついていたためだと思います。
ただ、先のドキュメンタリーを見て泣いたことを考えてみても、やっぱり本当は自分も悲しかったり、絶望したのではないか、と今になって思います。
今になって、そんな自分を大事にしたいと思いました。
苦難や困難なんて、無いほうがいいに決まっています。
子供にもそんな思いをさせたくない、というのは当たり前の感情だと思います。
でも、自分にも苦難はやってくるし、
子供も苦難に飛び込んだりしています。
人はただ、それをゆっくりと、這いつくばりながら乗り越えるしかないのでしょう。
時に絶望して、自殺する人もいます。
ニュースでは人を害する人がいることも報道されています。
多くの人は、乗り越えられたのか、あきらめたのか判らない状態で、苦しみながら生きているようにも感じます。
親や祖父が作った40億円の借金を、私は30歳でひとり背負いました。
毎日必死に働いていましたが、どうしても時に一人になりたくて、何もしたくなくて。
絶対に誰も来ない場所に隠れて、膝を抱えて何もしない時間を過ごしたことがありました。
苦しかった。
いろいろな人が助けてくれますが、
それでも結局は自分で乗り越えないといけない。
人生って苦しいですね。
でも、楽しい。
なんだろう。
不思議な世界です。
立ち止まってもいいし、
何度くじけてもいい。
少しでも進む毎日の先に、明るい日々がありますように。




