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終編2

 チヒロの視点です。

 寝坊した。


 寝てる間にスマホの目覚ましを止めていたらしく、目が覚めた時はもう、乗る予定の電車が過ぎ去った後だった。


 それはもうどうしようもないので、ごめん寝坊したから遅れる。と正直にメールで謝っておく。


 アキの方は逆に、早く目が覚めてしまったらしく、早い時間の電車に乗ってしまって、もう着いていると返事が来た。


 あー、ヤバいよー。


 つい、声に出てしまった自分の声に、気が抜けてしまう。


 アニメ声、というか、二次性徴を過ぎても声は女子のそれに近く。

 容姿と相まって、女子に間違えられてしまうことが多かった。

 ウイッグ被ってスカートでも履けば、鏡に映る自分自身を女子だなと思ってしまうくらいに。


 いつものことながら、ため息が出る。


 見苦しくないように、寝癖だけは直して家を出る。

 最寄り駅まで歩き、予定より1本遅い電車に揺られ、目的地に着く。


『ごめん今駅着いたけど、どこ?』


 初めてきた場所に若干の不安を覚えてメールしてみれば、改札抜けてすぐ目の前にある駅の地図のところで待っていてくれと秒で返事が来た。


 いや、ほんと、返事が早いよ。


 元々の待ち合わせ場所を地図で確認しながら待っていると、こっちに真っすぐ向かってくる長身の男性が。


「アキだ。チヒロで間違いないか?」


 小柄なオレからすると見上げないといけないほどの長身なイケメンに声をかけられる。

 真顔だとちょっと怖いくらいな感じだけど、声でアキだと分かった。でも、現実の方がよほどイケメンてそんな話ある?


「……う、うん。……ち、ヒロ、です……」


 びっくりするくらいのイケメンから声かけられてびっくりして、どもってしまう。

 それより先に、言わないといけないことがある。


「アキ、遅くなってごめん。なんだか寝付けなくて、寝坊しちゃって」


 デートとか変なこと考えて寝付けなかったのが、なんだかちょっと恥ずかしくてうつむいてしまう。


「いや、ヒロ、気にしないでくれ。俺は楽しみすぎて一睡もできずに朝を迎えてしまった。目を閉じて横になっていたから休めてはいるけどな」


 目つき悪いだろ、ごめん。なんて言ってくるアキだけれども、謝るのは遅刻したオレの方だって。


「でも2人してちゃんと謝ったから、暗いのはこれで終わりな?」


 ぺん、と軽く手を叩いて、空気を変える。


「じゃあ、まずはなんか食べようぜ。オレなんも食べてこなかったから、腹ペコなんだ」


 笑顔を浮かべ、努めて明るく振る舞えば、アキの表情もゆるむ。

 そんなアキの手を取れば、ちょっと驚いたようになり、ふっと柔らかく微笑んだ。


 びっくりするくらいのイケメンが微笑むと、男のオレでもドキッとなるくらいの破壊力なんだな……。


 そんなどうでもいい事を考えながら、食べたいの相談しながら歩いて、食事をして別の場所に移動する。

 駅から出てちょっと歩いたところにある喫茶店に入り、お茶しながら話す。

 普段からゲーム内でしゃべっているから、話題なんてないかと思いきや、オフ会ということもあり普段話さないようにしているリアルの話も交えれば、意外と話題は尽きないものだった。


「それにしても、ほんと、驚いたよ。アキがこんなにイケメンだったなんてさ」


「そうでもないさ。人付き合いは苦手だから、ゲームでもリアルでもボッチだよ」


 モテるだろー? なんて冗談めかして言えば、うつむき加減の陰のある表情に。


「……あ、……なんか、ごめん……」


「かまわない。それよりも、ゲーム内でのヒロは距離感がおかしいから、もしかしたら男子かもしれないと思っていたが……」


 やっちまったかなと内心悔やんでいれば、平気そうな顔で話題を変えてくるアキにホッとしたのもつかの間。

 距離感おかしいとか言われて、どうしたものかと思えば、


「……それがまさか、リアルでも女子だったとは」


 ちょっと勘違いしてる発言が出て、ずっこけそうになった。


「前から思ってたけど、アキって思い込み激しいタイプだよな。今のオレの服装とか、どこからどう見ても男子だろうよ」


 ドヤァと胸に手をおいてちょっと得意げになる。


 そもそも、オフ会の誘いに応じたのも、ネカマプレイしてるというか女性アバターでゲームを遊んでいただけのつもりが、アキ(相棒)を騙し続けてきたような気分になってしまったからだ。

 外見から、どう見ても男子だと理解してくれればそれで解決だと思っているし、なんなら、男性アバターでキャラメイクし直すという手もある。


 そんな軽く思っているオレに、アキはゆっくりと首を横に振った。


「いや、がんばって男子っぽい格好をしてる女子にしか見えない」


 はぇ?

 変な声が漏れるが、アキは気にせず続けた。


「顔立ちからして女子にしか見えないが、小柄な背丈に狭い肩幅、細い手足に鈴を鳴らすような声。どこをどう見ても、可愛い女の子にしか見えないし、可愛らしい女子と話してるようにしか思えない」


 うえぇっ!?

 びっくりして、また変な声が出てしまう。


「今日のことで、ゲームでの付き合いを変えるというのなら、それはしょうがないと思う。でも俺は、2人の関係をもう一歩踏み込んだものにしたいと、ずっと思っていた」


 アキの真剣な目に、うっと少しのけぞる。

 けれど、アキが真剣にオレと向き合っているのだから、オレもまた、真剣に向き合わないといけないと思えてくる。


「…………えっと、それは、リアルでも友達にって、こと?」


「それもそうだが、主にゲーム内での話だ」


 ゲームの話といわれて、はて、ゲーム内では同じ拠点で同居生活しているのに、もう一歩踏み込むとは?


 アキの話がピンとこなくて、首をかしげる。


「エンゲージリンクシステム。要するに、ゲーム内での結婚でステータス高める要素があるだろ。それやって、これまで2人で行けなかったところまで行けるようにしたいなと思っててな」


 ああ、と手をうつ。


 ゲーム内での結婚で、誓いを交わした2人のステータスが上昇することは有名で、現実の性別はともかくアバターで男女なら問題なく利用できるシステムを思い出す。


 オレがリアルでは男なこともあって、選択肢から除外していたシステムだ。

 いくらゲーム内でのこととはいえ、軽々しく誓いを交わしておいて、後でアキに男と知られて、幻滅されたり拒絶されたりしたなら……。


 うん、軽く◯ねる。ゲーム辞めて泣いて寝込む自信がある。

 きっとそのまま引きこもりになる。


「……うん、でもさ、オレ、ほんとに男なんだよ。証拠見せようか?」


「さっき一緒に男子トイレ入ったから、改めて言われなくても大丈夫だ。個室利用してたなら、自信はなかったが……。まあ、ゲーム内での話だよ。リアルとは別に考えていいだろう?」


 そういうものなのかなーと思いつつも、オレ自身、リアルとゲームでは違う性別で遊んでるから、いまさらか。


「それと、R18版の方に移行しないか? 有料DLCだけど、追加でステータス補正があるし、行ける場所も増えるし」


「うーん……。うん、考えてみる」


 R18版は、ゲーム内での感覚をよりリアルに近づけることができるという話で、通常版では抑制されていた痛みや恐怖などの感情を、抑制しないことを選択できるようになり、感情を爆発的に解放……要するに、怒りモードで攻撃力アップとか、感覚を研ぎ澄まし、より正確で精密な動作ができるようになったりする。

 分かりやすくいうと、感情の揺れ幅を利用した、ステータスの上昇下降があるという話。

 そうなることもあるという、可能性の話だけれども。


 ……それと……。


「システム上とはいえ、結婚した男女がすることも、できるようになる。考えておいてくれ」


「……っ! ……う、うん……」


 通常版は子どもも遊ぶから、システム上できないこともある。けれども、R18版に移行すると、通常版ではできないこともできるようになるわけで……。


 その時のことを想像して、顔は真っ赤に、頭は真っ白になった。


「じゃあ、今日はここらで。また、ゲームで」


(……日取りを決めて、ちゃんと結婚しような。その日が楽しみだよ)


 身を寄せてきたアキに耳元でささやかれ、ビクッとしてしまう。


 アキが2人分の支払いを済ませて立ち去ったあとも、アキの吐息が触れた耳が熱くて、動悸が治まるまでしばらく時間がかかってしまった。



 その後、結局2人ともR18版に移行して、結婚していてもNPCとなら結ばれることはできると知ったので、ハナは愛人枠に収まった。


 それから先のことは、ここで語るものでもないかなあと。


 ゲーム内においては、以前はできなかったこともできるようになったことで、以前よりも仲良くなり、3人で楽しく過ごせている。とだけ。



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