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センスなんかいらない  作者: 大宮聖
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血の色

 美術館内は明るかった。入り口の受付を通るとすぐ、足下に車輪のついた大きなボードがいくつも連ねられている。そのボードにはいくつもの画用紙が飾られていた。

 絵の塗り具合やディテール的に、おそらく小学生の作品だろう。京子の絵も、同じようにどこかに飾られているはず――肩が強張った。

 恰幅のいい、赤色のスーツを着た中年男性が手を後ろに組み、ボードを眺めている。赤色のスーツを着た男――岡本。岡本の後ろに、灰色のスーツを着た男性が四人、並んで立っている。

 客はまばらだった。子連れ、老人、サラリーマン達、若いカップル。ポケットの中にあるナイフを確かめた。

 今から本当にこの人たちを殺すのか?――頭の奥が凍り付くような気がした。

 おれたちは長崎を先頭にある程度間隔を開けて美術館に全員で入ってゆく。早歩きしながらお互いの間隔を徐々に広げ、岡本を円形に取り囲むように移動した。

「これは?」

「北浜小学校の生徒さんが作った作品になります」

 甲高い音がガイドの声に割り込んだ。先頭を切っていた康司の足が止まる。足元――からからと音を立てるナイフ。康司がナイフを落とした!!

「なんだそれは?」

 岡本が怪訝な顔でこちらを見る。おれたちの表情が凍てつく。

「おい、あれ!」「ナイフじゃないか!?」

 間を置かずにどよめきが背後で沸き起こる。パニックに思考が失われる。凄いスピードで何かがおれを横切った。振り返る、振り向く。走り出す長崎。手にはナイフ――康司が持っているものと同じ種類。

 そのまま岡本の首を切りつけた。苦しげに呻き、膝をつく岡本。たちまち切り口から首筋が赤く染まる。幾重にも背後で悲鳴が上がる。館内にいた男が長崎を羽交い締めにする。

 長崎の悲鳴――逼迫しているのに、どこか素っ頓狂にも聞こえる。長崎が赤に塗りつぶされた。男の背中に密着し、両手で新庄が首元にナイフを突き立てていた。痙攣しながら倒れる男。フローリング床に巻き散る血液。

 おれは凍てついた視線を向けた。男の後頭部側の首にナイフが通っていた。長崎が岡本市長に切りつけたそれより、はるかに深い。傷口は赤というよりどす黒く、小さな泡が無数に沸き立っている。

 自らの頬の肉が恐怖にひきつっているのがわかる。まだ動いている男の喉仏が生々しく、おれにこれは現実なんだと突き付けてくる。信じられない――信じられるわけがない。

 岡本にさっきまで付き添っていたカメラマンがカメラを持ったまま入り口に向かって走り出す。

「逃げんなっ」康司が立ち上がり、振り向きざまにダッシュした。

 腕を伸ばし、ナイフを突き出しながらカメラマンに追いすがる。カメラマンが転倒した。カメラが落ちた。呻き声が破損音にかき消される。

 康司が馬乗りになり、うつ伏せになったカメラマンの首筋にナイフを突き立てていた。刺し口から溢れ出す赤い液体。

 初めて見る、殺害された直後の人の血。血液は想像していたより粘度を感じさせた。垂れ落ちた血液がカーペットに染み込みどす黒く変色した。

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