落城寸前、家臣と偽りの夫婦になりました
落城が迫る城で、私は突然“夫婦を演じて逃げよ”と命じられた。
相手は、同い年の家臣マナト様。
そして守るべきは、五歳のシン様。
「三人で必ず生き延びよ」
その言葉は、絶望の中に灯された最後の火だった。
私たちはあの夜、もう戻れない運命へ踏み出していた。
ーーこれは、偽りの家族から始まった恋と別れの物語。
◇
この城が――もうすぐ落ちる。
城内は、朝からざわついていた。
侍女たちの足取りは早く、兵は言葉少なに武具を運んでいる。
敗戦の匂いが強く漂っていた。
その気配は、十八歳の女中である私・サナにも嫌というほど伝わってきた。
私はいつも通り、子どもたちの部屋で
領主の息子でもあり、後継でもある五歳のシン様の服のボタンをとめていた。
シン様は、黒い瞳はくるくるとよく動き、
鳶色の髪の毛は柔らかく、
領主グユウ様によく似た、穏やかで優しい子だ。
「サナ、今日のお外・・・行ける?」
小さな声が胸に沁みる。
「・・・行けるといいですね。でも、今日は城内で遊びましょうね」
そう言いながらも、胸の奥は重かった。
乾いた洗濯物を畳み、一息ついたその時ーー
「サナ」
呼ばれて、振り返ると領主グユウ様が立っていた。
その顔は、これまで見たどんな戦支度の時よりも辛そうだった。
領主自ら、女中である私の名を呼ぶ――そんなこと、今まで一度もなかった。
「・・・頼みがある」
グユウ様に呼ばれ執務室へ入った。
そこで私に任務が下された。
「シンを極秘に匿ってほしい」
「わ、私が・・・?」
「シンはサナに懐いている。まだ5歳だ。シンの面倒を見てほしい」
グユウ様は真剣な表情をしており、後ろに立つ重臣 ジム様も小さく頭を下げる。
重臣のジム様が説明をした。
もうすぐ、この城は落ちてしまう。
領主グユウ様はもちろん、跡取りであるシン様の命も、真っ先に狙われる。
せめて、5歳のシン様の命を助け、血を繋いでほしい。
それがグユウ様の切実な願いだった。
シン様の世話をしている乳母たちは、皆家族がある。
この城がどうなるか分からない今、
身寄りのない私に白羽の矢が立つのは――当然だった。
「承知しました」
私は静かに頭を下げる。
「サナひとりでは目立つ。もう一人、同行させる」
足音がして、その人が現れた。
家臣のマナト様。
同い年の十八歳。
灰色の瞳に穏やかな光を宿す、誰にでも優しい方だ。
だが立場は違う。
マナト様は代々重臣の家系に生まれた、由緒ある家の子。
そんな方が、女中の私と“並んで立つ”ことになるとは思わなかった。
「サナ、マナトとは・・・夫婦という形で匿ってほしい」
グユウ様がそう言った瞬間、世界がふっと揺れた。
「夫・・・婦・・・?」
私の声は震えていた。
重臣のジムが頷く。
「マナト、できるか?」
横を見ると、マナト様は静かに息をのみ、
けれど逃げるような目は一度も向けなかった。
「サナが嫌でなければ・・・私は構わない」
灰色の瞳がまっすぐ私を見ていて、胸の奥がひどく熱くなった。
外では、落城の足音が近づいている。
その中で与えられた――偽りの夫婦の使命。
◇
旅立ちは急だった。
その日の昼過ぎには、
私だけが荷物と一緒に馬車へ乗り込み、
新しい住まいの準備と“引越し”を任されることになった。
シン様の着替えや絵本、薬草を荷袋に詰めていると、厨房からりんごの砂糖漬けが届いた。
荷物は思った以上に重く、持ち上げた腕が震える。
その様子を見ていたマナト様が、無言で袋を肩に担いだ。
その自然な仕草に胸がざわつく。
落城前の緊張とは違う、別の高鳴りがあった。
荷物を全て積み込んだ時にマナト様が声をかけてくれた。
「・・・サナ、少しいいか?」
心臓がきゅっと縮まる。
マナト様が、いつになく真剣な顔をしていた。
「屋敷で“夫婦”に見えなければ、シン様が危険になる。
だから・・・その・・・少しだけ練習を」
言葉はたどたどしい。
けれど、灰色の瞳だけは揺れず、まっすぐ私を見つめている。
「・・・わかりました」
喉が乾いて、声にならない返事だった。
マナト様は、私の隣を一歩分だけ近く歩いた。
肩先が、時々、ほんの少しだけ触れそうになる。
そのたびに胸が跳ねる。
「・・・こうして歩くだけで、夫婦に見える」
恥ずかしそうに笑う横顔が、重い空気の中でひどく優しく見えた。
風が吹くたび、外套の布が揺れて私の手の甲にかすかに触れる。
触れていないのに――触れたよりも、心が騒ぐ。
その穏やかな笑顔が、
この先どんな運命に巻き込まれていくのか――その時の私は、まだ知らなかった。
◇
出発の刻がきた。
最小限の荷物と必要な家具を馬車に詰め込み、私は領主と家臣の前に立った。
「・・・それでは、行ってまいります」
深く頭を下げると、グユウ様が胸の奥から絞り出すように言った。
「サナ・・・頼む」
その横で、マナト様が穏やかに微笑んだ。
「後で、私も行く。心配はいらない」
その柔らかな声に、なぜか頬が熱くなる。
こうして私は、仕えた城を飛び出した。
◇
城門を過ぎて間もなく、馬車は突然、槍を構えた敵兵に囲まれた。
「――どこへ行く?」
低く、荒い声。
心臓が喉の奥で跳ね上がる。
「こ、この城が滅びるので・・・故郷に逃げるだけです!」
震える声を、必死で押し出した。
敵兵は無言で馬車の扉を開き、荷物を乱暴に調べ始めた。
中に潜む者はいないと確認すると、
「よかろう。行け」
その一言で、凍りついていた体が一気に解けた。
――助かった。
白昼堂々と馬車を出したのは、私を守るためだとグユウ様が判断したのだ。
もしこれが夜であれば――
私はおそらく、この身を乱暴されていただろう。
そう思った瞬間、背中に冷たい汗が流れた。
◇
夕刻を過ぎたころ、ようやく隣領の“潜伏先”にたどり着いた。
領主グユウ様の剣の師が所有している屋敷――
と聞かされていたが、
屋敷と呼ぶにはあまりに小さく、
長いあいだ人が住んでいなかったのだろう。
深い森の中にある屋敷は、埃が薄く積もり、閉め切った空気は冷たい。
けれど、壁はしっかりしており、窓の鍵も壊れていない。
ここなら、敵兵の目を逃れ、
シン様を安全に匿うことができる――そう思えた。
御者が帰ってしまうと、広い静けさが部屋を包んだ。
明日の昼過ぎにはシン様が来る。
その前に、少しでも綺麗にしておきたい。
私は蝋燭に火を灯し、袖をまくって掃除に取りかかった。
◇
屋敷の掃除を終えた頃には、
蝋燭の炎は何度も揺らめき、夜が深く降りていた。
シン様のために整えた部屋を見回す。
寝台には清潔な布を敷き、埃を払った机には絵本を置いた。
これなら――怖くないはず。
そう思いながらも、胸の奥はずっと冷たい。
屋敷は狭い。
シン様の寝室のほかに部屋は二つだけ。
いちばん広い部屋は、跡取りであるシン様に。
隣の小さな部屋はマナト様に使っていただく。
私は――暖炉のそばで眠ればいい。
部屋の狭さよりも胸に刺さるのは、屋敷の静けさ。
子どもの笑い声が満ちていたレーク城とはまるで違う。
風が吹けば窓が軋み、誰もいない廊下がどこまでも暗く続いている。
ーー本当に、うまくいくのだろうか。
敵兵に囲まれた時の恐怖がまだ消えず、小さな物音に肩が跳ねた。
暖炉に薪をくべながら、私は思わず呟いていた。
「・・・マナト様、無事でいてください」
呟いた自分の声の震えに、はっとする。
特別な関係ではない。
命じられた任務を行い、明日からは“偽りの夫”を演じるだけの人。
それなのに。
彼のまっすぐな眼差しや大きな手を思い出すたび、
どうしようもなく胸がざわついてしまう。
「・・・だめね。こんな時に」
蝋燭の炎が、ゆらりと揺れた。
◇
翌朝、どれほど掃除をしても胸のざわつきは消えなかった。
シン様とマナト様は昼過ぎには到着する予定。
けれど、一向に二人は現れなかった。
胸騒ぎを抱えたまま、夕食の支度に取りかかる。
蝋燭に火を灯したその時――外から、馬の蹄の音が聞こえた。
ーー来た。
心臓が跳ねる。
扉を開けると、冷たい夕風の中に二つの影が立っていた。
「サナ!」
駆けてきたのはシン様だった。
小さな足で必死に走ったのだろう。
頬は紅く、息はかすかに震えている。
「・・・こわかった。サナ・・・」
しがみついてくる小さな手。
黒い瞳には、泣いた跡がにじんでいた。
胸がぎゅっと痛む。
「大丈夫です。よく来てくれましたね」
抱きとめると、思ったよりも身体は強く震えていた。
ーーこの子は、今日すべてを失ったのだ。
城も、家族も、日常も。
掴んだ私の服を離すまいと、指先に力がこもっている。
「すまない、遅くなった」
静かな声でそう言ったのは、シン様の後ろから現れたマナト様だった。
夕闇の薄い光が、灰色の瞳をやわらかく照らしている。
「途中で敵兵がいて少し、遠回りになった」
「マナト様・・・本当に、無事でよかった」
口にした瞬間、自分でも驚くほど声が震えた。
頬が熱くなり、思わず目を伏せる。
マナト様は一瞬だけ戸惑い、
けれどすぐに、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた。
「サナが無事でよかったよ。ここまで、ひとりでよく頑張った」
その優しさに触れた途端、胸の奥がまた、ふっと熱くなる。
「疲れたでしょう。夕飯の支度ができています」
私は食卓にお皿を並べた。
「シン様が好きな、りんごの砂糖漬けもありますよ」
シン様は一口食べ、ふと手を止めた。
小さな眉がきゅっと寄り、切なそうに顔を歪める。
「・・・母上も、好きだった」
胸が締めつけられる。
私は無言で、その小さな背中にそっと手を当てた。
シン様は声もなく、パンと砂糖漬けをゆっくり飲み込んだ。
しばらくするとーー
瞼が重くなり、スプーンを持ったままこくりと首が傾く。
「疲れているのでしょう」
マナト様が席から立ち上がり、シン様をゆっくり抱き上げた。
「寝室を用意しております」
私は事前に整えていた部屋へ案内する。
寝台にそっと寝かせると、鳶色の髪が枕の上に広がり、まだ幼い寝息が聞こえた。
「おやすみなさい」
その髪を軽く撫でつけ、扉を静かに閉めた。
◇
食卓に戻ると、マナト様が椅子に腰を下ろしたまま、深く息を吐いていた。
私と視線が合う。
「・・・育てていけるのかしら」
思わず、胸の奥から不安がこぼれ落ちた。
「育てていくしかない。血を繋いでほしい・・・それがグユウ様の願いだから」
マナト様の声は静かで、どこか覚悟がにじんでいる。
私は黙って頷いた。
けれどーー自信など、どこにもなかった。
「マナト様。お休みは、あちらのお部屋でどうぞ」
私は廊下の先にある小部屋へ案内した。
寝台がひとつだけ置かれた、簡素な部屋。
「サナはどこで寝るの?」
マナト様がふと立ち止まる。
「私は、暖炉の前で寝ます」
「だめだ。女性が床に寝るなんて・・・良くない」
「いえ。私のような身分の者は、床で平気です」
小声で押し問答をしていた、その時ーーシン様の部屋から、か細い泣き声が響いた。
二人の会話が止まる。
暗い廊下の向こうに、小さな泣き声が続いていた。
◇
寝室の扉を開けた瞬間、胸が締めつけられた。
シン様は寝台の上で小さく身体を丸めていた。
ーー泣いている。
「どうされましたか?」
思わず駆け寄ると、シン様は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「父上と・・・母上に、会いたい・・・妹にも・・・シュリにも・・・会いたいよ!」
その叫びに、胸が裂かれそうになる。
ーーまだ五歳。
今日、すべてを失った子どもをひとりで眠らせるなんて――私の判断は間違っていた。
「シン様。今晩は、私がご一緒しますね」
私はそっと背に手を当て、声をかける。
けれどシン様は首を横に振り、布団を握りしめて震えた。
「やだ・・・城に戻りたい」
その必死な声に、言い返す言葉が見つからない。
どうすれば、安心させられるのか。
戸惑っていると――
「それなら、私も一緒に寝ましょう」
マナト様の声が、静かに私たちの間に落ちた。
私は思わず、目を見開いた。
「え・・・?」
マナト様はシン様の頭を優しく撫でながら続ける。
「ここにもう1台、寝台を運びましょう。皆で寝れば寂しくない」
シン様は少し黙ったあと、小さく頷いた。
灰色の瞳が、私を見る。
「サナも、それでいいですか?」
胸がどくん、と跳ねた。
「・・・はい。もちろんです」
◇
「・・・すまない。嫁入り前なのに」
寝台を運びながら、マナト様は申し訳なさそうに眉を下げた。
その声音があまりに真面目で、思わず胸がくすぐったくなる。
「とんでもないです」
私は、少しだけ声を強くして答えた。
今は恥ずかしがっている場合じゃない。
この小さな子を守るのが私たちの役目。
「シン様。今日は一緒に寝ましょう」
私は寝台の端を整え、ぽん、ぽん、と枕を軽く叩いてみせる。
「・・・うん」
シン様は小さな足でぱたぱたと来て、私の腕にぴたりと張りついた。
その温もりが、胸の奥に刺さる。
「マナトも、早く」
シン様が振り返って呼ぶと、マナト様は一瞬だけ戸惑ったように目を伏せた。
けれど次の瞬間には、いつもの穏やかな微笑みを浮かべて寝台に上がった。
「・・・失礼します」
その控えめな一言に、胸がふっと熱くなる。
寝台は決して広くない。
シン様が真ん中で小さな手を伸ばす。
右に私。
左にマナト様。
三人の距離は、自然と近くなる。
わずかに触れる肩。
共有する毛布の温もり。
シン様が、私の手をぎゅっと握った。
まるで――
「どこにも行かないで」と必死に縋りつくような強さだった。
昼間は平気そうに見えても、夜になると心細さが押し寄せるのだろう。
小さな指が震えている。
その隣で、マナト様がシン様の頭をそっと撫でた。
その仕草は包み込むように優しく、
灰色の瞳には揺るぎない強さが宿っていた。
「シン様、大丈夫です。ここには私とサナがいます。ずっと、そばにおります」
低く穏やかな声が、暗い部屋にすっと染み込む。
「・・・ほんとう?」
シン様の黒い瞳が、涙の膜を張ったように揺れた。
私はその手を握り返しながら、言葉を選んだ。
「本当です。シン様をひとりにはいたしません」
「・・・よかった」
安堵の息が、シン様の胸からこぼれた。
その瞬間、強く握っていた小さな手が、ふっと力を緩めた。
「サナも、マナトも・・・いなくならない?」
シン様は、眠気と不安の合間で、か細い声を絞り出す。
マナト様と私は思わず顔を見合わせた。
マナト様は静かにうなずき、シン様の肩にそっと毛布をかけた。
「どこにも行きません。明日も、その次の日も――シン様のそばにおります」
その声は、戦で荒れた世界の中とは思えないほど優しくて。
私は胸がぎゅっと痛くなる。
シン様は私たちの手を握ったまま、小さくうなずいた。
やがて瞼が重くなり、細い息をくぐらせながら眠りへ落ちていく。
その寝息を聞きながら――私はそっと、マナト様と目を合わせた。
暗がりの中、
触れ合わない指先が、ほんのわずかに近づいた気がした。
◇
翌朝、私たち三人の“新しい生活”が静かに始まった。
朝食を終えたところで、マナト様が真剣な表情で口を開いた。
「ここでの暮らしのルールを作りましょう」
「ルール?」
私とシン様は、同じように首をかしげた。
マナト様は一呼吸置いてから、丁寧に続けた。
「私たちは“若い夫婦”という設定です。ですので、まずは――」
灰色の瞳が穏やかに揺れる。
「シン様の呼び方を変えましょう。今日から、シン様を“シン”と呼び捨てに」
「えっ・・・それは・・・」
戸惑って言葉が詰まる。
けれどマナト様は、静かに首を振った。
「自分の子に“様”をつけるのは不自然です。
敵兵に怪しまれないようにするためにも、必要なことです」
「そ・・・そうですね」
頭では分かっていても、心が追いつかなくて胸がざわついた。
そんな私の横で、シン様――いや、シンは素直に頷く。
「わかった。じゃあ・・・父上、母上って呼べばいい?」
「違うぞ。領民は父さん、母さんと呼ぶんだ」
マナト様はシンの髪の毛を優しく撫でた。
すると、マナト様がこちらを向き、真剣な目で言った。
「そして・・・サナ。私のことも“マナト”と呼び捨てにしてください」
「えっ」
予想外の言葉に、思わず声が裏返る。
「私たちは、形式上とはいえ“夫婦”ですから」
その瞬間、胸の奥がどくん、と跳ねた。
「・・・わかりました」
息を整え、やっと言葉を絞り出した。
そして、勇気を振り絞って口を開く。
「・・・ま、マナト」
自分の声とは思えないほど小さな声だった。
けれど――
マナト様は一瞬だけ動揺したように目を瞬かせ、その後、ほんの少しだけ頬を赤らめた。
「・・・うん。ありがとう、サナ」
その声は驚くほど優しくて。
“設定のため”と言われたはずなのに、
胸の奥がじわりと熱くなるのを、私は止められなかった。
◇
私たちは、それぞれ戸惑いながらも、新しい生活を進めていった。
子どもを産んだことのない私だけれど、
小さなシンが「母さん」と呼ぶたびに、胸の奥のどこかが、そっと温かくなる。
まるで、本当に母になったような気がした。
そして――
灰色の瞳で優しく「サナ」と呼ばれるたび、
仮初とはいえ、マナトの“妻”になったような錯覚に、胸がふわりと揺れた。
三人の暮らしはぎこちない。
けれど、そのぎこちなさすら愛おしいほど、穏やかで優しい日々だった。
そんな生活が始まって、三週間が経ったころ。
その夜も、私たちは三人でひとつの寝台に横になっていた。
シンは、ふわふわの髪を揺らしながら、コロンとマナト側へ向き直る。
「ねえ、父さん」
小さな声が、静かな部屋の空気を揺らした。
「父さんと母さんは、口づけ、したことある?」
寝台に静けさが落ちた。
「・・・え?」
あまりに突然の言葉に、私もマナトも固まった。
マナトは、まるで矢を受けたみたいに背筋を跳ね上げる。
「きゅ、急に・・・何を聞くんだ?」
「父上と母上は、よく口づけしてたよ」
シンは当たり前のように言う。
その無邪気さが胸に刺さる。
「そ・・・そうなのか」
マナトの耳まで赤くなっていた。
私まで心臓が早鐘を打ち、布団の中の指先が落ち着かない。
「母さん、口づけって・・・いいものなの?」
シンが純粋な瞳で私を見上げる。
「ど、どうでしょうね」
情けないほど、声が上ずった。
視線を上げると、マナトも私を見ていた。
お互い、逸らし方すらわからない。
胸がひどく熱くなる。
シンはそんな大人の動揺を全く気づかず、ふわふわした声で続けた。
「じゃあ・・・二人も、してみたら?」
「し、しない!!」
二人同時に叫んでしまった。
その声に、シンは驚いてまばたきをしたあと――
ふふ、と小さく笑った。
「そっか。恥ずかしいんだね」
恥ずかしいなんて、そんなものではない。
だけど言い返す言葉も出てこない。
夜の静けさの中、
三人の心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。
シンが、すう、と寝息を立て始めた。
つい先ほどまで「口づけ」の話で騒いでいたのが嘘のように、
部屋には静かな夜の気配だけが落ちている。
ふと横を向くと、マナトが眠っていない目でこちらを見ていた。
灰色の瞳が、蝋燭の小さな炎を淡く映す。
部屋は狭い。寝台も狭い。
そして、私たちは――想像していたよりもずっと近い。
シンを寝かしつけようと、そっと手を動かしたその瞬間。
かすかに――マナトの指先に触れた。
「あ・・・」
声にならない息が漏れる。
マナトは気づいていないようだった。
けれど、触れたその一点が熱くて、
私はどうしても手を引くことができなかった。
微かな体温が、布越しに静かに滲んでくる。
私は目を閉じた。
――マナトが、好き。
胸の奥で、そっと言葉にした途端、息が少し震えた。
好き。
でも、それを伝えてはいけない。
女中の私が「好き」と告げても、彼にとっては負担にしかならないだろう。
平和な世が来れば、マナトには身分にふさわしい妻が迎えられる。
私は――その輪の中に入れない。
触れた指先だけが、その現実を優しく、そして残酷に教えてくる。
それでも、少しだけ願ってしまう。
明日も、その先の日々も。
この三人の時間がもう少しだけ続けばいい、と。
◇
それから、私はマナトへの想いを胸の奥に押し込めながら、静かに日々を過ごしていた。
その日、午前中に近くの森でベリーを摘んだ。
帰宅してからのシンは疲れたのだろう。
暖炉の前で横になり、規則正しい寝息を立てている。
私はベリーをジャムにするため、大鍋に火をかけ、ゆっくりとスプーンでかき回していた。
甘い香りがふわりと立ちのぼった頃。
「美味しそうな匂いだな」
背後から、低く穏やかな声がして振り返る。
「美味しいですよ。今日の夕飯に間に合いそうです」
そう答えた瞬間。
「サナ、ここ・・・」
マナトが微笑んで、私の頬に指を伸ばした。
触れたのは、ベリーの赤いかけら。
その距離の近さに、息が詰まる。
指先が頬を離れたのに、そこだけ熱が残ったままだった。
「・・・」
マナトは、言葉もなく、まっすぐ私を見つめてくる。
灰色の瞳に吸い込まれそうで、恥ずかしくて俯いた。
でも――もう一度顔を上げると、マナトの顔がすぐそこにあった。
近い。
息が触れるほどに。
そして――唇が触れそうになった、その瞬間。
コン、コン。
玄関の扉を叩く音が、静かな屋敷に鋭く響き、飛び上がるほど驚いた。
マナトが扉を開けると、深いフードを被った老人が影のように立っていた。
言葉ひとつ発さず、震える手で手紙を差し出してきた。
その封蝋を見た瞬間、胸がざわつく。
――ワスト領の家紋。
「グユウ様からだ」
マナトが小さく呟き、慌てて封を裂いた。
読み進めるにつれ、彼の灰色の瞳から色が消えていく。
私は字が読めない。
それでも、足元が冷たくなるほどの“悪い知らせ”だとすぐにわかった。
「サナ」
深く息を吸ったマナトが、震える声で告げた。
「レーク城が・・・落ちた」
「え・・・?」
声が喉にひっかかった。
「グユウ様と・・・ジムは、自害された」
世界が音を失った。
膝が折れそうになるのをこらえきれず、私はマナトの胸に縋った。
「そんな・・・そんな・・・」
マナトは強く息を吸い、私の肩に手を置いた。
「この手紙はグユウ様が最期に記したものだ。
生活費も隠し場所も、すべて整えてくださっている。
私たちに・・・シンを守り、育ててほしいと書かれている」
震える唇で、それでも真っ直ぐに。
「サナ、その任務を、果たせるか?」
涙で視線が滲んだ。
でも、迷いはなかった。
「もちろんです」
マナトは目を伏せ、震えた息を吐いてから、
「サナ・・・お前は、本当に強い娘だ」
「そんなこと・・・ありません」
声が掠れた瞬間、マナトはそっと腕を伸ばし、私の背を抱き寄せた。
「二人で育てよう。私とサナで、シンを守りきろう」
「・・・はい」
顔を上げると、マナトの瞳は赤く滲んでいた。
その近さに胸が跳ねたが、今はただ、その温度が心に沁みた。
そのとき――
じっとした視線に気づいて振り返る。
シンが、暖炉の前で興味津々と言う表情で私たちを見つめていた。
「口づけは、まだ?」
私とマナトは弾けるように離れた。
「し、しません!」
二人の声が重なり、シンはきょとんと目を瞬いた。
「お腹がすいた」
シンは無邪気に話す。
ーー父親が亡くなられたことは内密にしよう。
私はマナトと視線で会話をして、頷いた。
◇
城が落ちて数週間。
敵軍は跡取りであるシン様を捜し続けているという。
私とマナトは、薄氷の上を歩くような毎日だった。
毎晩、三人で寝台に身を寄せるたび――
「今日も、生き延びられた」その実感が胸を撫でた。
そんな日々が、一ヶ月ほど過ぎた。
その日は、よく晴れた秋の昼だった。
私は繕い物をしており、マナトは剣の手入れをしていた。
暖炉の前で寝転んでいたシンは、甘えるように言った。
「お腹すいた。ジャム、食べたい」
その声に弱い私は、パンにベリーのジャムをたっぷり塗って手渡した。
「マナトもいかがですか?」
「あぁ」
三人で囲む穏やかな時間。
ーーずっと、こうしていられたら。
ほんの一瞬、そんな願いを抱いた。
その時だった。
外で、木が裂けるような大きな音がした。
次の瞬間――屋敷の扉が荒々しく蹴り破られた。
「ここにいたぞ!!」
怒号。
兵が一斉になだれ込む。
私は息を呑み、反射的にシンを抱きしめた。
「母さん」
震え声が耳元で小さく揺れる。
「大丈夫、大丈夫よ・・・シン、動いちゃだめ」
自分の声がわずかに震えていた。
マナトが即座に前へ出て、私たちを庇った。
「サナ、後ろへ」
剣に手を伸ばした瞬間、背後から押さえつけられ、床に叩きつけられた。
「くっ・・・!」
剣は床に転がり、乾いた音を立てた。
兵の一人がシンを見つけ、口の端を歪めた。
「子どもがいるな。こいつが跡取りか」
「やめて!!」
足が震えていても、前に出ることだけは迷わなかった。
「離せ、女!!」
乱暴に肩をつかまれ、後ろへと投げ出される。
シンは泣き叫びながら、必死に私へ手を伸ばした。
「母さん!!」
「シン!!」
私は床に手をつき、爪が割れようとも構わずに這い寄る。
兵がシンを抱き上げ、奥の部屋へ連れて行こうとする。
「いやだ!! 行かないで!! シン・・・っ!」
叫んでも、泣き叫んでも、小さな身体は遠ざかっていく。
「母さんーー!!」
宙を掴む小さな手が、視界の中でもがいた。
「やめろ!!」
押さえつけられているはずのマナトが叫んだ。
床に押し付けられたまま、血がにじむほど抵抗する。
「シンに触るな!! やめろッ!!」
だが頭を押さえつけられ、動けない。
その時だった。
「ほう・・・うまく隠し通したものだな」
甲高い声が部屋に響いた。
小柄な男が、兵を従えて入ってくる。
ギョロリとした目だけが異様に大きく、その視線がねばつくように私とマナトを舐めた。
「セン家の跡取り・・・処刑は決まりだ。血は絶たねばならぬ」
私は喉が裂けるほど叫んだ。
「お願い、シンを傷つけないで!どうか・・・どうか・・・!」
涙で視界が霞むのに、男は薄く笑うだけだった。
「無理だな。子は殺す。女、お前はわしの陣へ来い」
そう言って、あろうことか私の胸元へ手を伸ばした。
「金もやる。可愛がってやるわ」
背筋が凍りつき、吐き気が込み上げた。
「私も!!」
気づけば叫んでいた。
「私もシン様と過ごさせてください! 最後まで!!」
「死ぬかもしれんぞ?」
「構いません!!」
シンとマナトと離れるほうが、よほど恐ろしかった。
男が鼻で笑おうとした時――低く、重い声が空気を裂いた。
「キヨ、そこまでだ」
部屋の奥から現れたのは、威厳に満ちた大柄な男だった。
「ゴロク? ここを見つけたのはわしの手柄だ!」
小柄な男が不満げに叫ぶが、ゴロクは相手にしない。
彼はまっすぐにシンの運ばれた方を見つめ、静かに言った。
「セン家の後継だ。最後まで誇りを持って逝けるよう、整えてやれ」
そしてゆっくりと私とマナトを見つめる。
その視線には、先ほどの男とは違う人としての情が、ほんの僅かに滲んでいた。
「二人とも来い。別れの時を与えてやる」
◇
薄暗い部屋に連れてこられたシンは、
小さな足を震わせながら必死に立っていた。
処刑人たちは無表情に並び、その奥でゴロクが低く告げる。
「最後の言葉を許す」
シンは驚いたように顔を上げ、次の瞬間、私たちの方へ小さく駆け寄った。
兵に腕を掴まれながらも、小さな手を胸元でぎゅっと握りしめている。
「・・・母さん、父さん・・・」
震える声。
胸が締めつけられる。
「シン、最後まで、一緒よ」
私はその身体を抱きしめた。
マナトも膝をつき、幼い肩を強く抱き寄せる。
「私も最後までシンといる」
その覚悟の声に、シンの瞳がわずかに揺れた。
兵たちは私たちを同じ馬車に押し込み、処刑場へ向けて乱暴に扉を閉じた。
◇
馬車の揺れの中、シンは急に大人びた顔で問いかけた。
「父上は死んだの?」
マナトは痛みを押し殺した声で答える。
「はい。領主として、立派な最期だったと聞いています」
シンはそっと目を伏せた。
「・・・母上と妹たちは?」
答えられずにいる私たちを見て、背後からゴロクが静かに口を開いた。
「生きておる。妃と姫は無傷だ」
「そう・・・よかった・・・」
安堵したように息を吐き、しかし次の言葉は小さく震えていた。
「それなら・・・ぼくも父上のように・・・立派に」
「いや!」
私は反射的に叫んでいた。
「そんなこと・・・言わないで!」
ーー聞きたくない。
五歳の子供の覚悟なんて。
「サナ・・・」
マナトが唇を噛みしめる。
するとシンは、ぎゅっと拳を握りしめて言った。
「父さん、これを母上に渡して」
小さな掌から、布袋が転がり落ちた。
驚くほど軽い袋。
「これは?」
「父上と母上の髪の毛。城を出る前に、母上が渡してくれたの」
マナトは手を震わせながら、その袋を受け取った。
シンは続けてゴロクを見上げる。
「僕の髪も切ってください。父上と母上と・・・一緒に入れたい」
ゴロクは無言で短剣を抜き、
シンの鳶色の髪をそっと一房切った。
「母上に渡して。いつも一緒だよと伝えて」
小さな髪束がマナトの手の上に落ちる。
私は思わず手を伸ばした。
「わ、私にも・・・シンの髪を」
ゴロクは黙ってもう一房切り、私へ差し出した。
シンは私たちをまっすぐ見つめ、小さな笑みをこぼした。
「父さん、母さん・・・これで、ずっと一緒だよ」
その瞬間、馬車が止まった。
「着いたぞ」
ゴロクの声。
シンはまっすぐ前を見据え、最後に深く頭を下げた。
「父さん、母さん・・・ありがとうございました」
その言葉と同時に、
兵がシンの肩をつかみ、後ろへ乱暴に引き離した。
「シン!! 待って!!」
私は馬車の床に崩れ落ち、必死に手を伸ばした。
かすめた袖は、あっという間に遠ざかっていく。
「いやだ!!シン!!!お願い!返して・・・返してよ・・・!!」
泣き叫んでも、兵は振り返らない。
小さな影が扉の奥へ消えた瞬間、膝から力が抜けて崩れ落ちた。
「サナ!」
押さえつけられていたはずのマナトが、
身体を引きずるようにして私のそばへ来る。
私は泣きながら扉へ手を伸ばした。
「いや・・・いや、シン!」
その手を、マナトが強く抱え込む。
「サナ、耳を塞げ」
低く、震えた声だった。
次の瞬間、マナトは私に覆いかぶさり、大きな手で両耳をふさぐ。
「マナト? やだ、離して・・・シンが!」
「サナ・・・頼む」
その声は、今まで一度も聞いたことのないほど苦しかった。
耳を塞がれた世界は、
波の底に沈んだように、ただただ静まり返る。
なにも聞こえない。
なにも聞かせてくれない。
でも――わかってしまう。
頬を伝う涙が、マナトの肩を濡らす。
覆いかぶさるマナトの身体は小刻みに震えていた。
触れた胸元から、押し殺した嗚咽が伝わる。
静かすぎる沈黙。
永遠のような時間のあと――
マナトは、そっと手を離した。
「・・・シンは」
それ以上の言葉は続かない。
喉につかえた痛みだけが震えていた。
私は唇を噛み、
シンの髪の毛が包まれた小さなハンカチを胸に抱きしめる。
「守れなかった・・・」
堰を切ったように、マナトの瞳に涙が溢れた。
私はその胸に顔を埋めた。
声にならない息が震え、
二人の身体は寄り添ったまま動けなかった。
三人で生き延びるはずだった。
三人で・・・家族になるはずだったのに。
静まり返った沈黙の中、
私たちはただ、お互いの温もりにすがるしかなかった。
◇
私たちは、何も言葉を交わせないまま屋敷へ戻った。
扉を開けた瞬間、胸の奥がずしりと沈んだ。
そこには――
シンが座っていた小さな椅子。
食べかけのパン。
ベリージャムの、乾ききらない赤い跡。
まるで、ついさっきまでここにいたかのように。
私はふらりと歩み寄り、椅子に手をかけた瞬間、
膝が崩れ落ちた。
「あんなに・・・ジャムが好きだったのに」
声が震える。
「もっと・・・もっと食べさせてあげたかったのに!」
涙が止まらず、床を濡らす。
「シン・・・シン、シン・・・!」
返事はない。
あの子の声も、温度も――全てが突然奪われた。
「どうして・・・どうしてなの!」
床に伏して泣き続ける私の背に、
静かに名前を呼ぶ声が落ちてくる。
「サナ」
振り返ると、マナトが立っていた。
瞳は真っ赤に染まり、今にも崩れそうなのに、
それでも――まっすぐ、私だけを見ていた。
「シンを失って、もう、何も守れなかったと思った」
彼はゆっくり跪き、震える手で私の手を包む。
「だけど・・・サナ。お前が泣いているのを見て、気づいたんだ」
息が止まる。
「私は、あなたを失いたくない」
その瞬間、マナトの表情が崩れ、そっと私の頬に手が触れた。
涙の跡を、一本一本なぞるように拭いながら――
「私は明日から、ゴロク様に仕えることになった」
「え・・・?」
胸がきゅっと締まる。
「グユウ様が、死の間際に感状を残してくださった。
そのおかげで、ゴロク様の家臣になれる」
――この生活が終わる。
マナトは、遠い人になる。
「それなら・・・私は女中として、マナトの館で・・・」
震える声で言いかけると、マナトは柔らかく首を振った。
「女中ではない」
灰色の瞳がまっすぐ私を射抜く。
「私の妻として――そばにいてほしい」
「え・・・」
心臓が跳ねた。
「私は・・・あなたのそばにいる立場では・・・」
「立場なんてどうでもいい」
マナトの声が低く震える。
「サナ。 お前がそばにいてくれたら・・・私は、どんな運命でも耐えられる」
涙があふれた。
「だから・・・側にいてほしい。私の・・・妻になってほしい」
屋敷の静けさに溶けるように、プロポーズの言葉が響いた。
「・・・いいのですか? 本当に?」
「サナじゃないとダメなんだ」
その言葉で、胸の奥がほどけた。
「マナト・・・!」
私は彼の胸に縋りつく。
震える腕が、強く私を抱きしめた。
「ずっと、口づけをしたいと思っていた」
マナトは私の頬を両手で包み、そっと問いかけた。
「・・・いいか?」
蝋燭の炎が揺れ、部屋が静まる。
私は涙をこぼしながら、小さく頷いた。
そして、二人の距離が――静かに、確かに縮まった。
マナトがそっと私の手を握った。
「サナ。一緒に、生きよう」
その一言は、胸の深い場所に落ちていく。
シンの小さな靴。
食べかけのパン。
笑い声の余韻。
どれも消えないまま心に残り続けるだろう。
けれど――
痛みを抱えたままでも、生きなくてはいけない。
傷を抱えたまま、泣きながら、支え合いながら・・・
「・・・生きましょう、マナト」
私は立ち上がる。
涙の跡がある顔のままで。
小さな灯りを掲げ、
二人で、これから歩む道を照らした。
それが、あの子が遺してくれた
“生きよ”という願いに応える唯一の方法なのだから。
お読みいただきありがとうございました。
この短編は、連載本編で描ききれなかった
サナ・マナト・シンの「三人だけの物語」です。
本編では、
第一部197話でマナトが初めてシンを託される場面が描かれ、
第二部ではシンが遺した髪の小袋がシリに届く場面があります。
ただ、その二つの出来事のあいだにある
“三人が過ごした日々”は、本編では語れませんでした。
この短編は、その欠けていた部分を埋めるための物語です。
もし三人の時間を気に入っていただけたなら、
本編も楽しんでいただけると思います。
▽第一部
――シリとグユウ、家族の物語の始まり。
*『秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜』**
https://book1.adouzi.eu.org/n2799jo/
<完結>
▽第二部
――戦の行方と、シンが遺した想い。
*『秘密を抱えた政略結婚2 〜娘を守るために、仕方なく妾持ちの領主に嫁ぎました〜』**
https://book1.adouzi.eu.org/n0514kj/
<完結>
どちらから読んでいただいても大丈夫です。
この短編が、物語世界に触れていただく入口になれば嬉しいです。




