065
ロス・マオラ城へと戻った修太郎。
六人の魔王が待つ王の間へと向かう。
召喚士への転職は無事完了。
魔王全員を含めた職業概要の共有や〝何ができて今後どうしていくべきか〟などを決めることとなる。
「剣術と体術、攻撃スキル三つは引き継ぎができたんですね。これは嬉しい誤算です」
「うん! バートとの特訓が全部無駄にならなくて良かった!」
安堵したように微笑む金髪の騎士。修太郎も嬉しそうに答えた。
片手剣術のスキルが引き継ぎできたことにより、追随して攻撃スキルを3つ引き継いでいる。これにより、修太郎は普通のレベル1のプレイヤーよりも破格の戦闘能力を有した状態となっていた。
今後について――
この場を仕切るのは執事服。
「主様に他の人々から情報を仕入れていただきながら、四大精霊の祈りを破壊しヴォロデリアに近付く――というのが、今後の目標となりますね」
本に羽ペンを走らせながら言うエルロード。
「主様。その、召喚士というのはどんなものなんでしょうか。我々はどのような形でお力になれますか」
白の少女が恐る恐る尋ねる。
修太郎は受付NPCからの説明をそのままの形で魔王達に伝え始める。
召喚士は〝契約〟をした魔物を呼び出し使役する職業であり、装備できる武器は片手剣、盾、片手杖、大杖、魔本のいずれかである。基本的に召喚士自体の役割は攻撃魔法職であり、ステータスの伸びもMAGが一番である。
召喚士が召喚できる最大数は例外を除き5体までである。理由はパーティ最大人数が6であるから。
加えて、召喚士は最初から5体全てを使役できるわけではなく、レベルが上がるにつれ、職業が昇級するにつれ増えていく。
レベル1の現在、修太郎が呼び出せる召喚獣は〝1体〟である。
もちろん魔王達をはじめプニ夫などもダンジョンに属しているためその制限に当てはまらないのだが、今回はプレイヤー達に溶け込むのが目的であるため下手に数が増やせない――という問題があった。
「つまり我々の中でも当面付いて行けるのは一人だけ、という事になりますね」
エルロードがそう言って考え込む。
巨人は不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「恐れながら主様。以前外界に同行したバンピーとセオドールと今回同行したエルロードは召喚獣として扱うのは危険かと考えます」
「なぜ?」
その言葉に強く反応するバンピー。
白く禍々しい光が体を包んでいる。
場が一気にピリつく――
しかしガララスは余裕の表情を崩さない。
「ほう、考えもしなかったようだな。主様が黒の鎧を纏った際に一緒にいたということは、他の者に見られた可能性があるということ。ならば主様が素顔のまま行動する場合、それを見ていた者が吹聴するやもしれん。同行させるわけにはいかんだろう」
勝ち誇ったように語るガララス。
バンピーは唇を噛みながら「家臣の入れ知恵ね」と心の中で悪態をついた。
それを聞いたバートランドが軽薄そうに笑う。
「といっても、ガララスの巨体じゃ建物内までは主様をお守りできないけどなァ」
「……」
無言で睨みを利かせるガララス。
黙っていた黒髪の騎士が短く云う。
「それについてだが、私は〝人化〟を解けば同行も問題ないだろう」
「人化?」
修太郎が興味深そうに聞き返す。
セオドールは目を伏せたまま、頷いた。
「見てもらうのが早い」
と、立ち上がるセオドールの体が光に包まれ、その場に巨大な黒竜が羽ばたいた。
圧倒的な威圧感、存在感。
びりびりと空気が震える。
セオドールは竜族の王――
知能の高い魔物は人の形を取るスキルを持つ。それはもちろん、セオドールも例外では無い。
巨竜が降り立つ。
見る者全てに恐怖と敗北感を与える圧倒的な強者のプレッシャー。
しかしそれは、彼の身体が小さくなるにつれ徐々に収まってゆき、およそ20センチ程の未熟な竜の形となると、そこには愛くるしさのみが残された。
ぱたぱたと宙に浮くチビ黒竜。
「すっげええ!! セオドールって竜だったんだ! それに大きさも変えられるんだね!」
「形状変化とは違い、人型か巨竜かチビ竜にしか成れないが、人型にならないのなら同行も可能だろう?」
金の瞳でガララスを見る黒竜。
体の大きさを変えるスキルの類を持たないガララスは、今まで感じなかった不便さを己の巨躯に感じたのだった。




