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フラメが口を開く。
「黄昏の精鋭達が参加となれば今後の攻略がグッと楽になりそうです……本当に協力感謝致します!」
泣きそうな顔で感謝の意を伝えるフラメ。
チラリとカゴネへと視線を向けた後、フラメはそのままの調子で続けた。
「久々の戦線復帰で調整も必要だと思います。急かす気はありません、我々がシオラ大塔を制覇した後に頃合いを見て合流するのはどうでしょう?」
カゴネはフラメの意図を察したのか、涙を堪えながら小さく頷いている。
黄昏の冒険者にとってシオラ大塔は越えなければならない壁であると同時に、大きなトラウマそのもの。
シオラ大塔攻略に参加させるべきではない。トラウマを無理に克服する必要はない――と、フラメはそう考えていた。
デスゲームになってからというもの、プレイヤーは日常では到底体験できないような大きな恐怖に晒される機会が増えた。恐怖に打ち勝ち、強く前へ進むミサキのような例は本当に稀で、恐怖に取り憑かれ未だ引きこもりをするプレイヤーは多く存在する。
精神を病んでいた時期が長い白蓮についても同様だ。それを簡単に克服できるほど人間というものは強くできていないのである。
「……」
沈黙する白蓮。
同盟を組んでいれば重要アイテムの共有も可能。紋章がシオラ大塔を攻略し、後にセルー地下迷宮の鍵を手に入れれば黄昏も同じようにセルー地下迷宮に同行できるのである。
だから無理に塔へ行かなくてもいい。
もちろんそこには計算もあった。
が、フラメなりの気遣いでもあった。
現にカゴネはフラメに感謝していた。
「黄昏の皆さんにはシオラ大塔攻略から参加していただきたいです」
その一言に場が騒然となる。
発言したのはワタルだった。
黄昏のメンバー達はそれに反論できない――それは、紋章との同盟なくして黄昏の再起は難しいと理解しているから。
困ったようにフラメが反論する。
「いきなりあの場所にっていうのは少し酷じゃないですか? せめて、せめてケンロン大空洞辺りで勘を取り戻してもらってからでも……」
「前のエリアで調整することに関しては賛成ですが、黄昏の皆さんはシオラ大塔を攻略すべきだと思います」
確固たる意思でそう言い放つワタル。
カゴネが恐る恐るな様子で口を開く。
「確かにあの場所に行くとなると、その、皆様にも迷惑が掛かるかもしれません……ただでさえ命が掛かった最前線ですから……」
すでに二つのギルドによって攻略されたエリアではあるが、腐っても最前線だ。戦闘の連携は極めてシビアで、少しのミスも許されない。
しかしワタルは厳しく首を振った。
「過去を引きずったままのギルドが、この先本当に進んでいけますか」
「!」
「確かに我々は生まれながらの兵士ではありません。平和な世界に生まれ、普通に生きて、突然理不尽な世界に落とされた被害者です。何人も死にました。これからも死者は増えていきます」
ざわつき声がピタリと止んだ。
ワタルは気にせずに続ける。
「この先、この中の誰かも戦いの中で死ぬかもしれない。それでも我々は立ち止まるわけにはいかない。その死を越えて、その敵を討って進まなければならない。ここで一度でも別の道から進めてしまえば、今後本当に辛い時に必ず別の道を探してしまう」
黄昏のメンバー達は葛藤していた。
自分達の大変さを知らないだろうワタルの主張。散っていった仲間達を否定されるような感覚に、軽い怒りを覚えた者も少なからずいた。
しかしその者達もハッと思い出す。
かつて、自分達よりも遥かに理不尽な状況に晒されたアリストラスを、ひとつのギルドが命を賭して守ったことを。その時の彼等には立ち止まることも、別の道を探すことも許されなかったのだから。
「我々は黄昏の冒険者と合同でシオラ大塔を攻略します」
確固たる意思でそう告げるワタル。
皆が押し黙る中、白蓮が口を開いた。
「ギルド間連携の練習がしたい」
その返答に、ワタルが小さく微笑む。
「うちに安心して背中を預けられるくらいじゃなきゃ、真の同盟なんて言えないもんね」
それを合図に沸き立つ黄昏のメンバー達。
ワタルは集まったメンバーに指示を飛ばす。
「予定を変更します。攻略の日にちをずらし、しばらくのあいだ黄昏の冒険者との連携強化に充てます! ここにいる皆で必ずシオラ大塔を攻略し、セルー地下迷宮も攻略して、皆に希望を見せたい――どうか力を貸してください」
ワタルの言葉にメンバー達は武器を掲げ雄叫びをあげる。
これは単にシオラ大塔を攻略するだけの戦いではない――紋章と黄昏が互いに守り合い、進めるかどうかの戦いでもあった。




